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17 ムカつく婚約者をぶっ倒す私は、そんなに悪役令嬢でしょうか?

都市リトスには、信号機などありません。

騎士による手信号と、譲り合いの精神で、交通は成り立っています。

 

 アクティオス家のみんなは、冷たい目でパシュレミオン公爵を見ていました。

 しかし、彼は何も臆することなく、堂々としたまま立っています。

 

 ニヤリ

 

 意味不明なキモい笑みを浮かべるパシュレミオン公爵は、さらにじっと私を見つめてきやがりますね。

 こっち見んな、豚公爵。

 

「なんだねその赤ん坊は? 子守りなどメイドにやらせればよいのに、本当にアクティオス家は貧乏なのですなぁ」

「……はぁ?」

「だが、土魔法を使える血筋は気に入っておるぞ!」

「あなたの狙いは、土魔法の力ですか?」

「ああそうだ! 都市リトスの聖石は土の神だからな、だからわしはナルシェとメルルさんの子どもが欲しいのだよ」

「……サイテーですね、自分の欲のために子どもを使うなんて」

「ん? メルルさんはナルシェのことが大好きだと聞いているが?」

「嘘をついてますよ!」

「あーあー、そんなに恥ずかしがらなくてもよいよい」


 うわぁ、こいつに何を言っても無駄なようですね。

 私だけでなくアクティオス家のみんな、それにアルト先輩は、あきれた顔で豚公爵を見ていました。

 一方でナルシェ様は、不敵な笑みを浮かべています。

 ああんもう、ムカついてきました!


「とにかく婚約破棄はなしにして復縁してやってもいい、そう息子は言っておるから安心したまえ、メルルさん」

「安心? 私が? なぜ?」

「びっくりしたであろう、息子が婚約破棄なんて言うからな、ガハハ、ほらナルシェからも何か言ってやれ、女は甘い言葉がけひとつでころっと態度が変わる生き物だからな」


 なにこいつ、無理。

 自分の父親に背中を押されたナルシェ様は、への字に曲げていた口を開きました。

 

「復縁してやるからもう大丈夫だぞ、メルル」

「……あのぉ、ツッコミどころはいっぱいあるのですが、まず自分から婚約破棄したのにどのような心境の変化でしょうか?」

「あれはあの女に騙されたんだ!」

「え?」

「モニカだよ!」


 血相を変えたナルシェ様は、さらに強い口調で語ります。

 

「モニカが、自分を新しい婚約者にしてメルルに婚約破棄を告げれば、きっと嫉妬して俺のことを追いかけてくるだろう、そう言ったんだ」

「えっと……つまりナルシェ様は、モニカさんの計画にのった、ということでしょうか?」

「ああ、恋は駆け引き……追えば逃げる、逃げれば追ってくる、とあの女は言ったが、くそっ! なぜかメルルはまったく俺を追いかけてこないじゃあないか! 騙しやがってあの女!」

「あのぉ、失礼ですがそんなことをしてモニカさんに何のメリットがあるのでしょうか?」

「ああん? あわよくば本当に俺の婚約者になれると思ったんじゃないか? バカな女だ、この俺が大好きなメルルを諦めるわけないのになっ! ふんっ」


 それはない! と私は強く思いました。

 実は借金まみれのバカ公爵であるナルシェ様と結婚したい女性なんて、この世にいるわけがありません。

 きっとモニカさんには、何か裏の事情があるはず……。


【 モニカのバーカ! 】


 ふいに思い出したのは、私の筆跡をマネしたノートのことでした。

 あれはいったい、何だったのでしょうか?

 おそらくモニカさんが、魔法を使ったトリックを仕掛けたのでしょうけど、うまく解き明かすことができません。

 うーん、非常に気になりますね。

 ナルシェ様と私の婚約を邪魔する存在が、他にいるというのでしょうか?

 でも、いったい誰?

 私がそう考えていると、突然ナルシェ様は、グイグイと偉そうに私へ近づいてきました。

 抱いているイヴが、嫌な顔をしていますね、よしよーし。

 

「メルル、復縁しよう」

「……いや」

「俺と結婚しよう! そうすればアクティオス家を男爵から公爵にするように、国王陛下に頼んでやる」

「……その必要はありません」

「ん? 伯爵家になれば国から金が貰えて裕福になれるぞ! 一生働かなくていい!」

「もうすでにアクティオス家は裕福なので結構です」

「あ? バカを言うな! こんな小さくて貧乏な家が裕福なわけないだろう! さあ、いっしょにパシュレミオンの豪華な屋敷に住もうではないか!」

「お断りします、あなたの家は借金まみれですから」

「はあ? 何寝言を言っている、俺の家は公爵で金持ちだ! そうですよね父上?」


 ん、まぁ……と言葉を濁しているパシュレミオン公爵。

 真っ青になった顔には、大粒の汗が流れています。

 おやおや、大丈夫ですか?


「最近、国の援助金が少なくなってきておるから、まぁ金を借りているが……」

「え? では俺の小遣いなども借金?」

「まぁな、だが心配することはない。また折を見て国王陛下からお金をたくさん貰えばいいだけのことだ」

「そうですよね、我がパシュレミオン公爵家は王族の血が流れてますからね!」

「その通りだ! ガハハハ」

 

 フッ。

 

 鼻で笑うアルト先輩のグルグル眼鏡が、きらりと光っています。

 すると、お兄様が私の隣にきて、スッと耳打ちしました。


「もう我慢できん、殴ってでも婚約破棄のサインさせてやる」


 ツカツカと歩くお兄様は、パシュレミオン公爵に迫ると書類を突き出します。


「ここにサインを! あなたの息子は学園の生徒たちや先生方の前で婚約破棄を告げたのです。みんな見ていますゆえ、撤回はできませんよ」


 すると、豚伯爵は腹を抱えて笑いました。

 

「ガハハハ、学園にいる貧乏平民や位の低い貴族のことなど気にすることはない。メルルさんの気持ちを考えなさいお兄さん、うちのナルシェのことが大好きで結婚したいのだから」

「え?」

「兄らしく妹を祝福してあげなさい。アクティオス家だって公爵になりたいでしょう? ねぇ、伯爵育ちであるテミスさん」


 突然ふられたお母様は、ビクッと姿勢を正しましたが、豚公爵のことを睨んでいます。

 

「パシュレミオン公爵様、もう爵位はどうでもいいので、婚約破棄となっても結構でございます」

「なっ、バカな!?」


 血相を変えた豚公爵は、大粒の汗を流しまくります。

 ちょっと、家の絨毯にぽたぽた落ちているじゃないですか、あとで掃除をしなくてはいけませんね。


「パシュレミオン公爵様、もういいでしょう、婚約破棄のサインをしてください」


 すかさず、お父様もそう言ってくださいました。

 お父様、お母様、大好きです!

 腕のなかにいるイヴも、きゃっきゃと笑っています。

 しかし、なんとも往生際が悪いようですね。

 ナルシェ様が、ものすごい剣幕で私に迫ってきました。

 

「メルルー! 復縁してくれー!」


 ナルシェ様は、バッと両手を広げ、いきなり私に抱きつこうとしてきます。

 なぜこの状況で私を抱こうとするのか、本当に意味不明な思考回路をお持ちですね、このバカ公爵は!


「あーキモい、キモい」


 前世の記憶が影響したのでしょう。

 私の口から、つい本音が出てしまいました。


「キモいとは何だメルル、俺はイケメンだぞ!」

「はっきり申し上げます! ナルシェ様の見た目はイケメンかもしれませんが、その自己中な性格と人を差別するところが大っ嫌いです!」

「そ、そんなぁ……」

 

 私は、ぎゅっとイヴを抱きあげて、満面の笑みを浮かべました。

 

「ざまぁでちゅね」


 きゃっきゃと笑うイヴ。

 すると、ナルシェ様は、ギリっとイヴを睨みました。

 

「おいメルル、さっきからその赤ん坊はなんだ? 俺のことを笑いやがって!」

「ナルシェ様には関係ありません」

「んだと! 俺という婚約者がいながら……まさか、まさか……」

「!?」

「誰の子だー!」


 突然、逆上したナルシェ様は、獣のように突進してきました。

 拳を振り上げて、私とイヴに襲いかかるつもりですね。


「……神の子ですよ」


 そう言った私は、手で拳銃をつくりました。

 

 ボワッ

 

 指先に集まる光の魔力、どうやらMPが回復しているようですね。

 となれば、やることは決まってます。

 この勘違いバカ公爵を、ぶっ倒します!


 バキュン!

 

 光の弾丸が、ナルシェ様の頭を撃ち抜きました。

 

「プィギュアアッァアアア!」


 なんとも言えない悲鳴をあげ、おおげさにぶっ倒れたナルシェ様は、ぴくぴくと痙攣をしながら口から泡を吹いています。

 

「フゥー」

 

 あら、拳銃にした指先が熱くなってますね、息を吹きかけて冷ましましょう。

 そして、花をそえるように元婚約者へ、最後の言葉を告げました。


「パシュレミオン公爵様、サインをお願いします」


 ぶっ倒れた息子のことを心配して駆け寄った豚公爵は、ギリッと私を睨んで指さしました。

 

「おま、おま、おまえぇぇぇ! 自分が何をやったのか分かっているのかぁぁ! 息子の頭から血が出ているではないか!」

「あら? そちらから殴りかかってきたので正当防衛をしたまでです。それに魔力は抑えましたから死んではいませんよ? たぶん」

「わぁぁぁ! 息子が死んでしまうぅぅっ!」

「うるさいですね……すぐに回復して差し上げますよ」

 

 ──光魔法 ヒール

 

 みるみるうちに、ナルシェ様の額の傷が回復していきます。

 意識を取り戻したナルシェ様は、むくっと立ち上がりました。

 

「メルルぅぅ! よくもやってくれたなっ! 父上にも殴られたことないのに!」

「それ、誰のマネですか? もう一発、光の弾丸を食らいますか?」

「うわぁぁ、ついに本性を現しましたよ父上! こいつは悪役令嬢なんですよぉぉ」

「……? ムカつく婚約者をぶっ倒す私は、そんなに悪役令嬢でしょうか?」


 キュイーン……。

 

 私は、指先に魔力を集中させます。

 すると、あたふたする豚公爵が、「わー!」と叫びました。

 

「待て待て待て! パシュレミオン公爵家は国王陛下と親戚なのだぞ!」

「だったら何?」

「わしが国王陛下に頼めば、アクティオス男爵家など簡単に取り潰してくれるのだからなっ!」

「……!?」


 あ、やば……。

 さすがに国王陛下に喧嘩を売るのは、マズイですよね?

 ああ、どうしましょう……。

読者様、あと二話で完結となります。

ブクマしてくれて本当にありがとう。

続きは、アルファポリスで投稿しようかな、と思ってます。

よかったら感想ください。よろしくお願いします。



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