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プロローグ 衝撃の事実

 アメリカ合衆国大統領の陰謀との戦いから、数ヶ月が経過した。


「所長、大変です。おさがいらっしゃるそうです」

 パソコンのメールを開いていた職員の一人の神無月美咲が告げた。

「ええ? 父が?」

 ソファに寝転んでいた水無月探偵事務所の所長の水無月葵は飛び起きた。

「来るって、どういう事よ? 私には何の連絡もないんだけど」

 葵はスーツのポケットからスマホを取り出して、メール関係を確認した。

「所長に直に伝えると、逃亡の恐れがあるからだそうです」

 美咲は苦笑いをして葵を見た。

「はあ? どうして私が逃亡するのよ? 後ろめたい事があるのは、父の方でしょ!」

 葵はムッとして美咲に近づくと、パソコンの画面を覗き込んだ。

「しかも、すでに東京に着いているようですよ」

 美咲は肩をすくめた。

「いつもはメールかラインですませているのに、どうして直接来るのよ? 理由がわからないわ」

 葵はソファにドスンと座った。

「戻りましたあ」

 そこへもう一人の職員の如月茜が帰って来た。またじゃんけんに負けて、アイスを買いにコンビニにお使いに行っていたのだ。行くのはいつも茜なので、葵が何かインチキをしていると勘ぐっている。それでも何も言わないのは、資金提供が葵だからだ。文句を言うと、賞与の査定に響くので、言えないという事情もあった。

「遅い、茜! どこまで探しに行っていたのよ!?」

 父の突然の来訪の知らせでイラついていた葵は、早速茜に八つ当たりを始めた。

「な、何ですか、所長? 今回は早いと思いますよ?」

 詰め寄って来た葵に恐れをなし、茜は美咲の背後に回り込んだ。

「実はね、長がいらしゃるらしいの」

 美咲は茜を見て葵が荒れている理由を告げた。

「え? 長が? 何しに?」

 茜はキョトンとして葵を見た。

「私が知りたいのよ! しかも、私には何の連絡もなくよ!? ふざけてるでしょ!」

 葵の怒りの矛先は完全に父親に向いた。それに気づき、茜はホッとして、

「どれにしますか?」

 レジ袋の中身を葵に見せた。

「今はそれどころじゃないわよ! 冷蔵庫にしまっておきなさい! 父に出すのはしゃくさわるから!」

 また葵に詰め寄られ、

「はい……」

 茜は涙ぐみながら、給湯室へと逃げ込んだ。その時、ドアフォンが鳴った。

「え?」

 美咲はハッとしてパソコンで監視カメラの映像を確認した。そこには、黒のスーツ姿の白髪混じりの総髪の男性と、黒のスカートスーツでショートカットの女性二人が映っていた。

「え、ええ!?」

 美咲はいつになく大きな声を出した。

「どうしたの、美咲?」

 それを妙に思った葵がパソコンの画面を覗き込んだ。

「あれ、この後ろ姿は……?」

 葵は目を見張った。

「何があったんですかあ?」

 給湯室から茜が駆け戻り、画面を覗き込んだ。葵はムッとすると、大股でドアに近づき、勢いよく開いた。

「おう、しばらくだったな、我が愛しの娘よ」

 総髪の男性が満面の笑みで葵に抱きつこうとした。

「やめて、気持ち悪い!」

 葵はスッとそれをかわすと、後ろに立っている女性二人を見て、

「お久しぶりです、美月みづきさん、くれないさん」

 会釈をした。二人の女性は会釈を返した。そして、

「お久しぶりです、お嬢様」

 美咲によく似た女性が応じた。

「しばらくでした、お嬢様」

 茜を大人っぽくした感じの女性が応じた。

「えええ!?」

 そこで初めて女性に気づいた茜は大声を出した。

「相変わらず、騒がしいわね、茜」

 茜に似た女性は呆れ顔で茜を見た。

「どうしてお母さんが一緒に来ているの?」

 茜は母親に詰め寄った。すると葵の父が、

「まあ、話は長くなるから、中に入れてくれ」

 真顔になって()を見た。

「何があったの?」

 葵は三人を迎え入れ、ソファに誘導しながら父親に尋ねた。父親は三人がけのソファの真ん中に美月と紅に挟まれるように座った。

「え?」

 葵はギョッとした。父の女好きは子供の頃から知っているが、まさか美咲と茜の母親にまで手を出しているのかと思い、吐き気がしてしまった。

「お嬢様、誤解なさらないでください。そろそろ、本当の事を話さなければならない時が来たのです」

 美月が葵を見上げた。葵は美咲、茜に挟まれて向かいのソファに座って、

「どういう事ですか?」

 眉をひそめて美月を見た。美月は紅と目配せしてから、

「お嬢様のお母様は、お嬢様をお産みになると、まもなく亡くなりました」

 葵はキョトンとして、

「ええ、そうですね。それが何か?」

 美月は葵を見たままで、

「お嬢様だけでは、月一族の宗家である水無月家が絶えてしまう恐れがある。それを危惧し、その時、すでに夫を亡くしていた私と紅さんで、長の子を産む事を希望したのです」

「はあ?」

 葵は目を見開いた。美咲と茜は絶句している。

「という事は?」

 葵は美咲と茜を見てから、美月を見た。美月は頷いて、

「宗家の血統を守るため、そして長の子を授かるため、私と紅さんは玄内様と契りました」

 頬を染めて言った。

「えええ!?」

 茜が叫んでしまった。美咲は口を手で押さえ、感情を押し殺そうとしている。

「……」

 葵は絶句し、父である玄内を睨みつけた。

「お嬢様の驚きとお怒りはごもっともです。しかし、あくまで希望したのは私達なのです。玄内様をお責めにならないでください」

 紅は涙ぐんでいた。

(この親父、昔からモテていたとは聞いていたけど、ここまでとは……)

 葵は子供の頃、父親の武勇伝をよく聞かされ、呆れていたのだ。ほとんどホラだと思っていたのだが、こうなってくると、ホラとは言い切れない。

「じゃ、じゃあ、私達は姉妹という事ですか?」

 美咲はようやく言葉を発した。玄内は真顔のまま美咲を見て、

「そうだ」

 葵は父の顔つきに何かを感じた。

「その事だけを言いに来た訳じゃないわよね? もっと重要な話があるんでしょう?」

 葵は玄内をまた睨みつけた。玄内は娘の鋭さにフッと笑い、

「そういう事だ。それはお前にとっても重要な事だ」

 葵はまた眉をひそめて、

「どういう意味?」

 玄内は声を低くして、

「護が拉致された」

 護とは、葵と許婚いいなずけだと主張している、防衛省情報本部勤務の篠原護の事である。

「え?」

 葵の顔が蒼ざめた。篠原も、葵達と同じく、平安の世より続く忍びの集団である月一族の一人で、一般の人間と違って、腕が立つ存在だ。その篠原が拉致されたという事は、只事ではないのだ。

「お、心配か、護の事が?」

 玄内が嬉しそうに葵をからかった。

「うるさいわね! あんな奴、どこの誰に拉致されようが、私の知った事じゃないわよ!」

 葵は相変わらずの強がりを言った。

(もう、素直じゃないんだから)

 美咲はそれを見て溜息を吐いた。

「話はまだ途中だ。これから言う事を聞いても、そんな事を言っていられるかな?」

 玄内は愉快そうに告げた。

「はあ?」

 葵は腕組みをしてソファに踏ん反り返った。玄内はまた真顔になり、

「月一族の大元は、どこにいたか、知っているな?」

 葵は半目になり、

「何よ、急に。知っているわよ。木曽でしょ? そこに幾つかの忍の集団がいたって話を聞いた事があるわ」

 玄内は満足そうに微笑むと、

「そこには、あの星一族の源流の集団もいた」

 葵にはそれは初耳であった。

「え? 星一族の大元も木曽なの?」

 美咲と茜ももちろん聞いた事がなかったので、ハッとして玄内を見た。

「その他にも、幾つか集団はあったが、ほとんどが戦国時代に滅ぼされるか、散り散りになって消滅してしまった。だが、一つだけ、今でも続いている一族がいる」

 玄内の言葉に葵は息を呑んで、

「もしかして、それって、あの……?」

 身を乗り出した。玄内は頷いて、

「ああ。それはあくまで伝説でしかなかったのだが、つい最近、存在している事がわかった」

「え? 何なんですか、それって?」

 茜が尋ねた。玄内は茜と美咲を見て、

「その一族の名は、てん一族。異能の者達が数多あまたいる恐るべき集団だ」

 葵はその名を聞き、篠原の身が危ない事を知り、震えてしまった。

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