文化祭マジック? おまけ Side.悠
名前の知らない男性が理紗さんを追いかけていった。
啓ちゃんはそれを面白そうに見ている。
「……これでこじれたらどうすんだよ」
悠は啓ちゃんに愚痴るような口調で言った。あまり強い口調にならなかったのは、今更何を言っても遅いと分かっているから。
「保健室で何があったか分かるんだ?」
「見たわけじゃねーけど、たぶん谷が愛の告白をし」
「理紗さぁぁぁん!!!!!」
悠の言葉は途中で遮られた。
昇降口に目を向ければ、陽太が谷を腰にぶら下げながら走ってくる。
谷は、陽太を逃がさない、とでもいうように腰にがっちりと腕を巻きつけ、しかし陽太の動きについてこれなかったのか、身体は引きずられている。
言ってしまえば、ものすごい滑稽な光景だった。
「「……」」
あんまりな登場の仕方に、流石の啓しゃんも絶句している。
二人で呆然とそれを眺めているところで、陽太がこちらを見た。
目が合った瞬間に、陽太の表情が悪鬼のように気迫に満ちて、相変わらず谷を引きずったままこちらへにじみ寄ってくる。
ものすごい怖い。
「理紗さんは?」
「は……」
「理紗さん、どこに行ったんだよ!?」
こんなに焦る陽太を見るのは初めてかもしれない。
いつもだって、啓ちゃんにからかわれて焦っていたけれど、それとは比べ物にならない。
陽太のそんな様子を驚きながら見ている横で、啓ちゃんが「行き先は知らないけど、帰ったんじゃないのか?」と無責任な事を言った。
「……っ、離せよ!!!」
いっそ理不尽に思うくらいな力加減で、必死でしがみついていたらしい谷をあっけなく離した。
その反動で、谷は地面に転ぶが、陽太はそれを確認もせずに校門へ向かっていった。
普段の陽太は、女子に対して愛想はあまり無いけれど、ここまで乱暴な事はしない。
谷は、目に涙をためて、校舎の中へ逃げていった。
「……どうすんだよ、啓ちゃん」
「俺の予想の斜め上をいくような事が保健室で起こったらしいな」
「どうすんだよ!? 谷とか、陽太の事も、理紗さんも!」
「俺はどうもしないね。結局は当人たちがどうにかするしかないだろ?」
無責任な発言だ。
(白水啓祐という男は、教師に向いてないんじゃないだろうか……)
悠は、ここにきて漸くその事実に気がついたのだった。
啓祐が教師に向いてない、というのはあの性格であって、
教師としての仕事ぶりは結構有能です。
それに加え、本性(というか性格)は普段は隠しているので、周りからはこれほど教師に向いてる人間は白水先生くらいですよ!
とか思われています