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三姉妹、危機一髪

(ダメだ、瞬きしかできない)

 葵は無堂に抱きかかえられて、ある一室に連れて来られた。

「さあ、早速子作りを始めましょうか、葵さん」

 無堂は実験を始める科学者のような顔で告げた。

(冗談じゃないわ! 護を助けに来たのに、こんな気持ち悪い男にそんな事をされるなんて!)

 葵の目に涙が浮かんだ。

「悲しむ事はありませんよ。私はこの世で一番美しい男です。その子を孕めるのですから、喜んでください」

 無堂の言葉は葵に聞こえていなかった。葵は天蓋付きのベッドに寝かされた。感触はあるが、指一本動かせない。

「怖がる事はありませんよ。私はテクニシャンです。すぐに気持ち良くしてあげます」

 無堂は服を脱ぎ、トランクス一枚になった。すでに臨戦体制なのが葵にもわかった。

(それにしては、小さくない?)

 ふとそう思った。

「私は、天音様のような胸の大きい女性は好きではないのですよ。貴女くらいの小ぶりな胸の女性が好きなのです。だから、長の小夜様に願い出て、貴女を拉致する事にしたのです」

 葵がどう思っているのかも知らず、無堂は滔々と語っている。

(余計なお世話よ! 小ぶりって、バカにしてるの!?)

 茜によくいじられるのだが、小ぶりと言われる程小さいとは思っていない。しかも、無堂の好みだと言われるのも癪に障った。

「え?」

 その時、地震かと思うような振動があった。

「何だ?」

 無堂は、壁や天井が揺れるのを見て、周囲を見渡した。

(何?)

 葵もそれに気づき、目を動かした。

(少しずつだけど、身体が動くようになって来た)

 葵は指が動くのを確認した。

「おっと。流石に回復が早いようですね。でも、ダメですよ、葵さん」

 無堂はフッと笑うと、葵の右頬を撫でた。途端に葵はまた身動きで全く取れなくなってしまった。

(どうして?)

 葵には無堂の異能が何なのかわからなかった。

「はあ!」

 その時、部屋を塞いでいた鉄の扉がドスンと倒れた。

「何だと?」

 無堂の顔が引きつるのが見え、葵は少しだけ溜飲が下がった思いがした。

「所長、ご無事ですか?」

 入って来たのは、美咲だった。遅れて茜も入って来た。

「これは驚いた。その扉を破るとは、聞きしに勝る怪力ですね。貴女が神無月美咲さんですか」

 無堂は美咲を頭のてっぺんから爪先まで舐めるように見た。美咲は一歩踏み出して、

「それがどうしたの、外道!? 我が一族の後継である葵様をけがしたら、絶対に許さない!」

 美咲は部屋の壁を力任せに殴った。壁は大きく凹み、亀裂が走った。茜はそれを見て、

(やばい。美咲さんを怒らせると、とんでもない)

 顔を引きつらせた。

「ご心配なく。葵様は月一族の後継ではなくなります。私の側室として、ひたすら我が子を産んでもらうだけの存在になります」

 無堂の下卑た笑いが美咲の逆鱗に触れた。

「黙れ、外道!」

 美咲は無堂に突進した。

(ダメ、美咲、こいつの異能の正体がまだわからないの! 迂闊に近づかないで!)

 葵は目で必死に美咲に訴えたが、いつになく怒りに燃えている美咲にはそれが伝わらなかった。

「加勢します、美咲さん!」

 茜までもが、無堂に向かって走り出した。

(茜、来ちゃダメ!)

 葵は声が出せないのをもどかしく思い、涙を浮かべた。

「はっ!」

 茜が無堂に粉を投げつけた。

「こんなもの!」

 無堂はそれをかわして茜に接近した。

「ひっ!」

 茜は避けられると思っていなかったので、無堂の接近に仰天し、飛び退いた。

「逃がしませんよ」

 無堂は茜のすぐそばまで近づいた。その隙に美咲が葵のそばに着いた。

「所長、大丈夫ですか?」

 しかし、葵は目を動かすだけで何のリアクションもしない。

「何かされたのですか?」

 美咲は跪いて、葵に顔を近づけた。

「美咲さん、危ない!」

 茜の声がした。無堂は、美咲が葵に近づいたので、茜への攻撃をやめ、美咲へ近づいた。

「ふん!」

 美咲は葵が寝かされているベッドの天蓋の柱をへし折ると、無堂に投げつけた。

「おっと!」

 無堂はそれをかわし、美咲に襲いかかった。

「所長、失礼します!」

 美咲はベッドのシーツを抜き取ると、無堂に向かって放った。

「ぬ!」

 無堂は目の前で広がったシーツに一瞬足を止めた。

「そこ!」

 美咲は次に天蓋の別の柱を折り取り、投げつけた。

「くっ!」

 無堂はかろうじてそれをかわすと、美咲との間合いを一気に詰めた。

「貴女も私の側室になりなさい! そして我が御子を産むのです!」

 無堂の目に狂気が宿るのを美咲は見た。

「誰が!」

 美咲はベッドボードを強引にへし折ると、無堂の顔を殴りつけた。

「ぐわ!」

 近かったため、無堂もかわし切れず、顔面をしたたかに殴られた。そして、床を転げた。

「ぐうう……」

 無堂は右の頬を腫らし、口から血を流して起き上がった。

「よくも私の美しい顔を傷つけましたね? 貴女は殺します」

 無堂の目が血走った。美咲は天蓋のフレームを折り取ると、木刀のように構えた。

「もともと醜さ剥き出しの気色の悪い顔をしているのがわかっていないようね? どこが美しいのよ」

 美咲は無堂を挑発した。

「もう絶対に殺します!」

 無堂は闘気を発して美咲に迫った。

「所長!」

 茜がその隙に葵へ駆け寄った。

「所長、しっかりしてください!」

 茜は葵の右腕を掴んだ。

(あれ? 鬼の行の気はどうしたの?)

 葵の気がほとんど感じられないのに気づいた。

(あ、そういう事か!)

 茜は何かを察して、葵を見て、頷いた。

「今、助けますよ、所長。だから、ボーナスくださいね!」

 ちゃっかり者の茜はそんな事を言うと、葵に自分の気を注ぎ込んだ。

「何をしたのですか!?」

 茜の行動に気づいた無堂は鬼の形相で茜を睨んだ。

「隙あり!」

 美咲はそこへフレームで突きを入れた。

「グア!」

 フレームの角が無堂のこめかみに当たった。無堂はそれでも倒れず、美咲に突進した。

「貴女も側室になりなさい!」

 美咲は無堂に触れられ、倒れてしまった。

(何? どういう事?)

 美咲は指一本動かせなくなったので、動揺した。

「ありがとう、茜。ボーナス倍出すわ!」 

 回復した葵は茜に抱きついた。

「いやあ……」

 茜は照れて顔を赤らめた。

「そうはいきません!」

 無堂が風を巻いて近づくと、葵をまた動けなくした。葵はベッドの倒れ込んだ。

「貴女は……。殺します」

 茜をジッと見てから、無堂は告げた。

「はあ!?」

 明らかにバカにされたのがわかった茜はムッとした。そして、飛び退いた。

(こいつは恐らく、相手の気を吸い取って動けなくする異能の持ち主。でも、どうすればいいの? 所長も美咲さんも倒れてしまって……)

 茜の頭の中を走馬灯が走り回った。

(大原さんと婚約したのに、ここで私は終わりなの? そんなの絶対に嫌!)

 茜は走馬灯を振り切り、無堂から距離を取った。

「貴女など、いつでも殺せます。それよりも、葵さんと子作りをしなければ……」

 無堂は葵の忍び装束を脱がした。葵は特殊な繊維でできている鎖帷子くさりかたびらだけになった。

(茜、ボーナスはやっぱりなし!)

 葵は助け損った茜に恨みを向けた。

「所長!」

 このままだと、命はもちろん、ボーナスもなくなると考えた茜は、必死になって考えた。

(茜ちゃん、先に私を何とかして……)

 美咲は動けない茜を目だけで見た。

「ほお。これは凄い。伸縮自在の特殊繊維ですか。しかも、防刃防弾の機能もあるようですね。素晴らしい」

 無堂は鎖帷子を撫で回した。

(いやあ! 護ゥッ!)

 葵は涙を流した。無堂は葵の胸をまさぐった。

「そうです。この大きさ。私の好みです」

 無堂は葵の感情など全く考えずに弄り続けた。茜は意を決して、美咲に近づいた。

「美咲さん、今助けます!」

 茜は美咲の右腕を掴むと、気を注ぎ込んだ。

「ありがとう、茜ちゃん。所長を助けるわよ!」 

 美咲は起き上がって言った。

「でも、どうすれば……」

 茜は葵をもてあそぶ無堂を見た。美咲は茜を見て、

「私に考えがあるわ」

 余裕の笑みを浮かべた。

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