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7 一分だけ、私を好きにしていいですよ?

評価してくれた読者様、ありがとうございます!

 

「おい、ここに立て!」


 ナルシェ様に連れてこられた場所は、講堂の裏にある木々が生い茂った、なんとも暗澹たる日陰でした。

 誰かをいじめるには、ちょうどいいかもしれませんね、ここ。

 と思いながら、私はまわりの様子をうかがいます。

 講堂では、まもなく三年生が卒業式を迎えるため、予行練習が行われていました。

 それにともない、二年生は在校生として出席しているわけで……。

 あ、なるほど!

 お兄様とアルト先輩がいないこの時を狙って、私をいじめようとしていますね、ナルシェ様のバカヤローは!

 絶体絶命のピンチに、私のほっぺに冷や汗が流れます。

 

「ふふふ、誰も助けにはこねぇよ、シスコンの兄貴もオタクの先輩も……」

「!?」

「おい、おまえら教師が来ないか、そっちで見張ってろ」


 そう取り巻きに指示を出すナルシェ様。

 悪巧みに関しては、知恵が働くようですね、少しだけ関心しましたよ。


 スッ……。


 私は、敬意を払い両手をあげました、ええ、これは降参の合図です。

 

「一分だけ……」

「ん? どうしたメルル? 急に……」

「一分だけ、私を好きにしていいですよ?」

「な、なんだと!? いいのか?」

「私に何をしたいか謎ですが、私をこんなところに連れてきたということは、何かしたいのでしょ?」

「おいおい、物分かりがいいじゃないか……メルルもやっぱり女だな」

「ただし、一分以上は無理ですからね、クラスに戻らなければ、友達が心配してしまいますから……」


 私が、そう言った瞬間。

 ナルシェ様の腕が伸びてきて、私の首にからめてきます。

 そして、私のポニーテールの黒髪を指先でなでながら、むにゅっと胸のほうへ移動していきました。

 男の人が私の身体に何を求めているか、まったく検討もつきませんが……。


「んっ、あっ……」

「可愛い声だすじゃねぇか、メルル」

「……ん」


 なぜか、ドキドキします、悔しいですね……。

 21、22、23、と心のなかで秒針を数えていると、ナルシェ様が私の唇に顔を近づけてくるので、なんとかそれを遅らすため、話しかけることにしました。

 

「ナルシェ様は、留年するんですか?」

「……なぜ知っている?」

「先ほど、勉強を教えやがれ、そう言われていたので」

「ああ、ここの教師は天才の俺に、また一年生をやれというのだぞ! まったく」

「……あの、それってテストが赤点なだけでは?」

「え、そうなのか?」


 コクリ、と私はうなずきます。

 ナルシェ様は、自分の髪の毛をくしゃくしゃとかきました。

 精神攻撃の効果は抜群のようですね。

 

「俺はメルルとともに卒業してから結婚したい、そう思っている」

「……!? お言葉ですが、結婚するまえに私の体に触れるなど……許されると思っていますか? お父様に言いつけて、婚約を破棄させますよ?」

「あはは、おまえの父親などパシュレミオン公爵家が命令を下せば言いなりだ」

「……サイテー」

「うるさい! 一分だけと言わず、キスさせろ!」

「それだけは……嫌です。私、好きな人とキスしたいから……」

「はぁ!? 嘘だろ……メルル、俺のことが好きじゃないのか?」


 はい、と私がキッパリ答えると、ナルシェ様の顔に、闇のような黒い影が貼りつきました。

 仮面をはがしてしまえば、本当の顔が出てきます。

 やっと本性を表しましたね、欲にまみれたクソヤローの本性が。


「ダメだ! メルルは俺のものだ! おまえが好きじゃなくても関係ない!」


 乱暴に私の身体を、強く抱きしめるナルシェ様。

 もうあと十秒で一分です。

 この変態をぶん殴って、この場を離れましょう……そう思ったとき!

 

「やめないか!」


 木の陰から、ひとりの男子生徒が現れました。

 

「女子生徒に暴行を加えるなど、許しません! 退学にしますよ」


 そう言って、ビシッと指を差すこの方は、たしか二年生の……。

 

 ──東の都市アグロスを統治するガレーネ公爵の長子、ティオ・ガレーネ様。


 学園へ多額の寄付、それに成績もトップレベルで、すべての生徒に平等である姿から、次期生徒会長と噂される人物です。

 そのような殿方が、なぜこんなところに?

 ティオ様は、注がれる太陽の光りをエメラルドの瞳に輝かせつつ、サラサラと青い髪をそよ風に吹かせながら、こちらに歩いてきます。

 さすが風の神を加護しているだけありますね。

 すべての仕草が、なんてさわやかなのでしょう!

 彼の身体からいい香りが漂ってきて、もうたまりません。

 ああん、これなんてアロマ?

 

「女子生徒が震えているじゃないか! その手を離しなさい!」

「ああ! うるせぇ、この女は俺の婚約者だから何をしてもいいんだよ」

「それは違います! 女性にも選ぶ権利があります!」

「はあ? 何を言ってんだ? あんたも貴族ならわかるだろ、女は男の奴隷みたいなもんだ」

「……ふっ、時代錯誤もここまでくると、笑えますね」

 

 ──風魔法 ウィンドプレス

 

 ティオ様が、サッと手をかざすと、木々がゴウゴウと揺れ、どこからともなく突風が吹き荒れてきました。

 すると、なぜか不思議なことにナルシェ様だけが竜巻に襲われて、

 

「ぐべらぁぁぁ!」


 と、叫びながら空に飛んでいきます。

 あらあら、このままいくと落下した衝撃で、首の骨が折れて即死ですね。

 ナルシェ様、冥土の土産に私の身体にさわることができてよかったですね……ご愁傷様。

 しかし突然、ティオ様は、まるで落ちる鳥のようなナルシェ様を、地面に墜落するギリギリで風魔法を放って受け止めてあげました。

 うわぁ、優しいですね、この次期生徒会長様は。

 やっぱりできる人は、やることが違います。

 

「では、私はこれから講堂で卒業生に向けてのスピーチをしなくてはならないので、これで失礼します」

「あの、そのようなお忙しい時に助けていただき、ありがとうございます」

「いえいえ……実は、みんなの前でスピーチするのは緊張するのです。だから講堂裏の静かなところで集中力を高めていたら、君たちの喧嘩を見つけて仲裁しただけのこと、あ! このことはみんなに内緒でお願いしますね」

「……はい」

「じゃあね、メルルさん」


 去り際、にっこり笑って手を振るティオ様。

 わぁ、私の胸が、ばっくんばっくんなんですけど……どうしようこれ?

 惚れてまうやろ……と、このときは思いましたが。

 今思うと、なんで私の名前を知っているの?

 と、ツッコミしたくなりますよね。

 本当にこの乙女ゲームみたいな世界は、面白いです。

新しい殿方、ティオ様が出てきましたね。

はい、どんどん攻略していきますよぉ‼︎


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