8 聞いてくれましたか、私の話?
過去の話が長くて申し訳ありません。
ここから、現在に戻りますっ!
季節は移り変わり、みんな大人になっていきます。
私は二年生になりました。
イディオン魔法学園に通うのもすっかり慣れてきて、新入生たちが騒ぎ立てる通学路を、私は涼しい顔で歩き去ります。
さわやかな春の風が、ピンク色の花を散らしていきますね。
ところで、みなさまにおかれましては、どうなったかと言いますと。
お兄様とアルト先輩は、もちろん進級して三年生に。
私の婚約者であるナルシェ様は、やっぱり一年生をやり直しでした。
まぁ、勉強しないのですから自業自得ですよね、ざまぁでーす!
「おはようございます!」
校門に立って挨拶活動をしてくださっている男子生徒に、見覚えがありますね。
私のことを、バカ公爵の魔の手から救ってくださったヒーロー!
──風の貴公子 ティオ・ガレーネ様
彼は、女子男子ともに絶大な人気を誇り、新学期そうそうの選挙戦で、見事に生徒会長の座を勝ち取りました。
私のお兄様も生徒会長に推薦しようとしたら、やめろ、と言われました。
きっと、アルト先輩と遊んでいる方がいいのでしょう。
たしかに、ティオ様が聖騎士なら、クリスお兄様は魔王軍竜騎士って感じですからね、とても生徒会長には向いてません。
え? アルト先輩ですか?
そうですね、町の武器屋……と言ったところでしょうか、うふふ。
まあ、冗談はさておき。
お兄様たちがいる残りの一年間、私は思う存分に楽しもう!
そう決意しつつ、ほんわかと二年生を過ごしていました。
ところが、私のまったりスローライフをぶち壊すやつが、突然現れたのです。
それは魔法学園の全校集会で、学園長のクソ長いスピーチが終わりを告げた、その瞬間でした。
そうです、私が婚約破棄された、つい先ほどの話に戻ります!
「生徒諸君! 本日は俺のために全校集会を開いてくれてありがとう」
まるで舞台俳優のように、颯爽とステージに現れたナルシェ様。
つるっぱげの学園長が、おろおろとするなか、彼は大声をあげます。
俺のために? w
いや草が生えますよね、全校集会は定例の行事なのに。
「新しい婚約者を紹介しよう!」
すると、コツコツと踵を鳴らしてステージを歩くひとりの綺麗な女子生徒に、みな視線を奪われてしまいました。
「モニカだ!」
そう叫んだナルシェ様は、ギュッとモニカさんを抱きしめます。
まるで花のように笑う彼女は、男子生徒の心を射止めたのでしょう。
瞳がハートマークになっている男子生徒が、ダンスを踊ていますね。
全生徒の視線が集まり気持ちが、ハイ、になったナルシェ様は、ビシッと私を指差して宣言しました。
「よって、メルル・アクティオスとの婚約を破棄する!」
すると、ほとんどの男子生徒たちが大喜び。
「おおおお! やったー!」
「おめでとうございます!」
「お幸せに!」
などと祝福の歓声が巻き起こりました。
はてな? なぜみなさんこんなにも祝福をするのでしょう?
私が訝しんでいると、隣にいたイリースさんが、そっと耳打ちしてくれました。
「メルルさんがフリーになったから、男子たち喜んでいるのですわ」
なるほど、と私は納得しました。
ですが、もう一度しっかりと言質を取りたいので、私はナルシェ様に聞き返しました。
「婚約破棄……そうおっしゃいましたか? ナルシェ様」
そして、私は土下座することになったのですが、この話には、続きがあります。
ゆっくりとひざまずいた私は、首を垂らそうとした、そのときでした。
「その必要はない!」
風の貴公子ティオ様が、私の隣に現れたのです。
彼は、すぐに私を立たせると、きつくナルシェ様を睨みつけました。
「全校集会はもう終わったんだ。みんな学園長の長いスピーチを聞いてうんざりしているのに、君は何をやっているのだ! 退学にさせますよ」
おろおろする学園長は、
「わしのスピーチ長い?」
と一言だけつぶやいています。
笑いを取ったティオ様は、生徒会長の権限を存分に使いました。
「モニカさんの証言だけでは、メルルさんがいじめをした証拠にはならない。したがって、メルルさんが土下座をする必要はない」
ナルシェ様は、チラッとモニカ様を見つめ、不敵な笑みを浮かべました。
「証拠ならここにある、ほれ、これがそのノートだ」
ナルシェ様の掲げた手のなかに、一冊のノートがあります。
開かれたページには、デカデカと【モニカのバーカ!】と書かれてありました。
私は、驚きました。
なぜなら、あんなものを書いた覚えがないのに、筆跡が私のものだったからです。
モニカさんは、スカートのポケットから一枚の紙を取り出します。
それは私が書いた、魔道具研究サークルのチラシでした。
文化祭で子どもたち向けに催した企画ですのに、なぜモニカさんがあれを?
【 みんなで遊ぼう! 楽しい魔道具! 】
「見ろよ生徒会長! メルルの字と同じだ、これで言い逃れはできん!」
「……メルルさん?」
チラッと私のほうを見るティオ様。
これは、疑いのある目ですね、どうしましょう。
助けを求めようとクリスお兄様を見ますが、ズボンのポケットに手をつっこんで、何やら物思いにふけってます。
もう、なんでこんなときにカッコつけて!
ではアルト先輩は? と首を振って探しましたがどこにもいません。
あのグルグル眼鏡、全校集会をバックれて寝てますね!
一方、モニカさんはナルシェ様の腕に抱かれて、
「ざまぁ……」
と、つぶやきやがります。
くっそ~、そのセリフは私のものなのに!
絶対どこかにトリックがあるはず、私の筆跡をまねできるなんて……。
「さあ、土下座しろ!」
ナルシェ様が、大声をあげました。
私は、これで婚約破棄させてもらえるなら土下座してしまおう、そう思って、また膝をつきました。すると、ステージにあがる背の高い男子生徒がいます。
あれは、クリスお兄様!
「妹がすまなかった」
そう言って、なんと土下座しています。
嘘でしょ? と私は思い、なぜか涙がこぼれました。
なんで? なんで? 私の代わりにお兄様が土下座を?
「わーははは! 学園で一番強いクリスが土下座かぁ、って言うことは俺は学年で一番偉いってことになったな」
「……」
「もう良いぞ、面をあげよ。兄の勇気に免じて土下座は許してやろうメルルよ、だが教会に行って懺悔はしてこいよ」
ありがとうございます、そう言ったお兄様は、スッと立ち上がるとポケットから一枚の紙を出しました。
「さっそくですがナルシェ様、この書類にサインを」
「ん? なんだそれは?」
「パシュレミオン家とアクティオス家の婚約を破棄する書類となります」
「……え?」
「ではサインを」
「いや、俺の一存では婚約破棄できないと、メルルが言っていたけど?」
「その通りですが、まずここにサインを頂き、その上でパシュレミオン公爵に持っていきサインを頂戴するのです。息子の意思を尊重するはずですから」
「……あ、いや、まだいっかな」
「ナルシェ様、たったいま婚約破棄するとご自分で言ったではないですか? 新しい婚約者までつくっておいて」
モニカさんがナルシェ様のことを、熱く、熱く、見つめています。
さあ、どうするバカ公爵、ほんとにざまぁでーす!
「ええい、こんな紙切れ、あとでどうにでもなるからな!」
そう言って結局、クリスお兄様の眼力に負けて、ぎこちないサインをするのでありました。
これで婚約破棄は成立しそうですね。
ですが、お兄様を土下座させたことは、倍にして返してやらないと、私の#ジャイアントキリング__大番狂わせ__#の精神がおさまりません。
何か、いい方法は? と考えている、まさにそのときでした。
ドゴッ!
講堂の壁に穴を開けて、バイクが突っ込んできました。
それは爆発的な動力をあげて、ステージを走り、なんとナルシェ様をまた例によって引き倒したのです。
これには生徒たちも先生方も大爆笑でしたね。
乗っているのはもちろん、グルグル眼鏡の男の子です。
彼は、ポケットから緑の瓶を取り出すと、ポイっと投げてモニカさんに渡します。
「ポーションで婚約者を回復してあげてね」
うんうんうん、と首を縦に振りまくるモニカさん。
バイクを生まれて初めて見たのでしょう、もう完全にビビってますね。
ブゥン
バイクはうなりをあげてステージから飛び降り、生徒たちを交わしながら、ついに私のところまできました。
「さあ、乗ってメルル」
「え?」
「逃げよう」
そう言ったアルト先輩は、私の手をつかむと、バイクの後ろに乗せてくれました。
ふわり、と浮いた感じがしました。
【妖精の息】をさらに強化した魔道具が、バイクについているのでしょう。
これなら、乗り降りが楽です。
ふたり乗りした私とアルト先輩は、みんなから注目の的でした。
全校生徒は、わーきゃー叫んでいます。
お兄様は、
「やれやれ、またドジッたあいつの後処理か……」
と文句を言いつつも、微笑みながら壊れた講堂の壁を修理してます。
お兄様は、土魔法のエキスパートですからね。
イリースさんは、バイバーイ、と言って手を振っています。
私は笑顔で手を振ると、アルト先輩の腰に手を回しました。
「さて、お姫様、どこまで逃げましょうか?」
アルト先輩が、そう聞いてくるので私は、
「光の教会まで……」
と答えました。
そして今、私はなんと……。
神の赤ちゃんイヴを抱いている、という展開なのですが。
「光の神ポース、聞いてくれましたか、私の話?」
「……ん? ああ、いい話ですね、もう終わりですか? ふぁ~くそねみぃ」
「ちょっと……聞いてませんでしたね、ポース?」
「うふふ、話が長くて、つい睡魔が……」
んもう、と私がほっぺをふくらますと、イヴがまねをして、ほっぺをふくらせて遊んでます。
ポースは、ほう、と感心した様子で、私たちを見つめました。
「へー、もうイヴと仲良しですね」
「ふふっ、赤ちゃんは、人の顔を見て学ぶらしいです。だからこうやって、笑ったり、変な顔をして見せてあげるのがいいのです。前世で、私のお母さんが言っていました」
「すごいねーメルルは!」
「前世で、赤ちゃんだった妹の子守りをしてましたから」
「子守り? なんですかそれは?」
「まあ、孤児院のシスターみたいなものですね」
ふぅん、とポースは言いました。
光の神は、興味があることと興味がないことの境界線が、はっきりしているようです。
「ところで、バイクに乗せてくれた男の子は?」
「さあ? アルト先輩ってスローライフな人ですからね。私を教会で降ろしてくれた後のことは知りませんし、興味もありません」
「あっさりしてますね」
「ええ、友達なんてそんなもの、ですよ?」
と言って、私がイヴを抱き直した、その瞬間!
【 乙女ゲーム 】
私の頭のなかで、またこの言葉が浮かびました。
意識を集中し、神経を研ぎ澄ませます。
すると、何やら胸騒ぎがしてきました。
これはどこかに、
【 攻略対象者 】
がいる!
私は、すぐに移動を開始しました。
読者様、いつも読んでくれて、ありがとうございます。
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