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姉妹対決

「お前の父親は希代の好色男だ。聞いた話では、星一族の長の娘とも交わり、子を成したそうだな」

 小夜は葵を睨みつけた。

「……」

 葵は小夜の言葉に反論できなかった。

(確かにこの人の言う通り、父は希代のエロ親父……。何も言い返せないし、父がこの人を犯したというのも、本当かも知れない)

 葵には母親である藍の思い出はほとんどない。只、小夜がどことなく藍に似ているような気がしていた。

「お母様、その女は私に殺させてください。護様の子を産ませないために」

 同じ黒のスカートスーツを着た天音が現れた。

「げ、おっぱいおばけ」

 茜は天音の胸の大きさを見て思わず呟いた。美咲も目を見開いている。

「ダメだ。この女には、一族の男と交わり、無双無敵の者を産んでもらうのだ」

 小夜はおぞましい事を口にして、天音を睨みつけた。

「無双無敵の者は私が護様となします。その女は不要です」

 天音は葵を睨みつけた。

「護と?」

 葵は眉をひそめた。天音はフッと笑い、

「先程、護様から子種を頂戴した。十月十日後、無双無敵の者が生まれる」

 葵は目を見開いた。美咲と茜は唖然としている。

「何ですって!?」

 葵は天音を睨んだ。

「疑うのなら、この先の部屋へ行ってみるがいい。護様が気持ちよさそうな顔で寝ているから」

 天音は葵を挑発した。

「くっ!」

 葵は部屋を飛び出した。

「所長!」

 美咲と茜がそれを追いかけた。

「待って」

 葵は篠原がいると思われる部屋のドアの前で美咲と茜を見た。

「護は、全裸の可能性がある。二人は待ってて」

 葵はドアを開くと、一人で中へ入った。美咲と茜は顔を見合わせた。

「お前達も、我が一族のために身籠ってもらおうか。あの星一族の三姉妹と互角に渡り合ったそうだからな」

 そこへ小夜がやって来た。その後ろには、たくさんの銀色の忍び装束の男達がいた。

「嫌です。お断わりします」

 美咲は小夜を睨み据えた。茜も小夜を睨んだ。


「護!」

 葵が部屋に飛び込むと、篠原は全裸で仰向けに寝かされていた。両手首を足首は枷で止められたままだった。

「……」

 葵は篠原が一部元気なのを見て、頭を抱えた。

「ああ、葵、すまない、俺、頑張ったんだけど、薬を飲まされたせいで、堪え切れなかった。許してくれ」

 篠原は恥ずかしそうにモゾモゾした。

「謝らなくていいよ。悪いのは父だから」

 葵は篠原の股間にそばに置かれていたトランクスをかけた。

「でも、あのおっぱい姉ちゃんとは最後まではしてないぞ。それだけは信じてくれ。その、子種は搾り取られてしまったけど」

 篠原は葵が枷を外す方法を調べている間、必死になって言い訳をした。

「それもいいわよ。仮に最後までしてしまったとしても、全部悪いのは父だから」

 葵は枷を止めているスイッチを見つけ、それを解除した。

「おお!」

 篠原は手足の自由を得て、飛び起きた。

「葵、ありがとう!」

 そして、その勢いで葵に抱きつこうとしたが、

「まずは服を着てよ、汚らしいものを隠して!」

 葵は背中を向けて拒否した。

「はい……」

 篠原はしょんぼりしてトランクスを履き、スーツを着込んだ。

「護、無事でよかった!」

 葵は篠原に抱きついた。

「え、おい、葵……」

 篠原は涙目の葵が抱きついて来たので、おたおたしてしまった。

「はい、おしまいと」

 篠原がキスをしようとすると、葵はそれを押し退けて離れた。

「まだ終わってないのよ。天音の母親が登場して、大変なんだから」

 葵は忍び装束を整えると、部屋を出て行った。

「え? 母親?」

 篠原はキョトンとしたが、

「ちょっと待ってくれ、葵!」

 慌てて追いかけた。


「まだかかって来ますか?」

 美咲は葵が飛び込んだ部屋の反対側にあるドアを破壊して木刀のように振り回し、男達の大半を気絶させていた。

「お前達では相手にならないようだね」

 小夜が進み出て、漆黒のスカートスーツを脱ぎ捨てると、忍び装束になった。それもまた漆黒である。

(母と同年代だと思うけど、凄い闘気……。所長に負けていないわ)

 美咲は小夜の強さを肌で感じた。

「美咲、茜!」

 そこへ葵が飛び出して来た。

「お前は大事な身。怪我をさせたくないから、引っ込んでいなさい」

 小夜は葵を睨めつけた。

「何度も言わせないでよ。あんた達の妊娠奴隷になんかならないわよ」

 葵は一瞬にして鬼の行の境地に達すると、小夜に接近した。

「おい、葵、そのおばさんも異能を使うぞ! 迂闊に近づくな!」

 続けて飛び出して来た篠原が叫んだ。

「心配無用よ!」

 葵は一足飛びに小夜の前に進むと、顔面に正拳突きを見舞った。

「ぐっ!」

 呻き声を上げたのは葵だった。

「何、一体?」

 葵は右手を押さえて飛び退いた。

(やっぱり、このおばさん、天音と同じ異能か?)

 篠原は葵に駆け寄ると、

「そのおばさん、身体の一部を瞬時に鉄のように硬くできる異能を持っている。知らずに殴ると、痛い目を見るぞ」

 囁いた。

「そういう事は早く言ってよ!」

 葵がムッとすると、

「いやいや、言う前にお前が仕掛けたんだろ?」

 篠原が言い返すと、

「そんな事をしている場合なのか、愚か者が!」

 小夜が仕掛けて来た。

「うわっと!」

 篠原と葵は小夜の攻撃をかわし、それぞれ反対側に飛び退いた。

「えい!」

 美咲がドアの枠で小夜の背中を殴りつけた。

(うわ、美咲さん、やる事がえげつない)

 茜はそれを見て思ったのだが、ドアの枠が粉々になったのを見て、唖然とした。

「やっぱり……」

 美咲が呟くと、

「やっぱりってどういう事ですか?」

 茜が尋ねた。美咲は折れてしまったドアの枠を投げ捨てて、

「この人は、瞬時に全身を鉄のようにできる異能の持ち主なのよ」

 篠原は美咲の言葉を聞いて、

「おいおい、とんでもねえじゃねえかよ……」

 小夜を見た。

「お前の子種は天音が手に入れたので、すでに用済みだ。先程の私への暴言、許さぬぞ」

 小夜は鋭い目で篠原を見た。

「げっ」

 篠原は、「おばさん」呼ばわりしたのをしっかり聞かれていたのを知り、ギョッとした。

「死ね!」

 小夜は間髪入れずに篠原に襲いかかった。

「させない!」

 葵が小夜の脇腹をミドルキックで蹴った。

「ぐう!」

 葵は悲鳴をあげて、その場にしゃがみ込んだ。

「蚊に刺された程も感じないぞ」

 小夜は葵をせせら笑うと、篠原に飛びかかった。

「母上、護様は殺さないでください」

 篠原と小夜の間に天音が立ち塞がった。

「天音、まさか、そいつに惚れたのか!?」

 小夜が天音に怒鳴った。

「え?」

 葵と篠原が異口同音に声を発した。

「やはり、子種はまぐわって得たいと思います」

 天音は小夜の問いには応えず、小夜を睨み返した。小夜はフッと笑って、

「わかった。水無月葵を従わせる事ができれば、その男の命は助けてやろう」

 葵を見た。

「わかりました」

 天音が葵を見た。葵は素早く立ち上がって、構えを取った。

「あんたなんかに護は渡さない!」

 葵は鬼の行の更に上位に行った。

「ひいい!」

 その闘気の凄まじさに茜は身震いして美咲の陰に隠れた。

(うへえ、葵、薫ちゃんと戦った時の何倍も強くなってるじゃねえか)

 篠原は笑うしかなかった。

(所長、勝てますよね)

 美咲は葵の勝利を確信していた。

「葵、天音も同じだ。気をつけろ」

 篠原は葵に告げた。

「わかってる。二人の闘気が一緒。大丈夫。私が勝つ」

 葵は更に気を高めた。彼女の足元の床が割れ、亀裂が廊下を走った。

「どれ程気を高めようとも、私には勝てない。天一族の強さ、思い知るがいい、水無月葵」

 天音は冷めた目で葵を見た。

(葵のあの闘気を見てもあの余裕……。強がりとは思えない。あの姉ちゃん、何を隠しているんだ?)

 篠原は眉をひそめて天音を見た。

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