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11 猫耳ジアスのお姉さんを救います。

アルト先輩って陰キャのくせに仕切り屋ですね……。


「それでは、今の状況を確認してみよう」


 アルト先輩は、グルグル眼鏡を指先であげました。

 いつもくだらない冗談ばかり言っているくせに、こういう緊迫感のあるときだけ真面目なフリするの、やめてくれませんか?

 なぜか私の胸が、ドキドキするのですから……。

 

「猫耳ジアスくんの姉を、奴隷商人パイザックから救うクエストが発生した! 僕たち魔道具研究サークルの一員は、このクエストを全力で挑みたいと思うが、それと同時にメルルちゃんが婚約破棄されてフリーになるというおめでたいイベントも発生した! というか僕はメルルちゃんとデートがしたい!」

 

 ……はい?

 

 私、お兄様、ジアス、光の神ポースは、みんなでズッコケました。

 

「おい、アルト! おまえ真剣に考えてないだろ!」

「クリスくん、僕はいつだって真剣さ、メルルちゃんとデートするために生きていると言っても過言ではない」

「……ちょ、いつから妹が好きだった?」

「愚問だなクリスくん、君の妹を初めて見たときから好きぴだ! 男として妹を見てみたまえ」

「……いや、無理だが」

「ふっ、男からしたら、君の妹は天界から落ちた一輪の黒い薔薇、魔法学園の裏ではメルルちゃんしか勝たん! と男子生徒たちのなかで評判なのだぞぉ!」

「まぁ、控えめに言っても妹が可愛いのは認める、だが今やるべきことはジアスくんのお姉さんを救出することだろ?」

「……たしかに」


 あの、と言って私が手をあげます。

 

「デートなら、猫耳ジアスくんの姉救出クエストが終わってからいくらでもできますが? 赤ちゃん付きでいいなら……」


 それを聞いて、アルト先輩が、めちゃくちゃに喜んでいます。

 

「やったー! じゃあ、すぐに助けに行こう!」

「はい、お願いしますね、アルト先輩」

「ああ、僕にまかせろ、こういうのは得意なんだ」


 るんるん、とご機嫌な様子のアルト先輩。

 この人、本当に十七歳の高校生? 考えが子どもすぎますね。

 それを見ていた光の神ポースが、くすくすと笑っていました。

 

「では神は神らしく高みの見物をしていますね、メルル、イヴをよろしくお願いします」

「はい」

「……ああ、それと」

「なんですか?」

「アルトという少年に気をつけてください」

「え?」

「彼は、いずれ神に喧嘩を売るでしょうから……」

「……?」

「では、また」


 ヴゥン

 

 重い音を放ち、ウィンドウは閉じました。

 何やら意味深な言葉を残すポース、私はアルト先輩を信用してもいいのでしょうか?

 なかなかの疑問を残しやがりますね。

 

「じゃあ、僕はバイクをとりに行ってきまーす」


 そう言ってアルト先輩は、とっとと走ります。

 ご自慢のバイクは、教会の前に置いたようですね。

 

「では、私たちもいきましょう、お兄様、ジアス」

「妹よ、アルトはのんきにあんなことを言っていたが、どうやってジアスくんの姉を探すつもりだ?」

「……えっと」

「そもそも、メルルはパイザック社のことを知っているのか?」

「いや、実はあまり知りません、てへぺろ」

「ったく、では歩きながら説明しよう……


 パイザック社、それは創始者パイザックを筆頭とした奴隷商会だ。

 その手下たちは、レイガルド王国の各都市部に支社を置いている。

 俺たちの住む都市リトスでも、奴隷を売買しているわけだ。

 奴隷と言っても人間ではない、人間には人権があるからな。

 奴隷とは、獣人のことだ。

 魔族と人間のハーフ、それが獣人だ。

 森の妖精エルフ、山の精霊ドワーフなどがそれにあたる。

 奴隷のことを、ケモノ、と呼ぶ商人や貴族もいるようだ。

 まったく、この問題はレイガルド王国の腐った膿だと言える。

 俺の目標は、獣人にも人権を与え、仲良く暮らしたい。

 そのためには、パイザック社をぶっ壊さないといけないわけだが……。

 

 わかったか? メルル」

 

 はい、と私は真剣な表情でうなずきました。

 ブー、とほっぺをふくらますイヴ。

 怒っているようですね、ええ、私もですよ。

 奴隷商人なんて悪者、私がぶっ倒してやります!

 

「ではお兄様! パイザック社の支社それから本部をすべて破壊していきましょう、そうしながらジアスの姉の手がかりを聞き出す……この作戦でいかがでしょうか?」

「少々荒っぽいが、概ねいいだろう」

「うふふっ、これはものすごい、ざまぁ、ができそうですね、お兄様」

「ああ、これはとんでもない、ざまぁみろ、になりそうだな、妹よ」

 

 うふふ、わはは、と笑い合う兄妹を見つめていたジアスは、

 

「あの……」


 と声をかけてきました。

 

「僕、お姉ちゃんの匂いがわかりますので、それを追えばいいと思います」

 

 天才!

 

 私とお兄様は、ガシッとジアスの手を握りました。

 

「さすが猫ちゃん、鼻がいいんだね! 猫耳が可愛くて尊い!」


 私は、ジアスを褒めまくります。

 

「で、どちらの方角かわかるかい、ジアスくん?」


 お兄様の質問に、ジアスは鼻をヒクヒクと動かすと、スッと腕を伸ばしました。

 

「西です」

「西か……距離としてどのくらい?」

「ん~、馬車なら一日かかるくらいかな……」

「おそらく都市リトス! 俺の生まれ故郷だ」

「運が向いてきましたね、お兄様!」

「よし、みんないくぞ!」


 おー!

 

 と気合いを入れた、私とジアス、それにイヴ。

 赤ちゃんなのに、私たちの言葉がわかるみたいですね、不思議。

 

 ブゥン

 

 バイクに乗ったアルト先輩がやってきました。

 ん? ノーヘル?

 前世の記憶が戻った今、違和感しかありません。

 

「アルト先輩、ヘルメットした方がいいですよ?」

「何それ?」

「ああ、兜ですね、もし走行中に転倒したときでも即死は防げますから」

「それナイスアイデア! これでポーションの心配をすることもないな!」

「……装備を整えるのは冒険の基礎中の基礎ですよ? アルト先輩」

「え? なんか、メルルちゃん雰囲気変わったね?」


 そうですか? と言った私はイヴを抱き直しました。

 ん?

 お腹のへこみ具合から、そろそろミルクの時間っぽいですね。

 前世にて、十歳はなれた妹の世話をしていたので、赤ちゃんのことはよくわかります。


「ではみなさん、王都イディオンの正門から出たところに駐車場があります。そこにアクティオス家の車があるので急ぎましょう」


 光の教会から伸びるメインストリートを抜けると、大きな正門が見えてきます。

 レイガルドの国旗がはためく城壁には、ところどころにドラゴンの紋章が描かれてあり、国の力強さを感じました。

 王都イディオンは城塞都市なので、ぐるりと高い壁に囲まれてあります。

 攻めてくる敵兵がいたらここで食い止めなければなりません。

 よって城壁のなかは、兵士たちが住めるようになっており、椅子や机、おまえにベッドなどもあります。

 当然、食料などもあり、私たちが正門を出ようとすると、


「一杯飲んでいかないか? クリスくん」


 なんて誘われるお兄様は、苦笑いを浮かべながら断っていました。

 どうやら魔法学園で無双のお兄様は、男だらけの騎士たちからも人気のようですね。

 妹として、鼻が高いでーす!

 ふぅ、駐車場に着きました。

 

「メルルちゃん……これが君の家の車?」

「す、すげぇ……」


 驚いているアルト先輩とジアスに向かって、

 

「ええ」


 と、私が答えつつ乗り込んだ車は、前世で言うと黒塗りのリムジンですね。


「さあ、みなさま乗ってください。都市リトスまでの運転は執事アルソスがしますゆえ」


 ハンドルを握る執事アルソスは、白い手袋をあげて見せました。

 アルト先輩とジアスは、車に乗ってから大はしゃぎ。

 お兄様は、アルソスとの久しぶりの会話に花を咲かせていますね。

 では私は、イヴにミルクを飲ませることにしましょう。

 光魔法──ウィンドウを出して、ぽちぽちといじくり、ほにゅうびんと粉ミルクの取り出しに成功しました。

 お湯は、車内にあるウォーターサーバーでなんとかしましょう。

 ん? アルト先輩が興味津々でこちらを見ていますね。

 少しからかってあげましょうか。

 

「これ、どうやってお湯と水が出ていると思います? アルト先輩」

「……すごい発明だね!」

「ええ、私のお父様がつくりました」

「まず水の魔石で給水装置をつくり、動力である火の魔石でお湯をつくっているのだろう!」

「正解、飲んでみます」

「うん」


 と言ったアルト先輩は、ほにゅうびんに手を伸ばします。

 

「それは赤ちゃんのでしょっ!」

「あはは、間違えた」

「んもう、このコップを使ってください」

「はーい」


 赤いボタンを押してお湯が出ます。

 

 ジャー

 

 ほにゅうびんの中にお湯と粉ミルクを入れて、乳首の蓋をして、しゃかしゃかふって粉を溶かそうとしましたが……。

 

「あちっ、これでは熱いですね……」

 

 ほにゅうびんはガラス製でできており、熱の伝わりが強いです。

 これではさすがに持てないし、イヴだって飲めたものではありません。

 私は、青いボタンを押して水を出し、さっそくミルクを冷やします。

 

「これでよし、さぁ、ミルクの時間でちゅよ~」

「バブバブー!」


 イヴのミルクへの執着はすさまじく、ちゅぱちゅぱと吸いまくります。

 この吸引力を、世のママたちは食らっているのだと想像すると、ちょっとだけ怖くなりました。

 私の乳首は大丈夫でしょうか、なくなっちゃいそう。

 それでも、イヴの小さな手がほにゅうびんを持とうとする仕草に、私の心は和みました。

 

「かわいい~、どんどん飲んでくださ~い」

「ちゅぱちゅぱ、んんっ」


 私の腕の中でミルクを飲むイヴの体温が、少しずつ温かくなっていくのが伝わってきます。

 あ、これ寝るな。

 イヴは目を閉じて、まるで人形のように、こてっと動かなくなりました。

 ミルクはすべて飲み干してます。

 

「あ、ゲップさせないといけませんね」


 私は、イヴの背中を、トントンと叩きました。


 ゲップ


 でた!

 ほっと安心しました、しかしそのとき!

 

 パカラッ パカラッ

 

 おや? 馬の走る音が聞こえてきます。


「メルルお嬢様、盗賊です」


 事務的に報告する執事アルソスが、ご自慢の髭を触ります。

 片手運転はいけませんね。

 アルト先輩とジアスは、ビビってしまってガクブルに身体を震わせていました。

 お兄様は、何事かと車窓から盗賊を見つめますが、

 

「なんだ、まだあんな野蛮なやつらがいるのか?」

 

 と言いつつ、読みかけの本から目線をはずし、優雅に紅茶をひとくち飲みました。

 私は、得意気に答えます。

 

「はい、盗賊から見たら車は宝石に見えるのでしょう。毎日のように襲ってきます」

「ふぅん、でどうするのだ?」

「アルソス! 例のものを」


 はいお嬢様、と承った執事アルソスは、ハンドルの右にあるボタンを押しました。


 バババババッ!

 

 車体の横から魔法銃が飛び出して、ものすごい火を吹いて弾丸を飛ばします。

 盗賊たちは、あっけなく馬から落ちていきました。

 ひょっとして死んでいるかもしれませんが、こちらの命を狙っていた悪者のため、容赦なくざまぁさせていただきます。

 さあ、地獄で泣いてくださいませ。

 

「こいつはやべぇ……僕のバイクにもつけたいな」


 アルト先輩の目は、きらきらに輝いていました。

 

「僕、すごい人間を仲間にしてしまったかも……」


 ジアスは感動しているのか、わなわなと震えています。

 大丈夫ですよ、あなたのお姉さんは、必ず助け出しますから!

 お兄様は、ふんっと鼻で笑うと、読んでいる本のページをめくりました。


「お父様は、ついに戦争の武器をつくってしまったな……」

「ですね……」


 と、私は答えつつ、イヴを見つめます。

 もしかしたら、神に喧嘩を売っているのは、私のお父様かもしれませんね?

読者様、ブクマしてくれて誠にありがとうございます!

あ、改めまして、ぬこまると申します。

これからメルルたちが大・大・大活躍していきまーす!

ぜひぜひ期待してくださいませ〜!

感想、お待ちしてますね。


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