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18 婚約破棄できました。


「息子に暴行を加えた罪、絶対に償ってもらうからな!」


 ガハハハ!

 

 豚公爵の狂ったような笑い声が、家じゅうに響きます。

 私は、アクティオス家のみんなに声をかけました。

 

「お父様、お母様、お兄様、執事アルソス、メイドさんたち……ごめんなさい、私……」


 すると、みんな微笑みで返してくれます。

 

「メルルの好きなようにしていいぞ、アクティオス家のみんなはメルルの味方だから!」


 お父様がそう言ったので、私の目から涙がこぼれました。

 本当に私の家族は、最高ですね。

 

 スッ

 

 ハンカチが私に渡されます。

 涙でかすんだ目で、誰かと見てみるとアルト先輩でした。

 

「メルル、あとはまかせて」


 そう言ったアルト先輩は、サッとグルグル眼鏡を取ります。

 そして、手で銀色の髪をかき上げると逆立った髪型をつくりました。

 

 え!?

 

 超絶の美少年が、そこに立っているではないですか!

 誰? 誰? 誰?

 本当にアルト先輩ですかーー?

 

「パシュレミオン公爵、貴様がいくら国王に願っても無駄だ」

「……ブホッ!?」


 豚公爵は、アルト先輩の顔を見るなり、腰を抜かしました。

 

「お、お、お、王子ぃぃぃ!」


 そう叫ぶなり、おでこを床につけて土下座します。

 よほど王子のことが恐ろしいようですね。

 権力を使って偉そうにする者は、より強い権力の前では、いとも簡単に屈するということなのでしょう。

 豚公爵は、ボケッと立っている息子の足を、グイッと引っ張りました。

 

「おい、おまえもひれ伏せ!」

「え、え、グルグル眼鏡が王子? 嘘だろぉぉ!」

「黙れ! このお方こそレイガルド王国第一王子、アルストロ・クラトール様だぞ! ははぁー」

「ははぁー」


 

 アルト先輩は、土下座するパシュレミオン親子を見下します。

 震える豚公爵は、冷や汗をかきまくりつつも、顔を上げました。

 

「恐れながら王子、なぜこんな貧乏男爵家にいるのですか? それに学生服なぞおめしになって……」

「下界に降りて社会勉強していたのだが……まったく、貴様たちのように名ばかりのバカ貴族が我が国を腐らせているようだな、よくわかったよ」

「え?」

「貴様の目は節穴だな! アクティオス家は貧乏ではない」

「そ、そんなバカな!? こんな小さな家で? 令嬢が子守りをしているのに?」

「貴様が乗っている車はアクティだろ?」

「はい、借金して買いました! 最高級の車ですぞぉ」

「バカか……アクティはアクティオスの略称、その車はこの家の工場で製造されている」

「そ、そうなのですか?」

「気づいていなかったのか、まったくあきれるわ」

「すいません……魔道具の製造には興味がなくて……」

「まぁよい、婚約破棄のサインをしろ」


 ははぁー、と頭を下げる豚公爵の目の前に、お兄様は婚約破棄の書類とペンを置きました。

 床にはいつくばってサインをする豚公爵の姿は、なんとも哀れですね。

 アルト先輩は、いや違いますね……。

 王子は、慈愛に満ちた笑みを浮かべました。

 

「パシュレミオン公爵よ、これからは借金などせず、援助金のなかでやりくりをして生活をするがよい、わかったな」

「はい……」

「よし、これにてこの件は落着とする、帰れ!」

「ははぁー」


 執事アルソスに連れられて、パシュレミオン親子は退場となります。

 ふぅ、やっと婚約破棄が成立しました。

 アクティオス家のみんなは、飛び跳ねて大喜びです!


「お嬢様、よかったですね」


 とメイドたちが言います。

 私は、お父様とお母様、それにお兄様と抱き合いました。

 真ん中にはもちろん、可愛い赤ちゃんのイヴがいます。

 アルト先輩は、ニッコリと笑っていますね。

 いつも冗談しか言わないし、変な人だなとは思っていましたが、まさかまさか、レイガルド王国の第一王子だったなんて!

 え、ちょっと待って……。

 私って、王子からデートに誘われていたってこと?

 きゅんでーす!

 

「メルルちゃん、隠しててごめん」


 アルト先輩は、頭を下げました。

 私は、ニコッと微笑みを返します。


「いいえ、助けてくれてありがとうございます」

「あまり王子としての権力は使いたくなかったけど、メルルちゃんとデートしたい気持ちを抑えられなかった」

「え?」

「婚約者がいるのにデートはできない、だろ?」

「あのぉ、お言葉ですが、アルストロ王子こそ婚約者がいそうなものですよ?」

「僕に婚約者なんかいないよ! メルルちゃん一筋だから」

「アルストロ王子?」


 ブンブン、と首を横に振るアルト先輩。

 じゃなかった、アルストロ王子。

 

「ねぇ王子って呼ぶのはやめてよぉ、いつもみたいにアルト先輩って呼んでメルルちゃん」

「え?」

「センパイ、という響きが好きなんだよなぁ」

「はぁ……じゃあ、先輩のままでいきますね」

「よーし! メルルちゃんデートしよー!」


 浮かれるアルト先輩でしたが、背後からものすごい殺気を感じたようで、ビクッとしました。

 はい、お兄様が、#檄怒__げきおこ__#、のようです。

 

「アルトぉぉ! 王子のことは秘密にしておかないと、国王陛下に叱られるではないですかっ!」

「大丈夫だよぉ、父上にバレなきゃ」

「ああ……だから俺の家に連れてくるのは嫌だったんだぁぁぁ」

「ということでアクティオス家のみなさん、僕のことは秘密にしてくださいね! あとメルルちゃんとのデートをお許しくださーい」


 そう言って、にっこり笑うアルト先輩。

 お父様、お母様、それに執事アルソスやメイドたちは、微笑んでうなずきました。

 しかし、お兄様だけは浮かない顔です。

 アルト先輩とお兄様には、いったいどんな関係があるのでしょうか?

 うーん、非常に気になります。

 

「アルトぉ、調子にのるな! デートなんて許さないからな!」

「ええええ、そんなぁ、許してくださーい!」

「ダメだ、メルルは俺の可愛い妹だからな!」

「お願いしますぅ!」

「ダーメ」


 アルト先輩は、潤んだ瞳で両手を合わせてお願いしています。

 うふふ、グルグル眼鏡をかけていないのでイケメンに見えますが、このように情けないことをするのは、いつものアルト先輩なので、ああよかった。

 私は、ありのままのアルト先輩のことが……。

 

「じゃあ、寮に帰るぞ、アルト」

「ええええ! 明日は学校休みだし、泊まらせてくれよぉ」

「ダメだ」

「やだやだ、泊まりたい! これも僕の社会勉強だと思ってさ、なぁ頼むよ」

「うーん、まったく……」


 お兄様は、アルト先輩のことを冷ややかな目で見つめます。

 父様とお母様は、わはは、うふふと笑っていますね。

 私は、なんだかほっと安心して、イヴを抱きしめました。

 

「さあ、お風呂に入りましょうか、イヴ」

「バブバブー!」


 ……!?

 

 なぜか、私の言葉に驚いてこちらを向くアルト先輩とお兄様。

 うふふ、何だか笑ってしまいますよね。

 さて今夜は、いつにもまして楽しい笑い声が、アクティオス邸に響くことでしょう。

 読者様、いつもありがとうございます。

 ついに婚約破棄が成立しました、歓喜!

 と、いうことで……いったん完結します。

 次回は、番外編をお届けしますね。

 アルト先輩とお兄様の関係がついに明らかに!?

 あ! 感想、お待ちしておりまーす。

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