第十五話 『七皇竜の二人』
数年間も情報を遮断された環境で過ごしていた俺でも、七皇竜の名前くらい知っていた。
というか、この世界ではそこら辺の子供でも知っていると言っても過言ではない。
時竜、炎竜、海竜、天竜、地竜、聖竜、冥竜、言わずと知れた竜族の伝説だ。
冗談抜きで、その姿を見て生きて帰ったものは居ないと言われているらしい。
俺が知っているのはこのくらいだが、それだけでも俺の戦意をへし折るには十分な情報だ。
もし本当にこの二人が七皇竜ならば、最初から俺が戦うなんて選択肢は存在しない。
それに、家の前にいる竜から押し寄せてくる威圧感だけでも、俺が始めに戦った竜とは格が違うと分かってしまう。
「ん、おいペテルバルク、何でこの家に人族の男を連れ込んでんだよ!」
「安心してください、彼に我々への敵意はありません。」
「そういうことじゃねぇだろ。もう一度言うが、何で姫様の近くに人族を連れ込んでんだよ!」
言い争いの余波で、俺はもう全身からの冷や汗が止まらないんだが。
でも、地竜を見たことで分かった、何故他の竜がこの家を襲わないのかが。
地竜もしくは地竜と天竜のがここに住んでいるからだ。
ぺテさんからはそこまで大きなプレッシャーは感じないが、地竜と対等に口論していることからも、それは単に抑えているだけなのではないだろうか。
「もしかしたら、彼は予言が指し示していた人間かもしれません。」
「なにっ、」
地竜が驚いた声を上げたことで、一旦口論が幕引きする気配を見せた。
「アベル君、君はあの転移魔方陣で飛ばされてきたのですか?」
「ま、まあそうだけど。」
「それに、彼は自身の性をリュートマスと名乗りました。ジオラストーク、これが偶然で片付けられると思いますか?」
「なるほど、確かにその男が予言が指し示す男である可能性が高いかもな。」
俺について話しているのに、俺がそっちのけで会話が進行しているんだが。
まず、予言なんて俺は知らないぞ。
「一旦その威圧を解いて、ここに座って下さい。」
「ふん、まあもし本当にその男が予言が指し示す男なら、攻撃する訳にもいかないか。」
地竜は渋々と言った風にぺテさんの言葉に頷いた後、威圧を解いてから人型へと変化した。
人型となった地竜の容姿は、茶髪とを短く切られており普通にこっちを見つめているだけなのに、なんだか睨まれているかも、と思わせる目つきをしている。
何故か人化した時からズボンまで履いており、その筋肉質な胴体が見えている。
「で、ずっと黙っているお前ぇ!」
人型となったことで入れるようになった入り口から、ずかずかと地竜が歩ながら俺に話しかけてきた。
そして、ドカンと勢いよく俺の前の椅子に座ってから、地竜はもうほとんど答えは出ているという風な顔で、俺に尋ねた。
「お前は予言が指し示している男で間違いは無いか?」
場に一瞬だけ沈黙が流れた。
地竜は、俺が予言とやらの指し示す男だと確信をしている風だが、その確信は間違っている。
ここ一か月前までは奴隷だったのだから、そんな予言なんて知る機会はなかったし、そもそも俺は自分が七皇竜の役に立てる程大層な人間(半魔)ではない。
だが、だからってこの質問に答ることは出来ない。
だってさっき、「もし本当にその男が予言が指し示す男なら、攻撃する訳にもいかないか。」みたいなことを言っていたので、俺がその予言の男でなければ地竜は俺を殺すだろう。
適当に自分を予言の男だと偽っても、何か一つでも予言の男しか分からないことを質問されれば、きっとばれて同様に殺されることだろう。
そういう結論に至った俺は、
「俺は、予言の男について聞いたことがない。」
尻すぼみになりながらも、俺は真実を打ち明けた。
その直後、俺に手刀を放った姿勢で固まる地竜と、その手刀を押さえつけるぺテさんがいた。
「なに邪魔してんだ、ぺテルバルク!」
「まだ彼が予言の指し示す男でないと決まった訳ではないでしょう。」
「はぁ、この男が自白したんだから確定だろうがよっ!」
そう言って、俺というよりぺテさんから距離を取る地竜。
だが、俺への警戒心は減るどころかドンドン増していっている。
一方ぺテさんも、話し合いは無理と悟ったのか、臨戦態勢に入ろうとした。
その時、
「キューキュッー、ピェーー。」
この場の緊迫した空気に全く似つかない雰囲気の鳴き声が聞こえてきた。
声の主を見ると、そこには一匹の小さな小竜がベットの上に居た。
そして、その小竜が瞬間ぺテさんと地竜は一触触発だった状態から、一気に焦ったように顔色を変えてから、
「ラシア様、落ち着いてください、ほ~らほ~ら。」
ぺテさんは近くにあった鈴のついたおもちゃを小竜に向けて振ってあやし出した。
さらに、
「ラシア様見てくれ、いないいないばあっ」
その目つきでそれをやられると、多分大の大人でも怖がるだろうに。
だが、そんなことをは関係なしと、小竜は叫び続ける。
「キュピ――キュ、ピーーピキュピ―。」
「そ、それは申し訳ありませんでした。」
「すまんラシア様、近くで喧嘩を始めようとしちまって。」
鳴き声の意味を理解したのか、二人は申し訳なさそうに謝罪を初めた。
七皇竜でも、駄々をこねる赤子には勝てないらしい。
そして、小竜が鳴くのを止めてからも、二人はあの手この手で小竜のご機嫌取りをしていた。
小竜も、ある程度機嫌を直したのか、近くにあるおもちゃを使って遊び始めた。
そして、さっきの緊迫した状況から一変、なんとも言えないアットホームな光景を見せられた俺は、
「俺は何を見せられてんだ?」
と、そう呟いていた。
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