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黒幕

「戻って来るようだ。バカな連中だ」

 天乃炎堂は葵達の動きを捉えていた。

「私が始末します。天音も含めて」

 小夜は遠い目で応じた。

「そうか。頼んだぞ、小夜」

 炎堂は不敵な笑みを浮かべた。

「参ります」

 小夜が邸を出た時だった。

「小夜さん、しばらくだったな」

 玄内が美月と紅を伴って姿を見せた。

「貴様は!? 憎んでも余りある水無月玄内!」

 小夜の目が吊り上がった。

「ほお、これはこれは。月一族の長が自らお出ましとは、恐れ入りました」

 炎堂は玄内をせせら笑った。玄内は炎堂を無視して、

「小夜さん、そんな事を言わないでくれ。あの時の事は今でもよく覚えているのだから」

 玄内の言葉に美月と紅は顔を見合わせた。

「黙れ、外道め! あの時、私を手篭めにした貴様を憎まない訳がなかろう!? 今この場でその屈辱を晴らしてやる!」

 小夜は玄内に向かって走り出した。美月と紅が玄内を庇うように立ったが、

「いや、大丈夫だ。二人は下がっていてくれ」

 玄内は真顔になり、美月と紅を押し退けて前に出た。

「はああ!」

 玄内は呼吸を深くして、気を高めていった。

「宗家に伝わる呼吸法……」

 美月が呟いた。紅は息を呑んだ。

「玄内様、本気なのね」

 美月は涙を流した。

「玄内様……」

 紅も涙を流していた。

「お前もあの貧相な身体の娘と同じく、鬼の行を使えるのか、外道?」

 小夜が玄内を嘲笑った。すると玄内は、

「小夜さん、さっきまでは、あんたを殴ったりできないと思っていたが、今の言葉で気が変わった! 我が娘である葵を愚弄する奴は、例え愛し合った仲だとしても断じて許せねえ! ぶっ飛ばしてやる!」

 更に気を高めた。

「あいにく、俺は鬼の行なんていう恐ろしい技は会得していねえよ。だけどな、怒りの炎は燃え上がっているぜ!」

 玄内の時代遅れのヒーローのような発言に美月と紅は半目になった。

「ならば、死ね!」

 小夜は玄内の目前まで進むと、玄内の顔、胸、腹を連打した。

「玄内様!」

 美月と紅が叫んだ。

「ぶはあっ!」

 玄内はその衝撃で数メートル後方に吹き飛ばされた。

「グホ……」

 口から血を吐き、苦しそうに息をする玄内に小夜は更に攻撃を仕掛けた。

「はああ!」

 今度は確実に絶命させるつもりなのか、打撃を全て顔に集中して来た。玄内の顔が見る見るうちに腫れ上がり、鼻血と口からの出血で、顔全体が赤く染まった。小夜も返り血を浴び、漆黒の忍び装束が赤黒くなった。

「え?」

 美月は小夜が血の涙を流している事に気づいた。

「紅さん、あの人、泣いている。しかも血の涙を流して……」

 美月が紅に囁いた。

「ああ……」

 紅もそれに気づき、目を見開いた。

「どういう事かしら?」

 美月は眉をひそめた。

「ぬ?」

 炎堂も私の異変に気づいた。

(小夜め、縛りを解こうとしているのか? それ程まで、水無月玄内を!)

 炎堂は怒りに両の拳を震わせて、

「戻れ、小夜! その男の術中にはまるな!」

 怒鳴った。小夜はまた虚ろな目になり、飛び退いて炎堂に近づいた。

「何をしているのだ、小夜? あの男はお前の仇だぞ。殺せ。殺すのだ」

 炎堂は小夜を後ろから抱き締めると、流し込むように耳元で命じた。

「はい、炎堂様」

 小夜の目に憎悪が宿った。

「くそ、あと一息だったのにな……」

 玄内はふらつきながらも鼻血を拭った。

「玄内様!」

 美月と紅が駆け寄り、倒れかけた玄内を支えた。

「これ以上、小夜さんを縛られると、正気に戻れなくなるばかりか、人として終わっちまう。何とかしねえと」

 玄内は口から血を流したままで呟いた。

「まずはあの炎堂という男を倒した方がよいのでは? そうすれば、小夜さんが縛られる事がなくなると思います」

 美月が進言したが、

「いや、あの縛りは確かにあのおっさんのものだが、おっさんを倒しても小夜さんは解放されない。縛りは解けないと思う」

 玄内は否定した。

「では、どうすれば?」

 紅が尋ねた。

「愛だよ。愛こそが小夜さんを救う」

 玄内が真顔で言ったので、

「締め落としましょうか?」

 美月が目が笑っていない顔で玄内の首を絞めようとして告げた。

「いや、ふざけていねえよ! 本気だ! 俺の愛で小夜さんを救い出す!」

 玄内は二人の支えを振り切ると、小夜に向かって走り出した。

「まだそんな力があるのか、水無月玄内! 無駄な事を」

 炎堂がせせら笑った。

「小夜、あのバカ者を始末してやれ!」

 炎堂が小夜に命じた。

「はい、炎堂様」

 小夜は虚ろな目で応じて、突進して来る玄内を見た。

「ストップよ、お父さん。無駄な事はやめて、大人しくしていなさい」

 二人の間に葵が割って入った。

「葵! いつの間に!?」

 玄内が叫んだ。

「白々しいわね。私が来た事にいち早く気づいて、無謀な特攻の真似をして見せたんでしょ? 相変わらず、セコい父親で、情けないわ」

 葵は肩をすくめた。

「セコいとは何だ!」

 玄内は怒ったが、そのせいで立ちくらみがしてふらついた。

「娘が戻って来たか! ちょうどいい、親子まとめてあの世に行くがいい!」

 小夜は葵に攻撃を仕掛けた。

「貴女の異能の事はお姉様から聞いているわ、小夜さん。対策もバッチリ!」

 葵は一気に鬼の行を発動し、上位に達した。

(葵の奴、鬼の行を普通の呼吸法のように使いこなせるのか? これは迂闊な事を言えんぞ)

 玄内は娘の進化に怯えた。

「天音ごときに私の事がわかるものか! 天一族の長、小夜を舐めるでないわ!」

 小夜は激昂して葵に向かった。

「貴女こそ、月一族を舐めないで!」

 葵は小夜の突きをかわすと、その懐に入った。

「ぬう!?」

 小夜は葵の速さに目を見開き、それでも葵の攻撃をかわそうとした。

「遅い!」

 葵の正拳が小夜の左頬を捉えた。

「無駄だ!」

 小夜は余裕の笑みでそれを受けた。

「くう!」

 葵は苦悶の表情で飛び退いた。小夜の顔は無傷だった。

「拳に気をまとわせるのは一つの策だが、私の異能はそれをも凌駕する。舐めていたのは、お前だ、水無月葵」

 小夜は葵を見て嘲笑った。

「まさか……」

 葵に策を授けた天音は、自分の母親の異能のレベルに唖然とした。

「いいぞ、小夜。一気に皆殺しにしろ!」

 炎堂が叫んだ。

「はい、炎堂様!」

 小夜はそれに呼応して、葵に迫った。

「ええい!」

 その時、美咲が近くにあった大木をへし折って、小夜目がけて振り下ろした。

「く!」

 小夜はそれを素早くかわしたが、

「そこ!」

 美月も大木をへし折り、小夜を攻撃した。

「うわ、美月さんも怪力? 美咲ちゃんの馬鹿力は、母親の遺伝なのか?」

 篠原は仰天していた。

「おのれ!」

 小夜は美月の攻撃もかわしたが、

「まだよ!」

 美咲が再び大木を振り下ろした。

「ふざけた事を!」

 小夜はそれを右の拳で受け止め、砕いた。

「そこだ!」

 今度は美月が大木を突き出した。

「ぬう!」

 小夜はそれを全身で受け止め、砕いてしまった。

「終わりだ」

 その時、小夜の背後に薫が現れた。

「何!?」

 小夜は薫を打ち倒そうとしたが、

「遅い!」

 薫は小夜に掴みかかり、その気を吸い取り始めた。

「む?」

 炎堂が薫の動きに気づき、

「そうはさせぬ!」

 薫に襲いかかった。

「姉さんに触れるな、外道!」

 そこへ篝と鑑が助太刀に入り、飛び蹴りで炎堂を吹っ飛ばした。

「グアア!」

 炎堂は数メートル飛ばされて倒れた。

「炎堂様!」

 小夜は薫を薙ぎ払い、炎堂に駆け寄った。

「畳みかけろ!」

 薫は篝、鑑と共に二人を襲撃した。

「寄るな!」

 篝と鑑は小夜に殴り倒された。薫は小夜と打ち合ったが、やがて倒されてしまった。

「何だ、あの強さは? 化け物だな」

 篠原は身震いしてしまった。

「薫さんがあんな簡単に倒されてしまうなんて、何なの、一体?」

 茜は涙ぐんでいた。

(炎堂がやられた時、小夜さんの強さが増した気がした。もしかして、炎堂を攻撃するのは、まずいの?)

 葵は美咲と美月に目配せして、小夜との間合いを取った。

(あれだけ気を吸ったのに、あの回復力はどういう事だ?)

 薫も、小夜と炎堂のつながりに眉をひそめた。

「ダメだ。炎堂を攻撃するな。小夜さんをどんどん強くしちまうぞ」

 玄内は紅に肩を借りて立ち上がった。

「やっぱり……」

 葵は自分の推測が当たっているのを確信した。

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