殺戮屋敷 ‐5
「ぬおおお! なんだこれは!」
「和風ハンバーグ」
右那はまるで瞬く星のように瞳を輝かせ、無邪気な両手にフォークとナイフを強く握る。「スープも作った。冷めないうちに食っちまって」
「うぉおぉおお! いっただっきまぁ~す」
まるで餌にがっつく猫をみているような気分だった。小生意気な彼女も、食欲を煽る肉とソースの香りには、見た目通りの子供に変わった。
「うまいぃいぃい! 君ぃ、こんな特技があったのか!」
「いや、そんな難しくないし。昔教わったんだ。大学のとき、ともだ……」
と言いかけて、慌ててぐっと言葉を堪えた。
「知り合いに教わった」
「さては、その知り合いはコックだね。本当に旨い。カップ麺にも迫る旨さだよ!」
「微妙なものいいだな」
「うへへへへへ」
珍妙な笑いを漏らしながら、彼女はあっという間に平らげた。こうも美味しそうに食べられると作った甲斐があるものだと思う。たまには、人に与える、というのも悪くない。
「お礼に君には特別なカップ麺をあげよう」
「いらね」
それからもう数時間ほどゲームに没頭した。気付けば日は暮れ、別の部屋には死体が転がっているというのにも関わらず、そんなこと気にならないほど久々のゲームに燃えていた。
「ゲームってさ、これしかないの?」
「まぁ、無くはない、けど……」
と、彼女の視線はデスクの上のノートパソコンの方を指した。
「もうあっちは終わったしな。こっち用のソフトなら他にもあるよ、ほら、マジオカートとか……」
パソコンという言葉に導かれるように記憶が引き出された。命より大事なパソコンを父親に捨てられ、そして、あの人に何も言えぬまま最悪の別れを遂げたのだった。
右那がパソコンを避けたことに便乗して、こちらも特には詮索しない。嫌な思い出をこれ以上蒸し返したくなかったのだ。
格闘ゲームからレースゲームに換えて更に数時間、まるで雑念を払うように、ひたすら画面に集中力していた。
時刻は、あっという間に0時をまわった。
「どうする? そろそろ殺してくれる気になったかい?」
「なるわけ無いだろ」
「じゃあどうする? そうだ、泊まってくかい?」
「それもなぁ、よく考えれば、他の部屋ってあれだしな、死体と寝るとか無理だろ」
「でもここから半径数十キロは荒廃地帯だよ?」
「う~ん」
「いいじゃないかぁ、この部屋から出なきゃいい話なんだしさ。ほら、シャワーは浴びれないけど、こっちの心配は無用さ」
と、そう言って彼女は得意げに、空のペットボトルを片手に前に突き出した。
「心配無用って、別に朝まで水飲まなくても……、いやまて、お前それまさか……」
迅速に部屋の至る所に目線を走らせた。嫌な予感がする。ベッドの下、なんかお茶みたいなボトルが沢山転がってる。
すべてを察した。あれは絶対に間違って飲んじゃいけない類いのお茶だ。いやお茶じゃない。
「ほんとエリートだなお前。つか恥ずかしくなの? 聞かれて誤魔化すならまだしも、やべえ性癖を紹介すんなっての」
「性癖じゃないよ、これは効率を重視した結果さ。そういう意味ではカップ麺と同じだよ。君も大概俗人的思考なんだねえ。あんなの汗みたいなもんじゃないか」
「なおさらベッド下に放置すんなっての」
自分が俗人であるのは認めるが、しかし彼女のそれは、もはや蛮人の所業だ。しかしまぁ、すっぽんぽんさえ何とも思わない破天荒なのだから今更驚くほどではないかもしれない。
「さぁさぁ今夜はお楽しみだねぇ、寝かせないぞぉ」
「ははは、残念。ロリコンじゃないんでね俺は。すぐ寝る」
「なんだ、つまんない人だなぁ」
「寝かせないって、どーせ貫徹ゲームだろ。俺が変なこと想像したかと思ったかよ」
「あ~あ、更につまらない。こんな美少女を目の前にして、さすが童貞だね」
「いや待て。こんなゴミ屋敷に、ボトルまで置きやがって、それで色気を主張すんの?」
「じゃ、隣の部屋行くかい?」
「行くかよ冗談じゃない。あと正直言うと、いま滅茶苦茶眠いんだ。ここんとこずっと野宿だったし、結構疲れてるわけ」
「君収入ないもんね」
「まぁな。だから泊めてくれるのは凄く助かる。とりあえず一晩よろしく頼むわ」
「構わんさ。あまり長居は勧めないけど、今日はきっと多分大丈夫。ゆっくりおやすみよ」
「明日には出るから。それじゃな」
「あぁ。おやすみ……」




