第十二話 『新天地から再スタート』
「こ、ここは?」
今さっき俺はあの転移魔方陣を踏んでしまった俺は、今周りを覆っていた光が収まり、周囲の状況を見れるようになった。
薄い霧が周りには立ち込めており、俺が魔獣狩りをしていた森とは違ってここは薄気味悪いという言葉がぴったり当てはまるような森だ。
「は、早く二人のところに戻らないと!」
そう思って下の魔方陣を見ると、長く使っていなかったからか「パリッ」という音を立てながら割れてしまった。
これでは使い物にならないだろう。
「クソッ」
もちろん、俺だって転移魔方陣で飛ばされたところから飛ばした魔方陣を使って帰れるなんて思ってはいない。
だが、今は藁にも縋る思いなんだ。
はっきり言って、俺は奴隷商で数年、あの町周辺だってここ一か月くらい歩き回っただけだ。
あの町の地理はおろか世界地理なんて一つも分からない。
帰る手掛かりはあの魔方陣しかなかった。
(どうすればいいんだ!)
そんなことを考えていると、突如俺の背筋に悪寒が走った。
本能に従い俺はとっさに横へ飛ぶ。
すると、さっきまで俺が立っていた地面は圧倒的な質量によって吹き飛ばされた。
「な、なんだ!?」
俺がさっきまでいた位置には、全身に頑丈な鱗を纏いながら俺を殺意に染まった目で俺を見てくる一匹の竜がいた。
背中には竜族特融の羽が生えており、全身の大きさはは俺が三人重なってようやく同じくらいだ。
俺の人生で対峙してきた全ての生物の中で、多分最もでかいだろう。
「ぁっ、」
俺は驚きが大きすぎて逆に声が出ない。
人間驚きすぎると、混乱しすぎて声が出なくなるんだな。
なんというか逆にそんなどうでもいいことに頭が回る。
「ギェェ、ゲォォォォオオオオ」
甲高い咆哮と共に、竜は俺に向かって飛んでくる。
とっさに「身体強化」を使用して回避するが、頬に若干かすった。
もし一秒でも魔法の発動が遅れていたら、俺は死んでいただろう。
そう考えた瞬間、俺はようやくはっきりと自分の状況を認識する。
俺は今、絶体絶命の窮地に立たされているのだと。
「ギョエ、フネゥ。」
俺が避けたことで、竜は俺に今までとは違って俺を見定めるような視線を向けてくる。
しかし、俺は分かっている、こいつと俺の実力差ぐらい。
俺は確かにこの一か月で今までと比べ物にならないぐらいに成長してさらに強くなった。
だが、この世のどんな天才だって一か月で竜とタイマンで勝てるようになることはないだろう。
よって、俺の取れる選択肢はただ一つ。
そう、逃げることしか出来ない。
そう結論を出した俺は、すぐさま竜から猛スピードで逃げ出した。
「ゲゲェ?」
一瞬俺が何をしたのか理解できていなかった竜だが、その意図が逃走だと理解した瞬間、顔を怒りに変えて俺よりもはやい速度で翼をはためかせながらに迫ってくる。
オリビアやトウカさんと合流することも大切だが、そのことも俺が生きていることが前提なんだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
せっかく幸せを手に入れることが出来たんだ。
覚悟は別れる瞬間にもう決めた、何年かかっても必ず戻るのだと。
しかし、竜と俺の間には覆しえない程の圧倒的な力量差が存在する。
この状況を打開する術を、オリビアとの地獄のような訓練を思い出して考える。
数瞬の思考の末、俺は思った。
そもそも竜のあの質量の前には地形を生かしても、それを無視して飛んでこれるだろう。
俺の「シャイニングボール」だって、あの鱗の前では無力だろう。
逃げ込める洞窟を探し出すのだって、もう時間が無い。
速度も奴の方が上なので、普通に逃げては無理だ。
方法が全然見つからない、生き残るための。
それに思い至った途端、俺の心は徐々に諦念に蝕まれていくのを感じる。
(諦めるのか、俺?)
この状況の打開策なんて思いつかない。
でも、そんなことで諦めていいのか、俺?
いやだめだ。
諦める訳が、諦められる訳が無い。
彼女たちに戻ってくると誓った時、俺も覚悟を決めた、何年かかっても必ず帰るんだと。
こんなところで諦められるはずがないじゃないか。
「ギャェェ」
俺は生き残るために奴を正面に見据えた。
「かかって来いよ、テメェなんかさっさと倒して俺はトウカさんたちのもとに戻る!」
固めた覚悟を自分に言い聞かせる。
俺は、こいつに勝つしか道は無い。
「身体強化」を全開にした俺は、迫ってくる奴を避けるため上へ五メートルほど跳ぶ。
まずは周りの大まかな地形を把握したい。
だが、そんなことが落ち着いて出来るほどの余裕は俺にない。
下からぐんぐんと加速しながら迫ってくる奴を、俺は近くの木を蹴ることで横に大きく跳ぶ。
奴は一旦上空で滞空して、俺の動きを観察し出した。
だが、俺は奴のその行動が気にならない程に動揺していた。
(やばいやばい、どうなってんだここは!)
俺は上空でとんでもない光景を目撃してしまった。
その衝撃は、いきなり自分に竜が襲いかかってきた時とは比べ物にならない。
俺は数瞬間上空に少し跳んで周りの地形を把握しようとした時に見てしまった、あの数十匹はいるであろうの竜の群れを。
「マジですか。」
俺は若干現実逃避気味にそう言うことしか出来なかった。
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