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自由暗殺人 ノロクロ  作者: 浪川 晃帆
Ⅲ 世迷いヨハネ
22/60

絶冷の使徒 ‐3

 

「待つんだ!」


 大きな声が女を制した。

 一体誰だ。なんて野暮なことは言わない。こんな大きな声も出せるのだと、少し意外な少女の一面に驚いた。

「待ってくれ珀斗」

 はくと、この女の名前だろうか。

 部屋から出てきた右那は、刀の女の名を口にし、中央の階段からゆっくりと降りた。

「右那様」

「彼はデリーターじゃない」

「右那様。しかしその者が持つ刃は紛れもなく支給された暗殺武器でしょう」

「そうだ。けれど、まだ何もしていない。何ら業を積んでいないんだ」

「なるほど、それで……。納得しました。この者が波長を帯びてない理由が」

「だから……」

「しかし、もはやアプリに登録した時点でデリーターはデリーター。この男も私の業とし力の糧とさせて頂きます」

「やめなよ」

「何故止めるのですか。右那様」

「こんな彼を殺したところで、君の力に何ら増強は見込めない。意味が無い」

「わかっています。ただ、不愉快ですので消しておこうかと。このようなゴミの存在自体が、私は我慢なりませんので」

「珀斗、君がそういうつもりなら、ボクにも考えがある」

「はい? 右那様? 急に何を?」 

「忠告するよ珀斗。ボクは誰の手も借りず自ら命を絶つという選択も、……あるにはある」

「馬鹿な。何を言いますか、右那様」

「本気さ」

「……、わかりました。どういうおつもりか知りませんが、貴方がそこまで言うならば手を引きます。おっしゃるとおり、この者を殺生したところで大した足しにはなりませんし」

「そうだ。それでいい。望みどおり、君がボクを殺して、全てを終わらせてくれ」

「……」


 二人が一体何を話しているのか全く分からなかった。この化け犬と右那はどういう関係なのかとか、結局この化け犬は何なのかとか、一切の当たりもつかない。

 ただひたすら、左腕の断面から流れ出る血を押さえつけ、難しいことをあれこれ考える余裕は無い。だんだんと冷える体、遠のいていく意識。死に体を掴まれた感覚に、震えが止まらない。

 しかしそれでも、その重大なフレーズだけは、耳に、頭に、確実に捉えたのだった。


 誰が死ぬって?

 右那が? 

 ライトホープが、こんな意味不明な化け犬女に殺されるだ?

 ふざけるんじゃない。

 ふざけるんじゃないっての。


「んだってぇえええ? 誰が誰を殺すだぁああ? あ? もういっぺん言ってみろ!」


 奇声のような悲鳴を吐いて。のそのそと立ち上がった。

「なんだこの男、よほど死にたいのか、ならば……」

「珀斗」

「わかっています」 


 守ると、決めたのだ。

 デリーターをやって生計を立てようとか、そんな程度の軽い意思じゃない。もっと重たく、深い、命がけだって叫んでも恥ずかしくないほどの、覚悟が。この胸の中に燃えている。


「ぁあああああああああああ!」


 右手に包丁の柄を包み込み、その切っ先を袴の女に向けて一直線。ひどくバランスを欠いた体は、狂気を帯び、今にも倒れそうな足取りで駆ける。

 全身を一閃の刃に預けて、突撃。

「哀れな男だ」

 包丁が女に刺さるその手前。彼女が振り上げた重いブーツが、体の直上より振り下ろされた。硬い踵が激突。どこに打撃を受けたかさえ定かでない、目にも止まらぬ踵落としは雷のように体を打ちつけた。

 更にその衝撃は全身を貫通し足元の床を砕いた。先ほどの氷柱の発生で既に損傷していた床は、今の衝撃で完全に粉砕。自分の体が一瞬で床を破壊し、そこに落ちると言うよりか、下に発射されたように突き落とされる。

 穴の開いた床に落下し、その最後、手を伸ばした先には何の表情もない右那が見下ろしていた。

 彼女を助けられない。この苦しみも含め、全て罰とでもいうのだろうか。最低だ。


「さようなら、名も知れぬ君よ」









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