表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/32

羅刹の謎

 葵と篠原が話している間、羅刹の男達は間合いを詰めながら、二人を取り囲み始めていた。

「連中、葵の発する鬼の行の気に気圧けおされてるんだよ。その理由は、オヤジ殿から聞いた」

 篠原は時々羅刹達に威嚇をしつつ、葵に告げた。

「父に? 何を?」

 葵は訝しそうに篠原を見た。篠原は葵を横目で見て、

「羅刹の歴史は鬼の行より古いらしい。鬼の行が宗家の古文書に出て来るのは、戦国時代だそうだ。天一族の事は、それよりも前から綴られているんだってさ」

 遂に羅刹の一人が鬼の行の気を発していない篠原に襲いかかって来た。

「おっと!」

 篠原は葵の右胸を揉んだ。

「何してるのよ!?」

 葵が激怒して篠原をビンタすると、篠原に襲いかかって来た羅刹が後退あとずさった。

「ほらな」

 篠原は葵にビンタされた左頬を撫でながら苦笑いをした。葵は羅刹の反応にハッとした。

「これはオヤジ殿の仮説に過ぎないんだが、天一族の羅刹に対抗するために、時の宗家の長が生み出したのが、鬼の行なのではないかと」

 篠原は更に続けた。葵にはにわかに信じ難い話だった。

「羅刹に対抗するためのものだったから、その後、鬼の行は生み出した長の想像以上の技になってしまい、禁じ手になったのだろうという事だ」

 葵はまた仕掛けて来た羅刹を威嚇して追いやると、

「なら、勝てるって事?」

 篠原を見た。篠原は肩をすくめて、

「現に連中、明らかに葵を恐れているだろう?」

 葵は羅刹が篠原にしか攻撃を仕掛けないのを感じ取り、玄内の仮説を無下にできなくなった。

「だったら!」

 葵は鬼の行の気を更に高めた。羅刹の男達は恐れおののき、一旦離れた。

「あんた達には恨みはないけど、倒させてもらうわ!」

 葵は反転攻勢に出た。羅刹達のうち二人は葵の鬼の行の気を恐れ、なす術なく葵に倒されてしまった。

「呆気ない……。何、これ?」

 葵は拍子抜けしていた。三人の羅刹は葵から逃げてしまった。

「あれ?」

 葵は倒した羅刹の二人の気が変わったのに気づいた。

(妙だ。この二人から、羅刹の気が跡形もなく消えている)

 葵は眉をひそめた。

「どうした?」

 篠原が尋ねた。葵は倒れている羅刹を見たままで、

「こいつらから羅刹の気が消えているのよ」

「消えている?」

 篠原はキョトンとした。

「葵お姉さん!」

 そこへ美咲と茜が戻って来た。

「羅刹はどうし、あ!」

 茜が倒れている羅刹の二人を見て叫んだ。

「凄い! 二人も倒したんですね! さっすが、葵お姉さん!」

 茜の露骨なよいしょに葵は半目になった。美咲は苦笑いをしている。

「白々しいわよ、茜。そんな事でボーナスの査定は変わらないからね」

 葵は茜に告げると、羅刹を追いかけた。

「ええ!?」

 自分の魂胆をすっかり見抜かれていた茜は驚愕し、その場で硬直した。美咲はくすくす笑っていたが、篠原と目配せすると、葵を追った。

「ああ、待ってください、皆さん!」

 茜は再起動すると、葵達を追いかけた。

「どうしたんだ、葵?」

 篠原は葵が何かに気づいたのを察して、声をかけた。

「羅刹の縛りが解けた炎堂も、気は消えたけど、あの二人は羅刹のままで気が消えていたのよ。妙でしょ?」

 葵は前を向いたままで応じた。

「どういう事だ?」

 篠原はピンと来ない。葵はふんと鼻を鳴らして、

「残りの三人が二人の気を吸い取ったって事よ。これは思った以上に厄介かもよ」

「つまり、残りの三人はより強くなっている可能性があるって事か?」

 篠原はギョッとした。それを聞いていた茜が、

「それってやばくないですか?」

 震えながら問いかけて来た。

「やばいわよ。怖かったら、帰っていいわよ」

 葵の反応は冷たかった。茜は何かを察して、

「何言ってるんですか! 帰る訳ないですよ! 私も水無月宗家の者ですから!」

 真顔で言い返した。

「なら、ついて来なさい」

 葵は走る速度を上げた。篠原も美咲も速度を上げた。

「ああ、速いですよお、葵お姉さん!」

 茜は必死になって葵達を追いかけた。

「それから、羅刹になったら、誰彼構わず殺すと言われていたのに、何故かあの五人は私達だけに襲いかかって来たわ。炎堂は羅刹の事を調べて、思い通りに動かす事を会得したのかもね。しかも、それをレクチャーして、新たな羅刹を生み出す事にも成功している。更に、複数の羅刹を誕生させると、一人がその力を全て吸収する事によって、爆発的に強くなる事もわかったと思われるわ」

 葵の言葉に篠原は深刻な表情になり、

「だとしたら、早めに追いついてケリをつけないとまずい事になるな」

「ええ。そうね」

 葵は前を向いた。そこに三人の羅刹がいた。

「最初に出会った時より、気の強さが増している。さっきのような訳にはいかないみたいだな」

 篠原は羅刹の三人の闘気を感じて、歯軋りした。

「もうこれ以上強くはさせない!」

 葵が仕掛けた。羅刹達は葵から離れ、取り囲もうとした。

「美咲、お願い!」

 葵は美咲を見た。

「わかりました!」

 美咲は近くに生えている木を根元から抜き取ると、羅刹達に向けて振り回した。羅刹達は美咲の突拍子もない攻撃に驚き、大きくかわした。

「動き過ぎよ!」

 そこへ茜が走り込み、羅刹の一人に飛び蹴りを見舞った。羅刹はそれを防御する事なく受け、地面を転がった。

「やったあ!」 

 茜はガッツポーズをしたが、別の羅刹が彼女に襲いかかっていた。

「きゃあ!」 

 茜は羅刹に組み敷かれ、首を絞められた。

「くうう……」

 茜の顔色が変わった時、美咲が木を振り下ろして、羅刹を叩きのめした。茜は羅刹の手が緩んだのを見逃さず、素早く抜け出した。もう一人の羅刹は、葵に詰め寄られ、後退していた。茜に蹴られた羅刹が援護に入ろうと葵の背後に回った。

「おっと、もう一人忘れちゃいませんかって!」 

 篠原がその羅刹にタックルして倒し、スリーパーホールドで締め上げた。ところが、羅刹は篠原の腕に爪を突き立て、

「ぐあっ!」

 篠原が思わず力を抜いたので、後頭部で頭突きを繰り出した。

「がはっ!」

 篠原は鼻にそれを受け、鼻血を噴いて仰け反った。羅刹は篠原から離れると、葵に向かった。

「くそ!」

 篠原は鼻血を右手の甲で拭うと、羅刹を追いかけた。

「終わりよ!」

 葵は羅刹を追い詰め、ハイキックを繰り出した。羅刹はそれを顔面に受けて後ろに倒れた。

「よし!」

 葵は次に迫って来た羅刹に向き合った。ところがその羅刹は葵を無視して、倒れた羅刹に近づいた。

「しまった!」

 葵はハッとして羅刹を追いかけた。羅刹は倒れた羅刹に近づくと、気を吸い取った。途端にその羅刹の闘気が増幅した。

「くっ!」

 力を増した羅刹は葵に後ろ回し蹴りを放った。葵はすんでのところで交わすと、飛び退いた。

(まずい……。また強くなってしまった……)

 強くなった羅刹は葵に飛びかかるかと見せかけ、美咲が倒した羅刹に向かった。

「美咲、そいつを近づけさせないで!」

 葵が叫んだ。

「はい!」

 美咲は木を振り回して羅刹を牽制したが、その羅刹は木を難なく受け止めると、粉砕してしまった。

「ええ!?」

 これには美咲も仰天し、対処を遅らせた。羅刹は美咲をかわして、倒れている羅刹に近寄ると、気を吸い取り、更に力を増した。

「きゃあ!」 

 羅刹は美咲が別の木を抜いて攻撃して来たのを弾き飛ばすと、美咲に詰め寄り、彼女の首を絞めた。

「こらあ!」

 そこへ茜が飛びかかり、羅刹の頭を連打した。しかし、羅刹は全く動ぜず、美咲の首を絞め続けた。

「いい加減にしなさいよお!」

 美咲が切れた。彼女は羅刹の腕を掴むと、ミシミシと骨を折ってしまった。

「ぐがあ!」

 流石の羅刹もそれには悲鳴をあげた。美咲は肩で息をしながら、羅刹の両腕を持って地面に叩きつけた。

「うう……」

 美咲は酸素が足らなくなったのか、そのまましゃがみ込んでしまった。

「美咲さん!」

 茜が岬を支えた。羅刹はすぐに起き上がると、骨折したはずの腕を回復させ、再び美咲に襲いかかろうとした。

「おりゃあ!」

 篠原が飛び蹴りをし、羅刹を吹っ飛ばした。羅刹は地面を転がりつつ、体制を立て直すと、身構えた。

(強い……)

 葵は全身に汗を掻いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ