第十一話 『閑話 アベルの居なくなった町』
「な、なんだと、ガラドたちが殺されたと言うのか!」
「はい。」
アベルがダンジョンに向かっているころ、ワンダルフはこの一週間アベルを観察させた結果をアルベドから聞いていた。
そして、報告された内容が信じられずに思わず声を荒げてしまう。
部屋にはワンダルフとアルベドしかいない。
「すまない。それで、死体はどうなっている?」
「すでに処分されました。」
ガルドたちは、この町でも指折りの実力を持つ冒険者だ。
それを、アベルたった一人で殺したというのだからどうしてもワンダルフは信じられない。
「それから、前この冒険者ギルドに半魔と同行していたオリビアという者も、その場におりました。」
「そうか。」
ちなみに、アベルたちのことはアルベドがある程度調べているので、ワンダルフは彼らの名前ぐらいは知っている。
まあ、名前以外のことはほとんどわからなかったけれど。
彼は、つい一週間前にアベルと共に来たオリビアを思い出していた。
あの時も、オリビアに対してワンドソンはそこまで意識していなかった。
きっとオリビアもあの時、アベルと同じような認識阻害のアーチファクトを着けていたのだろうと予測する。
「分かった、今は下がれ。また用が出来れば呼ぶ。」
「はっ。」
アルベドの居なくなった部屋で、ワンドソンは得体のしれないアベル一行をより一層不気味に感じるのだった。
だが彼は知らない。もうここにアベルはいないことを。
.......................................................
...............................
...............
「ええ、そういうことで,、では。」
トウカは、地下に降りて左側にある部屋で、今日ダンジョンで起こったことをキルゴットに報告していた。
竜族と人族が共に戦う絵のこと、転移魔方陣のこと、そしてチームの中の一人であるアベルがその魔方陣によってどこかへ飛ばされてしまったことなどを。
「連絡は終わった?」
トウカが振り返ると、そこには暗い顔のオリビアがいた。
トウカは思う。オリビアは、けっこうアベルに懐いていたな、と。
トウカの時でもそうだったが、オリビアは基本無口だ。
アベルは気づいていなかったが、オリビアは彼と出会ってから表情が少し多彩になっていた。
キルゴットではお互いに過去に何があったかを聞くことは、暗黙の了解でしないことになっているので、トウカはオリビアについてはほとんど知らない。
オリビアも過去に色々あったのだろうが、アベルは彼女の心の支えの一人だったとトウカは思っている。
「そっちも?」
「うん。」
そこまで長い付き合いではないけれど、トウカとオリビアは同時にあのときのことを思い出していた。
~トウカさん、オリビア、絶対戻ってくるから、それまで待っていてくれ!~
その言葉にはなんの根拠もないけれども、彼女たちはそれを信じるしかなかった。
「アベル君、戻ってこれるのかな?」
「・・・。」
オリビアは何も答えない。
でも、二人ともそれは難しいと分かっていた。
キルゴットから調査隊が派遣されなければ分からないが、転移魔法で飛ばされた冒険者は基本的に生きて戻ってこない。
これは、冒険者たちの常識と言っても過言ではない。
即死級ダンジョンに飛ばされたり、魔族地方や竜族大陸に飛ばされたり。
「もう寝る。」
そう言うと、オリビアはこの部屋から出てまっすぐ寝室に向かった。
トウカも、他にやることも無いのでもう休もうかと思うのだった。
(戻ってくるんだぞ、何があっても。オリビアと私の為にも。)
第二章は飛んでいったアベルを軸に書きますが、ちょいちょいこういうトウカたちの閑話をはさんでいきます。
「面白かった!」
「もっと読みたい!」
と思ったら、
下の☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
作者のモチベーションになります。
また、ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願い申し上げます。