第十四話 『なんでここに家が建ってんだよ!』
「や、やばい。」
無数にある不安材料の中で、今最もタイムリーな問題がある。
「食料が全然無い。」
そう、食料問題だ。
なにせ、こんな事態は想定していなかったのだ。
多く見積もったとしても、もう一日分は切っている。
日帰りのダンジョン探索に、わざわざ多くの食料を持ち込むような冒険者なんていない。
何日も帰れない可能性を考慮して、もう少し持ってくればよかったと何度も後悔したが、今更だ。
今、俺は昨日の竜との戦いの後見つけた少し大き目な洞窟の中に居る。
つまり、衣食住の内二つはコンプリートされているのだ。
「まあ、これがあるから何とかもう数日は持つけどさ。」
俺は、今焼き終えたその肉をほおばる。
「うまい!」
俺が今何を食っているの分かるだろうか?
正解は、昨日殺した竜の肉だ。
見た目に違わず食感は片目だが、俺が「身体強化」した状態で木と木を擦ることで生み出した火で焼けば普通に食べられる。
まあ、今ある分以外は他の竜に持っていかれちゃったからここには無いので、もっと竜の肉を食べたければ狩るしかない。
だが、流石に何回もあんな戦いを続けていれば、俺は死んでしまうだろう。
「どうしたらいいのかな、はぁ~~~。」
「教えて差し上げましょうか。」
俺は一瞬で「身体強化」を使用して、洞窟の外に全力で跳ぶ。
そして、すぐさま俺がさっきまでいたところに「シャイニングボール」を打ち込む。
「シャイニングボール」を撃ち終えると、俺は全身にブワッと冷や汗が流れたことを感じる。
(もし今の男が俺を殺そうとしていたら、多分俺は殺されていた。)
この一帯の動物は、竜に怯えて逃げてしまったのか竜以外で見たことが無いので、基本は俺以外に気配を感じれば敵だと判断して問題ない。
そのため、俺は肉を食いながらも警戒を怠ってはいなかった。
だが、今の男は俺の警戒を軽々と突破しやがった。
しかも、今いきなり横に現れた男は、
「いや~、物騒な挨拶ですね、まだ僕が敵だと決まった訳じゃないのに。」
聞き間違いではなかった。
こいつは言葉を使って話している。
竜に理性が無いということは、今やそこら辺の子供でも知っている常識だ。
その点、目の前に突然現れた男は人型をしている。
それに、冒険者のような恰好ではないけれど、この男は普通に町で歩いてそうな服を着ているし、紫色の短髪を持っていてけっこうな美青年だ。
もしかしたら、俺と同じようにこの薄気味悪い森に飛ばされてここにいるという可能性もまだ残っている。
その場合、俺の横に気配を出さずに近づける程の実力は俺にとっては脅威だが、味方ならばとても心強い。
俺は、警戒を緩めずに尋ねる。
「すまない、この森には竜がうじゃうじゃしているからな。常に警戒をしていたんだ。」
「それにしては簡単に私は近づけましたけどもね。」
理由は分かっているだろうに、笑いながらそう言ってのける男。
「まず、お前は何故ここに居るかを教えてくれ。」
男の言葉が正しいという保証はどこにもないためここで始末するのも手ではあるのだが、かと言って味方である可能性もまだ捨てきることが出来ない。
「僕はここに住んでいるんですよ。昨日、このあたりで何か騒ぎがあったから様子を見に来ただけです。」
「ん?」
返答が俺の想像の斜め上過ぎて、理解が訪れるのに数瞬の遅れが出来てしまった。
だってそうだろう、こんな竜がどこにでもいるような危険地帯で、人族はおろか魔族ですらまともな生活をすることなんて不可能と言っても過言ではない。
しかし、俺の警戒を軽々突破したこの男ならば可能なのか?
ここで求められるのは、否定でも敵対でも信用でもない言葉。
すなわち、
「じゃあ、住んでいるところを見せてもらってもいいか?」
「いいですとも。」
あっさり承諾しやがった。
というか、さっきから今までこの人からはほとんど警戒心を感じられない。
まあ、もし本当にここに住むことの出来る程の実力者ならば、俺をあしらうことぐらい容易だと思うけれども。
そんなことを思いながら、俺はこの男についていった。
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「改めまして、僕の名前はぺテルバルク、今代の天竜をしています。気軽にぺテさんとでも呼んで下さい。」
「は、はいっ。」
俺は、天竜ペテルギウスことぺテさんの自己紹介に、若干裏声気味な声で答えてしまった。ん、天竜?
いつもなら、その天竜の名にもっと驚いただろうが、俺はその事実が吹っ飛ぶほどの衝撃を受けていた。
先程まで俺は、住んでいるところと言っても少し大きな洞窟に住んでいるのだろうとばかり思っていた。
だが、結果は俺の反応通りに真逆だった。
俺は今、トウカさんとオリビアと共に過ごした家の倍はある巨大な家の中に招かれていた。
竜が大量に行き来するこの土地で、こんなまともな家が存在するとは思っても見なかった。
こんな薄気味悪い森には全くもって似つかない家だ。
何故こんなところに家が建ってんだよ。
「あなたの名前は?」
俺が衝撃によって固まっているのを感じたのか、ぺテさんが俺に質問をしてくる。
「俺の名前はアベルだ。」
「ん、名前だけではなく性の方も教えてくれませんか?」
何故性を聞くのか分からないが、減るもんじゃないんだし答えるか。
「リュートマスだ、アベル・リュートマス。」
「なるほど、やはりか。」
何がやはりなのか分からないが、俺は気になったことを聞いてみる。
「何でここには竜が寄ってこないんだ?」
「ああ、それはね、」
ぺテさんが途中まで話そうとした時、突如俺の背筋に悪寒が走った。
恐怖のせいで、うまく体が動かずに硬直してしまう。
まるで目の前に死が迫っている、そう思わせるほどの圧倒的プレッシャー。
勝つことなんて不可能だと、そう思わせられる。
「おー-いぺテルバルク、戻ってきたぞー-。」
そんな間の抜けた声をあたりに響かせながら、気配が入り口の前まで歩み寄ってきて止まった。
俺は、硬直する体を無理やり動かして、入り口方向を見る。
そして、窓から外を覗いた。
するとそこには、昨日俺が殺した竜の三倍はある大きさを持つ、圧倒的な恐怖をそこら中にまき散らす一匹の竜がいた。
「彼は七皇竜の中の一人である、地竜ジオラストークです。」
マジですか。(この土地に来てから二回目。)
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