人造使徒
繰り広げられた激しい戦闘は夜明け付近まで継続し、昇る太陽に鎮められるように山間部には静けさが帰ってきた。
立ち上る黒煙を背に狛ヶ根珀斗は刀を収めた。
漆黒の大型戦闘ヘリが合計三機、地面に半分埋まるようにひしゃげ、パチパチと残火を鳴らしていた。
「チッ、人間どもが……」
軽い舌打ちは虫の居所の悪さを隠そうともせず、珀斗は足元に転がる金属製の人骨を見下すように睨み付けた。
「こんな悍ましいものを作っていたとはな。公安省めが」
珀斗の重いブーツで蹴り飛ばされると、金属の死骸は四本の腕と二本の足、そして長い尾を翻して攻撃ヘリの残骸に衝突した。
「こんな遺物で私を倒そうなど。笑止」
すると丁度その時だった。
まるでタイミングを見計らったように鳴り響く電子音。珀斗は粗暴な手つきで懐から黒いスマートフォンを取り出して着信に応えた。
「私です」
――バッハッハッハ。吾輩である。
「ルシファー。頂いた電話で失礼ですが、重大な報告があります。右那様が……」
――知っている。それよりどうであるか、吾輩が遣わした新たなる守護者の力は。
「! まさかルシファー。あの男は貴方が手引きしたのですか?」
――完全にそうというわけではない。偶然の重なりがもたらした結果である。というより、汝はそれを察した上で手を抜いていたのではないのであるか?
「いえ、まさか。仮に貴方が遣わした者と知っていても、私はあの男を本気で殺します。不愉快ですので」
――バッハッハッハ。本気で殺すと? バハハハハ! それでどうして逃げられるのだ。世に名高い絶冷の使徒の本気がたかがデリーターに出し抜かれるものとは、実に滑稽である。バッハッハッハ。
「完全に油断でした。あの男に次はありません」
――まぁよい。吾輩は汝のポンコツさよりも、あの男の意志に懸けたいのだ。不思議なものでな、特段秀でる能力もなく、出自は平凡、体質的にデリーター向きというわけでもないのだが、あの男には何故か導きを感じるのだ。
「下らない幸運の連続を過信するのはいかがなものかと。あの下郎はただの無能です。しばらくすれば直ぐにもボロが出るでょう。これは私の私見などではなく、完全なる事実。いずれ貴方も落胆されることと思います」
――バハハ、汝の頑固さは相変わらずであるな。まぁそれはさておき、公安の新兵器とやらは如何であるか。
「現状ではさして脅威とも思いません。所詮は大破壊時代の遺物と見ていいでしょう。新しい電子頭脳には使徒の波長を持たせたようですが、何分体の設計が古いので、波長の力を全く活用できていません。これではガラクタも同然。私の敵ではありません。けれどもまぁ、並のデリーターでは太刀打ちできないレベルなのも事実でしょう」
――ふむ。珀斗よ、それを脅威と言うのであるよ。
珀斗は先程蹴飛ばした四つ腕の金属死体に目をやった。確かに倒すには倒せたが、もしこれと同じものが二体、三体と立ち塞がったらどうだろうか。確かに脅威とも呼べなくはない。
「しかしそれにしても、一体何故このような事態に……。どうして公安省は右那様の存在について感知しているのでしょう。ここを強襲した兵装と新兵器の性能にしても、まるで右那様の正体を知っているかのような備えです。もしそうだとしたら、非常に由々しき問題です」
――うむ。吾輩の見立てによれば、まぁ内通者がいると見て違いないのである。
「そんな! では私達は……」
――落ち着くのである。吾輩には大体の見当はついているのだ。汝はこれまでどおり隠密に右那の守護を継続せよ。よろしいかな。
「わかりました。はい……、それでは……」
通話を切断し、再び見遣る景色の真ん中には異様な怪物の亡骸が転がっている。
禍々しい金属の骨格は人間の何倍にも太い腕が四本。それぞれに武器を携え、圧倒的な空間制圧能力を誇っていた。更に特徴的なのは、古の龍を象るような長大な尾だ。もはや、ただ不気味さを拡大するためだけに胴体のみ人に似せているかと思うほどだった。
「これが、人造使徒というやつか。全く、愚かしい……」




