2 とりあえず、悪者をぶっ倒しました。
光の神ポースは、両手を合わせ、お願いしています。
私は、抱いている赤ちゃんをあやしながら、質問しました。
「この子は、神の子なのですか?」
『はい、創造神ルギアの子、イヴ、です。わけあって、メルル、あなたに育てて欲しい』
「私に育てて欲しいなんて……そのわけとは?」
『実は、母親が人間なのです。つまりイヴは神と人間のハーフ』
「あら!? それは大変!」
『そう、大変なのですよ! おかげでこっちはその後処理に追われているのですっ! まったく!』
ポースは、浮かぶ不思議な絵画のなかで、ほっぺをふくらませてプンプン。
これ、どういう原理なのでしょうか?
ツンツン、指が映像を突き抜けました。
それにしても、どうやら神のなかでも人間社会と同じく、上下関係があるようですね。
上司と部下、先輩と後輩、創造神ルギアと神々たち……。
少しだけ、神々に親近感がわきました。
「ポース、落ち着いて、ね?」
『ハァハァ……あ、すいません。で、話を戻しますね』
「うん」
『イヴを産んだ人間の母親は、シングルマザーなことを親族に反対されました。そして、イヴを教会にお連れしたあと、なんと川に身を投げてしまい、もう天国におられるのです……ああ、悲しみが深い』
「……あのぉ、父親である創造神ルギアは、いったい何をしているのしょうか?」
『創造神ルギアは、この世界の支配者なのですが、無類の女好きでして……綺麗な人間の女性に手をつけては英雄や美女を生み落とすのです。でも人間の母親にとっては、ただのヤリ逃げ、ですよね?』
「浮気なんて、サイテー」
私は、赤ちゃんを見つめました。
名前は、イヴ。
くりくりの青い瞳、柔らかい金髪、透き通るような白い肌をしています。
それに、背中に生えた天使の羽。
はい、誰が見ても、神の子どもですね。
親はクズ神様かもしれませんが、この子に非はありません。
「わかりました、私がイヴを育てましょう」
『わぁ、ありがとうございます、メルル』
「あのぉ……ところでポースはどうやって話をしているのですか? これって液晶テレビ? 宙に浮いていますね、不思議……」
『ああ、これは液晶テレビではなくて、ウィンドウ』
「ウィンドウ?」
『はい。これは便利ですよ~、あらゆるデータを管理することができる光魔法です。メルル、あなたも使えるようにしておきましたから、お楽しみにね!』
「ひ、光魔法!?」
『……あ! 誰か来ます……ちょっと抜けますね』
「え! ちょっと待ってください! まだ聞きたいことがっ!」
『メルル、もし戦闘になったら、手で拳銃をつくって、ライトビーム、そう唱えてください』
「ライトビーム? 私、魔法は使えないのですが?」
『もう使えますよ、加護を与えましたから、無双級の魔力を……』
ヴゥン
ウィンドウは、重い音をあげて消えました。
な、なんなの? と思っていると、一人の男が歩いてきます。
鼻にピアス、袖のない黒い革のジャケット、とがった靴をはいていました。
はい、見るからに、悪者ですね。
「ママさーん!」
「え? 私のこと?」
「捨て子窓口をお探しですか?」
「あ、この赤ちゃんはですね……」
「おめでとうございます! あなたの赤ちゃんはパイザック社が責任を持って育てましょう」
「はい? パイザック社?」
「おや、知らないのかい? なんでも買いますパイザック社を!」
「……?」
「まあ、いいや。とにかくママさん、その子ども捨てるんだろ?」
「いや、この子は、すでに捨てられていたのですが……」
「なら、話は早い、こちらに渡すんだ」
「嫌です」
よこせー! と怒鳴り声をあげる悪者。
……ッ!? うるさいですね。
論破して、差し上げます!
「おい悪者! おまえはいつも捨て子窓口から、無断で赤ちゃんを奪っていますね?」
「ギクっ!? そ、そんなことはしてない!」
「まあ、いいでしょう。シスターを呼んで、赤ちゃんを引き取ってもらいますから」
「うわぁ、待て待て、お兄さんと取引をしようじゃあないか?」
「ん?」
「5ペンラ、いや、10ペンラやろう、これで好きな物でも買いなさい」
「はあ? 1ペンラはこの国の通貨。日本でいうと100円の価値、つまり10ペンラだと1000円ですね……じゅるり、ヨダレが……。美味しいラーメンが食べられる金額ですよ……ブツブツ」
「ねえちゃん、頭、大丈夫か?」
「……はっ! いけない! 私としたことが、前世の記憶が戻ったいま、お金のことを考えると、つい商人ルートを爆走してしまうようです」
「ああん? なにさっきからごちゃごちゃと意味不明な……さっさと赤ちゃんをわたせやー!」
「嫌です! っていうか、赤ちゃんは売り物じゃありません!」
あっかんべー、と私は舌を出しました。
それを見たイヴは、きゃっきゃ、と笑います。
ああ、なんて可愛いのでしょう、そのほっぺにキスしたい。
「よこせっ!」
「ほう、口で勝てないなら、暴力ですか……まぁ、いいでしょう」
「うるせー! こちとら生活かかってるんや! 奴隷商人なめんなっ!」
──奴隷商人!?
私は、そうつぶやきながら、手で拳銃をつくりました。
狙い撃つのは、やはり悪者の頭です!
おや?
赤いレーザーポインタで、照準を合わせられそうですね。
これなら私でも、狙うのは楽勝。
なぜなら、これはまるで……。
FPS── ファーストパーソン・シューティングゲームのようなもの!
ああ、なんて素晴らしい。
前世でゲームをしていたことが、役に立ちました。
私は、オンラインのFPSゲームでは、ものすごいスピードで敵を倒していくことから、エイムの女神、そう呼ばれていましたから……。
おっと!?
忘れるところでした、呪文を唱えるのでしたね。
「ライトビーム」
バキュン!
ものすごい光が一直線に飛んで、みごと悪者をヘッドショット。
KO──ノックアウト
そんな言葉が、この場にあっていますね。
すると、イヴが私の腕の中で、キャキャ、と笑っています。
おそらく、悪者がぶっ倒されて、とても嬉しいのでしょう。
はい、私も同じ気持ちですよ。
うふふ、イキがっていた悪者がこらしめられる姿は、すごく快感ですよね。
私とイヴは、うふふ、キャハハ、と笑い合いました。
「ざまぁでちゅね~」
ピコッ
またウィンドウが現れて、光の神ポースが、手を叩いて笑っていました。
『すごい、すごい! メルルすごーい! こうも簡単に光魔法を操れるなんて、あなたに加護を与えてよかった~』
「そうですかぁ? なんだか照れてしまいます」
『はい、レーザーポインタに気づくなんて天才的なゲーム感覚です! もしかして、他のゲームもやってたりします?』
「えっと……たしか、前世ではシューティングゲームも好きでしたね」
『わお! オタクなのは乙女ゲームだけじゃないんですね、メルルを侮っていました……』
「まぁ、特に好きなのは乙女ゲームですが……格ゲー、音ゲー、ロープレ、タワーディフェンスなどなど、ゲームと名がつくものは、だいたい好きです」
『そうだったんですね。では、乙女ゲームが特に好きな理由はなんですか?』
「えっと、その……イケメンとキスができるから……きゃっ」
顔を赤らめながら答える私、ああ、恥ずかしい。
ふぅん、と光の神ポースは言うと、指先を教会に向けました。
『ところで、メルルは教会で何をしていたのですか?』
「ただの懺悔ですが、何か?」
『いやぁ、一番最初に神の赤ちゃんを抱き上げた人間に、加護を与えよう、そう思っていましたので……』
「なるほど、悪者のお兄さんが抱っこしなくてよかったですね」
『はい! 本来なら教会のシスターになるはずでしたが、まあ、結果オーライです。メルルでよかった。これも神の思し召しでしょう』
「……うふふ、ポースも神様ですよ?」
『あら、そうですね』
私の絶妙なツッコミに、光の神ポースは、にっこりと微笑みました。
『しかし、なぜ懺悔を? 見たところ、メルルの心はピュアですが?』
「ピュア? そう思いますか? 先ほど婚約者から悪役令嬢とののしられたばかりなので、そのお言葉に救われました」
『あら、その婚約者はひどいです』
「ですよね! しかも新しい婚約者をつくって私のことを婚約破棄したんですよ!」
『うわぁ、その婚約者、ぎゃふん、と言わせたい……メルル、もっと詳しく話をして下さいませんか?』
「共感してくれてありがとう。私の話を聞いてくれますか? 神様」
ええ、と言って光の神ポースは、うなずきます。
私は、イヴを、むぎゅっと強く抱きしめました。
「それでは聞いてください。私、メルル・アクティオスが婚約破棄されるまでの物語を……」
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