第九話 『初めての対人戦』
「おらぁ!」
手に持つ長剣を物凄い勢いで振りかざすガルドから、俺は一旦状況を落ち着いて分析するために大きく後方に跳んだ。
すると、そこには木が生い茂るこの森の中でかなり広いスペースがあった。
ガルドは、俺を逃がすまいと追撃を仕掛けてくる。
その状況で、俺は考える。
まず、あいて側にはタイという魔力持ちが一人と、近接戦を仕掛けてくるソンカという男とガラドの剣使いが二人。
あの町に住んでいるのだから、三人とも魔族にも通用するくらいの実力の持ち主なのだろう。
タイは、余裕があるのか詠唱をしながら杖の上に魔力を集め、絶妙なタイミングで土魔法である「アースボール」を放ってくる。
だが、その集まっている魔力量はそこまででもなく、あと十発も打てば彼は魔力切れを起こすだろう。
次に、ガルドについてだが、こいつはとにかく身体能力が高い。
こちらは「身体強化」を使っているのに、一向にガルドを切り離せる気がしない。
最後に、もう一人の剣使いことソンカだが、こいつはガルドの攻撃にピッタリ息を合わせた連携攻撃が厄介だ。
では、俺たちはどうだろうか?
俺の戦法は、主に「身体強化」で距離をとりつつ、隙を見て「シャイニングボール」を打ち込むしかない。
最終手段として、オリビアという鬼札があるけれど、期待はできないだろう。
「シャイニングボール」はまだ三、四十発は打てるので、心配しなくていいだろう。
「身体強化」も、トウカさんとのランニングのおかげでもう三十分は持つ。
つまり、俺は持久戦に持ち込んで、タイの魔力切れを待てばいい。
そう結論を出すと、俺は改めてガルドから逃げ出すのだった。
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「オラァ、ちょこまかと逃げんじゃねぇよ!」
「あいにく、俺にそんな義理はない。」
戦い始めてから、十分ほど経った。
ガルドたちは、未だに先程と同じような攻撃を続けているが、このままではあっち側はジリ貧になると感づきだしたようだ。
「いったん立て直そうか。」
ソンカがそう言うと、ガルドもそう思っていたのかタイのいる後方まで下がる。
彼らは、俺への戦闘態勢を解かぬまま俺に聞こえないくらいの声量で、話し合いを始めた。
そして、話し合いが終わったのか、ガラドとソンカはまた走りだした。
だが、少しさっきまでと違うことがある。
ソンカは今まで通り俺に向かってくるのに対して、何故かガラドはタイを背負いながら、俺ではなく俺の周りを回るように走り出した。
すると、背負われているタイが彼の腕に今までとは比にならないくらいの魔力を集めだした。
「な、なにっ!?」
俺は目の前の状況に驚いて、思わず口から声を漏らしてしまう。
普通魔力を練ることは、手から離れれば離れるほど難しくなる。
今の俺の技術では、拳ぐらいの魔力を練ることしか出来ない。
オリビアが一度だけ魔法の授業で、魔力を直径一メートルほどの大きさまで練ってドヤ顔をしていたことを覚えている。
あの時は、別次元だな、と思っていたし、他に出来る奴なんていないだろと流していた。
だが、目も前でもオリビアと同じように魔力を直径一メートルほどの大きさまで練っているタイを見ると、俺の認識が甘かったのだと気づかされる。
「これだけ魔力を圧縮すりゃ、てめぇも避けれねぇだろ。」
基本、魔力は圧縮をすればするほど魔力の発射速度は速くなる。
まして、あそこまで大きく練られた魔力なら、今までの速度の数倍は出るに違いない。
俺はソンカの攻撃を避けながら、脳をフルスロットルで働かせる。
タイが魔法の準備を完了するまで、あと十秒ぐらいだろう。
それ以内に、どうすればこの状況を切り抜けられるのか
俺は考え続けたことで、天啓のようにとある方法を思いついた。
(この方法なら、いける!)
一瞬、人を殺すことに抵抗を感じたが、今後もこんな風に人と戦っていくのだから、気にしても仕方ないだろうと割り切る。
(こんな風に割り切れるのは、きっと俺が魔族の血を引いているからなんだろうな。)
そんなことを思いながら、俺は右手に魔力を練っていく。
普通に「シャイニングボール」を打ったんじゃガルドには避けられてしまう。
ではどうするのか?
答えは単純だ。気づかれない程小さく練ればいい。
俺は、右手に出来た直径五ミリくらいの「シャイニングボール」を、予備動作なしでガルドの脳天に向けて放つ。
五ミリくらいの大きさだとしても、決して遅いわけでは無い。
反応できていたガルドが異常なのだ。
俺の放った「シャイニングボール」は、ガルドの頭に小さく穴を開けていった。
ガルドはそこから血を少しづつ垂らしていった。
「が、ガルド?」
俺と打ち合っていたソンカは、状況が呑み込めないのか俺のことを忘れてただガルドの方を見ていた。
その隙に、俺はソンカに普段通りの大きさの「シャイニングボール」を打ち込む。
「ぐはっ、ゲホッ、ゴボッ」
ソンカは、俺の魔法に直撃してしまい腹から血を流しながら倒れた。
けれども、その腹の怪我は誰が見たって致命傷だった。
一方、ガルドは、
「ぎゃゃゃぁぁー---、い、痛ぇ痛ぇ、ぎゃゃぁあぁ!」
自身の傷の痛みが伝わったのか、タイを放り出して苦しみだした。
あいつももうじき死ぬだろう。
放り出されたタイはと言うと、事態を理解してしまったのか、逃げ出した。
「ま、待て!」
俺が追いかけようとすると、木の上からオリビアが降りてきてタイの首を鮮やかに切断した。そして、
「よくやった。」
そう褒めてきた。俺も、人殺しをしてしまったというのに案外落ち着いている。
「正直、現実感が無いけどな。」
「慣れておくといい。いづれは殺しは経験させるつもりだった。」
普段通り淡々と話すオリビアに、なんだかホッとする。
「まして、今回は正当防衛だ。人族だったとしても罪にはならない。」
「もしかして、慰めてくれてるのか?」
俺がそう聞くと、オリビアはふんっと目を逸らしてから、手慣れたように魔法で死体を焼き始めるのだった。
俺は、死体から出る悪臭に耐えながらそれを手伝うのだった。
木の上にいる女性のような人影に気づかないままに。
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