6 魔法学園の生活が楽しい。
ブクマしてくれた読者様、ありがとうございます!
お兄様は、魔法学園の女子生徒からモテモテでした。
美貌のあるお兄様が歩くと、どこからともなく花びらが舞ってきて、さわやかな風が吹くのです。
「ああ、なんて清々しい朝でしょう!」
私、お兄様、アルト先輩のさんにんは、校門の前で待ち合わせをし、登校をすることが日課となっておりました。
そのおかげだと思いますが、私にちょっかいをかけていたナルシェ様の動きは、まるでストーカーのように成り下り、草葉の陰から見ているだけになりました。
はい、ざまぁでーす。
「ん?」
お兄様目当ての女子生徒たちが、わーきゃーと集まってまいりましたね。
まるで、小鳥の大合唱です。うるさい……。
本人は、ひょうひょうとしていますが、隣にいる私とアルト先輩は、完全にモブキャラとして見られていまして、女性生徒たちからまったく眼中にありません。
「ではメルル、放課後は例の場所でな……」
「はいお兄様」
「じゃあね~メルルちゃん」
「アルト先輩、授業中に寝ちゃダメですよぉ」
「は~い」
なんて会話をして、一時解散。
あ、例の場所ですか?
それは【魔道具研究サークル】のことです。
部員はお兄様、アルト先輩の他に、まあなんと言いますか、アイドルオタクのような男子生徒が数人いるくらいの、弱小お荷物サークルでございまして、簡単に言うと……。
私をびっくりさせて、面白がるクラブでした。
「キャァァァ!」
突然、強い風が吹いて、私はスカートを手でおさえます。
パ、パンツが見えちゃう! いやんっ。
男子生徒たちの視線が熱いのは、なぜ?
今思えば、私、メルルはオタサーの姫になってますよね、あはは……。
「な、なんですか、これ?」
「これは魔道具──妖精の息、風と火の魔石を使ってつくってみた」
「アルト先輩すごーい!」
「これがあれば、いつでもどこでも髪を乾かせるぞ」
「やばーい! お風呂のあとに使っていいですか?」
「いいよー! これを持っていけー」
今思えば、これはドライヤーでしたね。
でも当時の私は、未知なる道具に大興奮でした。
私は、ルンルンで、妖精の息を受けとると……。
「はーい、お兄様もっ」
ブウォー
温かい、いや、だんだん熱くなってくる風をお兄様の髪にあてました。
すると……。
「あちちっ! メルル、止めろ止めろ!」
「うふふ、これサイコー!」
いつもクールでかっこいいお兄様が、あわててます。
アルト先輩と私は、大笑い。
つられて、オタクな男子生徒たちも笑っていました。
──ああ、魔法学園って、こんなにもクソ面白い乙女ゲームだったんですね……。
美しい宮殿のような校舎、机や椅子が整然とされた教室、それに愉快なクラスメイトに素敵な先生方たち……。
私は、魔法学園の生活を楽しんでいました。
魔法は使えないですが、選択した科目は魔法工学科なので、実戦などはなく、履修するのにはまったく問題はありません。
ちなみに勉強するのは、数学、物理学、生物学、歴史学それに魔法工学です。
授業のほうは、まあそれなりに難しいですが、お兄様と同じ血筋をもつ私です。
頭脳だけは、負けていませんよ!
教壇に立つひげもじゃ先生から、
「生徒諸君も知っていると思うが、魔力をためることができるのは魔石。では、魔力を通さない石は……誰か知っているかな?」
シーン……
生徒の誰も手をあげませんので、ッス……と私は、手をあげます。
もちろん涼しい顔で、控えめに謙虚に。
「メルルくん、答えよ」
「はい、それはジャマー石です。主な産地は都市リトスにある鉱山です。地質学的には、北にある氷の都市クオーンの鉱山にもあると予想しますが、なにせ雪の多い地帯です。山を掘削するには、骨が折れることでしょう」
「……うむ、正解を超えて、エクセレントじゃ」
ひげもじゃ先生が、グッジョブと親指を立てます。
すると、まわりの生徒たちが、
「ヒュー、すげー!」
「さすが学年トップ」
「魔法学園の黒い薔薇」
などと言っていますが、これって私のこと?
ひげもじゃ先生は、生徒いじりに火がついたのか、さらに私に質問します。
「では、メルルくん。魔族どもを都市に入れさせないための結界は聖石だが、レイガルド王国にある都市の名前、それにともなう結界である聖石の神を答えよ!」
「はい……
北の都市クオーン、聖石は火の神ピューレ。
南の都市タラッタ、聖石は水の神クリュード。
東の都市アグロス、聖石は風の神アモネス。
西の都市リトス、聖石は土の神オロス。
そして、中央にある王都イディオンの聖石は、光の神ポースです。なお、北は極寒の氷の国ですが火の神、南は常夏の太陽の国ですが水の神を崇めているところが、ひっかけ問題です」
シーン……
あれ? 私の答えるスピードが、あまりにも速かったのでしょうか?
先生はおろか、生徒みんなの目が点になっていますね。
心配になった私は、さらにテストに出そうなところを追加して話します。
「ちなみに、聖石は定期的に祈祷を捧げないと、魔族を祓う効力が減少します。よって聖地巡礼を忘れないよう、国家、教会ともに細心の注意が必要です」
ぱちぱちぱち
ここで、生徒たちから拍手が鳴り始めました。
私は、ちょっと照れくさくなり、下を向いて教科書を見つめます。
静まり返っていた教室は、本日最高の盛り上がりを見せ、生徒たちの噂話は、さらに加速していきました。
「メルルさんって本当に素敵……」
「しかも綺麗だしスタイルも抜群だよな……」
「ああ、だがもうすでに婚約者がいるらしいぜ……」
「知ってる、剣術科にいるナルシェっていう貴族だろ……」
「え! ナルシェってあのパシュレミオン公爵の跡取り息子の?」
「すげー! 国王陛下の親戚、あのパシュレミオン公爵かよ……」
「メルルさんの将来は安泰だ……」
「でも、ナルシェ様って成績が悪くて留年するらしいよ……」
「うん、不良の生徒たちとつるんでいるのを見たわ……」
「あ、噂をすれば……」
午後の授業が始まる前、のほほんとしている教室に突然、けたましい怒鳴り声があがりました。
「メルル! ちょっと来いっ!」
ズカズカ、とナルシェ様が、怖い顔をして私たちの教室へ入ってきました。
彼のまわりには、いつのまにやら取り巻きの不良生徒たちが数人いますね。
これにはさすがにクラスメイトたちも、ドン引きです。
お金に物を言わせて、下僕にしているのでしょうが。
内情は借金まみれの家計のくせに、よくやりますね?
私の手を、グイッとつかむナルシェ様の顔は、完全に悪者のそれでした。
「おまえ、俺の彼女なら勉強を教えやがれ!」
「……えっ?」
「ここの教師は頭が悪いんだ、俺の成績を落としやがる!」
「……ちょっと、落ち着いてください」
「メルル、おまえはなぜか成績がいいらしいな、コツを教えやがれ」
「お断りしますっ」
バシッ!
私は、思い切って手を払いました。
この拒絶は、ナルシェ様にとって逆鱗に触れたのでしょう。
彼は、グッと拳をつくって大きく振り上げました。
殴られる!? そう思って目を閉じたとき。
クラスメイトで一番仲良しのイリースさんが、
「ナルシェ様、暴力はやめてください!」
と、勇気ある行動をとってくれました。
亜麻色の髪をハーフアップに結んだ、育ちのよき伯爵家のお嬢様が、なんと私のために怒ってくれています。
これには感動してしまって、私は心で泣いていましたね、ほんとに。
しかもそれだけではありません。
イリースさんだけじゃなく他のクラスメイトたちも、ナルシェ様に帰れ帰れコールを浴びせました。
おお、これはこれで、ざまぁでーす!
しかしナルシェ様は、まったく帰る様子はなく、まるで蛇のように睨みました。
「なんだ貧乏貴族ども、この公爵家の俺に逆らうのか?」
ビクッ
クラスメイトたちの背中が、一瞬にして凍りつく気配が感じとれます。
これは剣幕、という殺気ですね。
剣術だけは得意なナルシェ様の必殺技でした。
「場所を変えるぞ……」
そうナルシェ様に言われ、私は素直に従います。
ここで戦闘はしたくありません。
心配した顔をするイリースさんに、
「大丈夫、すぐ戻りますから……」
と言って聞かせますが、イリースさんは、でも……と言ってなお心配そうな顔を私に見せます。
ああ、まるでヒロインのような友達のためにも、早く教室に帰って来なければ……。
私は、ナルシェ様の言うとおりに、歩いていくことにしました。
メルルが連れていかれちゃった…どうなる!?
次回、ちょっとだけえちぃ♡