表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1話「姉を探し続けて」

 ある日。

 俺は大学在学中に内定が決まったこともあり、内定先に近いところに部屋を探している。

 だが、内定先の近辺にあるのは高級っぽいマンションばかりな上に、家賃がかなり高くて手が伸びない物件ばかりだった。

「通勤に便利だと思ったんだけどなぁ…」

 朝が弱く、通勤にあまり時間をかけたくないこともあり、近いところを探している。


 そんなときだった。

 携帯に着信があり、誰だろうと思って見てみると、高校時代の友人の名前が出ていた。

『よぉ。風のうわさで聞いたんだけど、内定先に近い部屋探してるんだって?』

「よく知ってるな。けど、周辺は高級っぽいマンションばかりで、しかも家賃が相応に高いところばかりで…」

『そのことなんだけど、お前にぴったりな物件があるんだ。お前の内定先の近くだぞ』

 これを聞いて驚くと同時に飛び上がりそうになった。

『その物件のことで話があるから、今からバイト先に来れるか?』

 友人とは違う大学に通っているが、バイト先が偶然同じになった。

 丁度、今いるところがバイト先の近くだったので、OKして向かう。


 ・・・・・・。


 バイト先のファミレスの前で合流し、中に入って、一つのテーブル席に向かい合って座る。

「本当に、この部屋にそんな安い家賃で住んでいいのか?」

 部屋の写真や資料を見せてもらい、その少しあとで実際に部屋に行き、詳細も確認したのだが・・・。

「このマンション、親が持ち主だからな」

 だからって…この値段は、今住んでるアパートより安いぞ・・・。

 友人は一瞬、何やら言いにくそうな顔をしたが、特に気にすることはなかった。

 自分にピッタリな物件だと言っていたが、どういうことだろうか?

 これを実際に住んでから知ることとなるのだった。


 数か月後に大学を卒業し、友人が勧めてくれた部屋に移り住んだ。


 来るのは2度目になるが、改めて見ると部屋は写真で見た以上に広く、生活に必要なものはそろっていて、かなり快適そうで得した気分だ。

(こんないい部屋をなぜあんなに安く…? 親が持ち主でも変な話だな…)

 変に思いながらも、荷物を箱から出し、使いやすい配置にした。


 部屋を見渡した時、壁に貼ってある紙が視界に入り、重要な内容かもしれないと思って見てみると、その内容が・・・

『この部屋は、日が沈んでから翌朝の日が昇る時間まで、その部屋に住んでいる幽霊に閉じ込められる。その前に次の日の買い物をしておかないと、腹が減っても近くにあるコンビニにも行けなくなるから気をつけろ』

 こんな内容が、友人の筆跡で書かれていた。

「何だこりゃ? まさかあいつ、これを知ってて…」

 つまり、この部屋は事故物件で、だれも住もうとしないから家賃が格安だったということか・・・。

 今時、そんなホラーなことがあるのか?と思った。


 紙に書いてあることを信じたわけではないが、本当だとしたらマズいと思い、明るいうちに夕飯の弁当をコンビニに買いに行った。

 大学に入った時から一人暮らしをしてたこともあって家事は一通りできるが、荷解きで疲れてしまったからだ。

 一応、両隣の部屋に挨拶したが、住んでる部屋を知ると顔を青くして逃げるように扉を閉められた。

(何だったんだ? まさかあれは本当なのか?)


 夜になり、風呂にも入った後で、何をしようかと思った。

 体が火照っていたこともあり、夜風に当たろうかと思って外に出ることにした。


 だが・・・。


 出入り口に近づいたとき、ガチッという音がして鍵が閉まり、頭に?と浮かべながら鍵を開けるために右手を伸ばした時だった。

「!?」

 右手の手首に、誰かの手が触れた。しかもその手は氷のように冷たい。

 触れた手をたどっていくと、そこにいたのは自分と同じ年頃の女性だ。

 髪は真っ黒のセミロング。服装は薄い水色で長袖のワンピース。自分から見たら美人だと思った。

 だが、ずっと俯いており、そのままで冷たい左手で頬に触れてきた。

「・・・?」

 特に何も言わずにいると、何かを書いた紙を見せてきた。

『危害は加えないから…一人にしないで…』

 これを見て、寂しがりやなんだなと思い、外に出るのをやめてリビングに戻ることにした。


 お互いにちゃぶ台を挟んで座る。

「襲う気はないみたいだな…自分のこと、わかるか?」

 俺が聞くと、女性はどこからか出した紙をちゃぶ台においてそれを見せてきた。

『私は、夕凪ゆうなぎ 礼香れいか怜美れみという姉を探してる』

 口は動かせても、声を出すことはできないからか、言いたいことを書いた紙を見せてくる。

 それも、いつの間に書いたんだ?というほどの速さで・・・。

『姉に、会いたい…でも、どこにいるのかわからない…』

 姉、か…。

 どうやら、外に出ることもできずにこの部屋を彷徨っているのか・・・。

「この辺の人なら、何か知ってるかもしれないな…俺のほうでも、時間があったら調べてみる」

 これを聞いて礼香は顔を上げた。その顔は微笑んでいるように見えた、が・・・。

「目の下のクマがすごいぞ。寝てないんじゃないのか?」

 可愛い顔をしているが、目の下はタヌキかと思わせるぐらい真っ黒だった。

「とにかく、もう寝ようぜ? 俺も明日から仕事だから」

 そう言って俺は自分の布団に入って寝た。


 翌朝。

 スマホのアラームで目を覚まし、昨日の夕方に買っておいたおにぎりとカップの味噌汁で朝飯を済ませようと思った。が・・・。

「ん? 何の匂いだ?」

 何やらいい匂いがする。

「これは・・・味噌?」

 え?と思ってキッチンを見てみると、礼香が立っていた。

 礼香は俺が起きたことに気づいて振り向く。その顔にはクマがなかった。

「幽霊なのに、触れるのか?」

 俺が聞くと、クスッと笑った。


 俺は着替えて顔を洗い、ちゃぶ台の周りにおいてある座布団に座る。

 ちゃぶ台には白米の飯がつけられた茶碗とみそ汁を入れたお椀が乗っていた。

 俺は味噌汁と一口すする・・・ん?

「・・・美味い」

 これを聞いて礼香はホッとしたみたいだ。

(幽霊は普通、こんなことできないのでは?)

 朝から力がみなぎった感じになり、仕事に行く時間になったので出入り口に向かった。

 昨夜のことを思い出し、まさかと思ってカギを回したが、何事もなく普通に開いて安心した。

「じゃ、行ってくる」

 礼香に一言言って部屋を後にした。

 その瞬間、『行ってらっしゃい。気を付けて』と書いた紙を見せて来た。


 入社したばかりで、しかも研修生ということもあって覚えることが多くて焦る。

 だが、高校の時に実習で学んだ内容もあったため、その時の経験と知識を活かして何とかついていけた。


 休憩時間になり、先輩たちから大丈夫か?などと声を掛けられ、気遣いをありがたく感じた。

 その時にどこに住んでいるのかを聞かれて正直に答えると、聞いたみんなが顔を真っ青にした。

 どうやら、あの部屋のことを知っているみたいだ。

「よくあんな所に住んでるな…」

「友人が紹介してくれた物件ですけど、あの部屋の実態を知ってたのか、家賃はかなり安くしてもらいました」

 これを聞いてみんなが驚いた。

 その時に、夕凪姉妹のことを聞いてみたが、なぜか知っている人はいなかった。

 先輩たちだけでなく、年配の上司たちにも聞いてみたが、結果は同じだったことに変に思わずにいられなかった。


 長年あの周辺に住んでる上司も知らないって変だな…礼香はいつからあの部屋に…?


 この日はこれで終わり、定時になって部屋に帰ると、礼香が作った夕飯が用意されていた。

(昼は会社の食堂で食べた)


 礼香が当たり前のように料理をしていることを変に思いながらも、美味いからいいかと自分に納得させた。


 数日が過ぎたある日。

 合間を縫って夕凪姉妹のことを聞き回ったが、有力な情報は得られず、どうしたものかと思いながら、仕事を終えて部屋に帰る。

 まいったなぁと思いながらリビングに向かったが、その途中にあるバスルームから何やら音がした。

 耳を澄ませると、水が水道から流れ出る音が聞こえてくる。

 水漏れかと思い、扉を開けると真っ暗で、変に思いながら電気をつけると・・・

「え・・・」

 電気をつけた瞬間に見たのは、髪を上げてバスタオルを体に巻いている礼香の後ろ姿だった。

 礼香は俺の声を聴いた瞬間に、バスタオルごと一瞬で消えた。

(風呂に入ろうとしてたのか…まずいことしてしまったな…)

 水道を止めてバスルームの電気を消し、扉をゆっくりと閉めた。

 リビングに行こうと振り向くと、目の前には服を着て頬を膨らませた礼香がいた。

「わ、悪かったよ! 水が流れる音がしたから、水漏れかと思ったんだ」

 これを聞いて、渋々ながらも納得したみたいだった。


 気を取り直し、礼香が用意した夕飯を食べるが、礼香はずっと、ジト目で俺を見ていた。

 正直、メチャ気まずい・・・。


 しばらくして、俺は一人で風呂に入る。

 礼香が用意したのか、湯舟にはすでに湯が張ってあり、丁度いい熱さで、疲れが取れる感じだったが、礼香のバスタオル姿をふと思い出してしまい・・・

「首と肩の部分しか見てないけど、綺麗な肌だったな…」

 と呟いたら、

 ザッバーン!!!

 大量の湯が、滝のごとく俺の頭にかかった。

「・・・・・・」

 真上を見たが、天井しかなかった。

 礼香の仕業か?

 俺は何でもないかのように湯船から出て、風呂椅子に座って頭を洗ったが、ある程度洗ったところでまた思い出した。

「タオルの上からだったけど、細い体してたな…」

 と呟いたら、

 ザッバーン!!!

 とまた、大量の湯が滝のように俺の頭にかかった。

「・・・・・・」

 こんなポルターガイスト現象(?)に、普通なら恐怖するはずだが、原因を知ってることもあり、少し笑ってしまった。


 床上浸水したような状態になったが、不思議なことに、隣の洗面所は全く濡れてなかった。


 風呂から上がり、寝間着を着てバスルームから出ると、礼香が頬を膨らませて立っていて、何かが書かれた紙を突き付けるように見せてきた。

『セクハラ!』

「褒めたのに?」

 コン!

「いて!」

 側頭部を金属で叩いた音と痛みを感じて横を見ると、宙に浮いたお玉があった。

「お玉で叩くな! 結構痛いぞ!」

 お玉が当たったところをさすりながら言うと、

『うるさい! 自業自得!』

 そう書かれた紙を突き付けてきた。

 褒めたのに怒られるってどういうことだ?と思いながら布団に入る。

「あ、もしかして怒ったのって…」

 独り言のように言うと、礼香が振り向いた。

「…照れ隠し?」

 コーン!

「いってー!」

 どこからか飛んできたお玉が、俺の頭に当たった。

(これは図星か?)

 なんて思いながら、横になって寝た。


この作品は、「カクヨム」で掲載したものをいろいろ手直しして掲載しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ