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番外編 アルト先輩がお兄様との出会いを語るようです。

メルルの家に泊まることになったアルトは、クリスとの出会いを語ることになり……。


 ──レイガルド王国王都イディオン宮殿


「なぜ身分制度があるのですか?」


 この質問を、父上である国王陛下にしたのは、僕が七歳のときだ。

 レイガルド王国を統治する者の考えを聞きたいのもあるし、何より父上と話せる機会はあまりないので、とっておきの質問を用意しておいたのである。


「アルストロよ、それはこの世界が虚構だからだよ」

「きょこう……ですか?」


 帝王学を勉強している僕にとって、虚構の意味くらいは知っている。

 虚構とは、事実ではないことを事実らしくつくりあげることだが……。

 この世界が虚構とは、いったいどういうことなのか、このときの僕には、まったくわからなかった。

 父上は、僕の頭を優しくなでると語り始めた。


「例えば、ある平民が税金を納めたくないと言って、国を出るとする」

「はい」

「そして、その平民は自然のなかで生活をすることになるわけだから、家をつくり、畑をつくりしていくうちに、いつしか住みやすい環境が整うだろう」

「そうですね」

「さてここで問題! さらに税金を納めたくないと言って国を出た平民が仲間に加わっていくと、さてどうなると思う?」

「それは……ひとつの集団が生まれますね」

「そう、それが国の誕生だ。彼らはさらに家をつくり、畑をつくり、家畜を飼ったり、敵から身を守るために高い壁を築くだろう。そして、人々をまとめる者が王様となり、その王様の家族たちが国を動かすため、人々からお金を集めれば、ほらもう身分制度のできあがり」

「父上、ちょっと待ってください!」

「ん?」

「そうすると、また税金を納めたくない人物が国を出て新しい国を誕生させる、それの繰り返しではないですか?」

「その通りだ。このレイガルド王国の歴史を紐解いてみなさい、アルストロよ」


 レイガルド王国の歴史? 

 たしか僕のご先祖様は天界から降りて、この国をつくったと聞く。

 だから僕は王子だし、父上は王様で、将来生まれるであろう僕の子どもだって王様になる。

 でも、それって永遠に続くことなのだろうか?

 いつしか税金を納めたくない民がたくさん現れたら……。

 この国はどうなる?


「父上、人がつくった偽りの身分制度は、いずれなくなるかもしれませんね?」

「大正解! だから私たち王族は謙虚にしなければならない」

「けんきょ?」

「王様だからと言って偉そうにせず、いつでも誰からでも学ぶ気持ちがあるということだ」


 それだ!


 と、僕は強く思った。


「父上、僕は民から学びたいことがいっぱいあります」

「ほう、たとえば?」

「魔道具です!」

「ふふふ、なかなか目の付け所がいいな、さすがアルストロ」

「しかし、宮廷教師たちは魔道具のことを目の敵にしています。魔道具がもっと広まれば、魔法が使えない民たちの暮らしが楽になるのに……」


 うむ、と父上は言うと窓の外を眺めた。

 宮殿から望む下界は、まるで宝石のように光り輝いてる。

 太陽の陽射しを浴びる女神像が、頂点でそびえる大聖堂。

 白亜の建造物が並ぶ大通りの先には、レイガルドを守る城壁がぐるりと囲っているわけだが、虚構の話をされたあとだと、不思議な箱に見えてきてしまう。

 人間を鑑賞する、舞台のような大きな箱……。

 いや、星アステールからしたら、この国なんて小さな箱か?


「アルストロよ、社会勉強のため都へ降りてみるか?」


 唐突に父上は言うと、にっこりと笑った。


「はい! いきます」


 と僕は、元気よく答えた。

 そして僕は、イディオン魔法学園の寮で生活することになったのだが……。


「このグルグル眼鏡……ダセェ」


 王子という身分を隠すことが父上との約束で、学園での僕の名前は【アルト】にされた。

 僕を王子だと知っているのは、学園長と近衛兵のリーダーくらいだ。

 したがって、僕は眼鏡をかけ、髪を下ろして、学園生活をしている。

 なぜなら、僕の瞳の色は黒い。

 不思議なことだが、この国では王族しか黒い瞳はいない。

 だから僕は、毎日のようにグルグル眼鏡をかけている。

 おかげで、学園生活において僕が王子とバレることはなかったし、そもそも僕は陰キャである。

 教室のすみっこで授業を受け、トイレで弁当を食い、テストはわざと手を抜いた。

 誰からも相手にされないことをいいことに、僕はたんたんと魔道具の勉強をしまくって、ついに自分で制作できるようになった。

 初めてつくったのは、ボタンを押すと火がでる魔道具だった。

 魔法が使えない僕だけど、魔石とアイデアさえあれば、魔道具を制作することに問題はない。

 だが、より高度な魔道具をつくるには、鉄や銅などを加工する必要があることがわかった。

 魔道具を極めるためには、土魔法の能力が絶対にいる。

 だがあいにく、僕は土魔法を使えない。

 どうしよう……と絶望していたら、奇跡が起きた!


「はじめまして、クリス・アクティオスです」

 

 なんと、土魔法を得意とする男子生徒が入学してきたから、びっくり。

 彼の自己紹介をよく聞けば、どうやら都市リトスの出身らしい。

 アクティオスといえば、土の神オロスの加護を持つ血筋として有名な一族だ。

 やったー!

 僕は、ぜひ友達になりたいと思い、クリスくんに近づいた。

 だが、彼はめちゃくちゃモテた。

 完全に陽キャであり、完璧なイケメンだったのである。

 近づこうにも、女子たちに囲まれていて、無理。

 逆に僕は女子たちから、「じゃま」と言われ突き飛ばされてしまう。


「謙虚に、謙虚にだぞ、アルト……これが民の性質なのだ」


 と、自分に言い聞かせていたのをよく覚えている。

 そんなある日、クリスくんが同じ寮に住んでいることが判明して、僕の心は浮足だってしまうのだった。


「よし、ここなら女子の邪魔は入らない」


 彼は花壇の手入れが得意で、というか土いじりが好きで進んでやっていた。


「ふぅ……」

 

 なんて息を吐いて、クリスくんは仕事の手を休めている。

 男なのに髪が長いので、耳にかける仕草など美しさすら覚えた。

 すると、やはり綺麗な花に集まる虫のように、人々が集まってくるから大変そうだ。

 クリスくんは、先生に褒められ、男子たちからちやほやされ、なんとも素晴らしいカリスマ性を持っていたわけだが……。


「土魔法のおかげです」


 と、クリスくんは言うと、みんなが「すげー!」と感激している。

 もうクリスくんは、僕の手が届かないところに行ったな。

 そう思いながら、僕はトイレ掃除をしていた。

 

「レイガルド王国第一王子がトイレ掃除してるなんて執事やメイドが知ったら、きっと泣くだろうな」


 そう、つぶやいてしまった。

 すると、使用されていたトイレの扉が開いた。


「おまえが王子なわけないだろ、妄想してないで掃除しろや!」


 出てきたのは高学年の男子。

 全開に開いたシャツからこぼれる、でっぷりとした腹が痛々しい。

 年齢は十二歳だが、髭が生えていて完全におじさんに見える。

 まあ、いわゆる番長というやつ。

 人を殴ることに快感を得るタイプの人間で、番長に殴られて怪我した生徒が多数いた。

 そして今、僕は標的にされているわけだが……。

 周りを見回しても、肝心なときに近衛兵がいない。

 父上が用意してくれたのだが、完全に仕事をサボって油を売ってやがるあいつら。

 

 バキバキ、ボキボキ


 番長は、拳の骨を鳴らしながら僕に近づいてくると、ブサイクな口を開けた。


「どこを殴られた~い?」

「……はぁ」


 今日は最低で最悪な日だな……。

 僕は、ジャケットの内側にある魔法銃に手を伸ばした。

 護身用として父上がくれたものだ。

 

「こいつは使いたくなかったが仕方ないな……」

「何を言ってやがるクソガキぃ!」


 拳を振り上げた番長が、僕に向かって突進してくる。

 するとそのとき!

 どこからともなく石が飛んできて、番長の顔面に命中した。


「ぶっべらぁぁぁ!」


 クソみたいな悲鳴をあげた番長は、KO!

 泡を吹いて、寝んねした。

 びっくりした僕が、


「誰だ?」


 と叫ぶと、ひとりの男子生徒が入ってきた。


「弱い者をいじめるやつは大っ嫌いだ!」


 それは、クリスくんだった。

 うぉぉ、かっこいい!

 実は怖かった僕は、グルグル眼鏡の下から、ダーダーと涙が流れてしまう。


「助けてくれてありがとう!」

「礼には及ばない、悪者をざまぁすることが好きだから」

「え? ざまぁ?」


 僕は、クリスくんの意外な一面を見てしまった。

 

「いってて……頭がくらくらするぜぇ」


 意識を取りもどした番長が、立ち上がろうとしている。

 すると、クリスくんは指先に魔力をためて近寄った。

 頭上には、巨大な岩が、ズンっと浮かんでいる。


「番長! 俺は土の神オロスの加護を受けている」

「ヒェ……」

「いじめをするなら、ロックストライクを食らわせてやるからな!」

「あばばばば! もうしません、もうしませんから許してください」

「よし、じゃあ消えろ」

「あっぁっぁあっ、ふぁいぃ!」

 

 一目散に逃げていく番長。

 クリスくんは、指先をくるりと回した。

 すると、不思議なことに巨大な岩は消えて、さらにトイレが清潔になっていく。


「俺の能力は土を操ること、したがってどんな微細な粒子も動かせる、このように埃だってまとめて、ポイっとできる」


 す、すごい……!

 空中でかたまりになった埃が、ゴミ箱に吸い込まれていった。

 僕は、いても立ってもいられず、クリスくんの手を握ってしまう。


「友達になってくれー!」

「……いいけど」


 こうして、僕とクリスくんは友達になり、今ではクソ地味なオタクの集まりである【魔道具研究サークル】を立ち上げて、楽しい学園生活を送っている……。

 

「という感じで君のお兄さんと仲良くなったのだが、わかったかな?」

「……ぐぅぐぅ」

「メルルちゃん? メルルちゃん?」

「はっ! 話が長くて寝ていました、すいません」

「……あっそ」


 それもそうか、今日は色々あって疲れたからな。

 バカ公爵との婚約破棄、奴隷商人との戦い……。

 それに、神の赤ちゃんイヴを育てることになったメルルちゃん。

 僕とメルルちゃんは、アクティオス家の応接室で雑談していたのだが、もうすっかり夜になってしまった。

 隣にいたクリスくんも、すやすやと寝ている。


「もう、お兄様ったらこんなとこで寝ると風邪ひきますよ」


 メルルちゃんは、クリスくんを揺すって起こしてあげた。

 むにゃむにゃしている彼は、まるで赤ちゃんみたいにソワァで寝ている。


「お兄様も赤ちゃんでちゅねー」

 

 メルルちゃんは、胸のなかで寝ているイヴに話しかけていた。

 いきなりお母さんになったのに、余裕があるよな。

 むしろ楽しんでいるように見えるし、本当に彼女はすごいや。

 でも、これから苦しいこともあると思う。

 極悪非道の奴隷商人パイザックに、目をつけられてしまったからな。 

 けど、けどね……。


「僕が守ってあげる」

おわりです。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

感想、お待ちしてますね。

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