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07 君と俺の楽しい会合 後編 Side.悠


 いつもと同じ時間、見慣れた景色。

 帰宅途中にそれは起こった。



(……昨日はとんでもないものを目撃してしまった)


 今日一日まともに啓ちゃんの顔を見る事が出来なかった。ついでに言えば、陽太の顔も。

 これから自分はどういった立ち位置で行けばいいのかを考えながら悠は歩く。そして気付いた。不自然に自分の動きと一致する、自分以外の足音に。

 これはもしやストーカー!? なんで俺? なわけないか。などと内心で色々な事を思いながら振り返った。

 男と眼が合う。思った以上に近い距離で。


「おい、ちょっと面借せよ」


 がしっと肩をつかまれて、哀れ悠は誘拐された。



*****



「啓ちゃーん、もっと穏便にしてほしかったなぁー」


 連れて来られた先は人気のない喫茶店。悠は無理やり引きずられてちょっと痛い肩をまわしながら文句を言った。

 誘拐犯もとい啓ちゃんは向かいに座って、にやにやと笑いながらコーヒーを飲んでいる。


「いいだろ? 別に大した怪我じゃない」

「先生なのに、学校抜け出して良いのかよ?」

「生徒が教師の心配なんかしなくていいっての。ま、今日はもともと用事があって、この時間に帰ることは決まってたし。特に問題ない」


(なんとなくいつも学校で接している啓ちゃんとは違う)


 そう思いながら、コーヒーカップを置く啓ちゃんを見る。その視線に気づいたのか、啓ちゃんは手元を見ていた眼をこちらに向けて、そしてニヤリと表現するのがぴったりな表情を見せた。


「お前、スーパーに行ったろ? 昨日の夜」

「……」


 ばれてる。

 まず頭を回ったのはその事。知らないふりをするべきか、否か。ここまで確信をもった言い方をされたのだから、言い訳をしない方が無難かもしれない。


「……いた」


 思った以上に声は出ない。なんとなく気まずい。例えるなら、友達の彼女の浮気を目撃して、その彼女と目が合っちゃったような気分。実際にそんな場面に遭遇したことはないけど。

 啓ちゃんはぽかんとした表情で、悠の顔をまじまじと見た後、堪えきれないというように笑い出した。


「おっ前、なんて顔してんだよ」

「は?」


 悠には、自分がどんな表情をしているかまったく意識していなかった。ただ、啓ちゃんの反応から、情けない表情だと言うのは想像がついたが。


「おねしょがバレた子供みたいな顔」

「は!?」

「俺と理紗って、結構長い付き合いなんだよ」


 おねしょ。なんだか分からないけど、ものすごい嫌だ。

 そう思うこちらの心境などまるで気にせず、啓ちゃんは話し出した。その中のひとつの言葉に引っ掛かりを覚える。……理紗。理紗って言った!


(よ……呼び捨てだ)


 しかも、結構長い付き合い。

 どのくらい長いのかは分からない。けれど、陽太と理紗さんの同居生活が始まる前にはすでに知り合っているような気がする。カンだけど。


「なぁ、陽太って、理紗の事好きだろう?」


(よ、陽太、ばれてるよ! たぶんそうだと思ったけど、やっぱり!!)


 やっぱり周りにはバレバレだった。まぁ、あれだけあからさまだったら当然か。

 啓ちゃんがすごい腹黒く見える。絶対、こっちが本性だ。詐欺だ。今まで隠されていたその部分が浮き彫りになりすぎて、ものすごい動揺する。


「おい、磯谷。隠そうと思っても無駄だぞ。理紗経由で知ってっから。これは、お前も知っている、という事実の確認だ」


 理紗経由(イコール)理紗さんにもばれてる。


(やっぱりあのほのめかす表現は大胆すぎたんだよ!)


 その前に、何で俺がこんなに追い詰められてるの!? 実際のところ、俺って関係ないじゃん!

 内心冷や汗だらだらの状態でどう答えたもんか、と視線をさまよわせる。一応、陽太の親友を自負している。限界までははぐらかしてやろう! と抵抗する決意を固めたが。


「知ってるんだろう?」

「……知ってる」


 その決意は一瞬で崩れ去った。そして下手な抵抗は抵抗にすらならなかった。ここまで知ってる相手に対して、抵抗しようと思うところからして無謀だったのかもしれない。


「あ、安心していいぞ。理紗との付き合いは長いが、恋愛感情はお互いこれっぽっちもないから」

「そーっすか」


 色々と聞きだしてくるが、何をしたいのかわからない。

 ここにきてようやく啓ちゃんに対して不信感をあらわにした悠は、それをそのまま表情に出して啓ちゃんを見つめる。啓ちゃんはそれを面白そうに見やって。


「お前、俺に色々情報流す気ない?」

「……陽太の?」

「そう。あいつらじれったいから、ちょっと俺が遊んでやろうかと思って」


 うわぁ、最低。

 他人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら。この言葉をぜひ啓ちゃんに進呈したい。した瞬間、笑顔でコーヒーをぶっかけられそうだけど。


「流さないよ。啓ちゃん、そんなに腹黒かったっけ?」

「俺、地はこんなだよ。良いじゃん、流せよ。先生のお願いだぞ?」

「てゆーか、今までだって散々引っ掻きまわしといて、これ以上すんの? やめろよー。余計じれったくなるじゃんかー」

「するに決まってんだろ? 俺が楽しめるじゃないか」


(き、鬼畜だ! 鬼畜がここにいる……。すごいな、鬼畜って……)


 って違う!! 感心してる場合じゃない。

 これ以上は本格的に陽太が暴走するかもしれない。何とか阻止してやりたいけど。


「ん? 協力するんだろう?」


 無理っ。

 ……ごめん、陽太。俺は進んで協力する。

 輝かしい笑顔でこちらを見る啓ちゃんの背後に悪魔が見える気がした。



5/7 修正

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