表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読切怪奇談話集(仮)  作者: やなぎ怜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/29

ない

 子供のころ、夏になると母方の実家に家族そろって帰省していた。


 母方の実家は絶対に都会ではないが田んぼに囲まれたド田舎って感じでもない、住宅街にあった。


 コンビニは徒歩二〇分ほどかかる駅の近くにしかないし、当然遊べるような場所もない。


 一応、公園はあったが住宅街の中だったのにもかかわらず、というかだからこそ? 大声を出して駆け回っているような子供はいなかった。


 俺は内気な子供だったので、たまにしか会わない母方の祖父母に対しても人見知りを発揮していた。


 すると祖父母の家は大変居心地が悪い。


 だから俺は「遊びに行ってくる」なんて言って、外に出て行くのがお決まりだった。


 冒頭に書いたとおり、祖父母の家の近くで子供が遊べる場所はほとんどなかった。ゲーセンとかは当然のようにない。


 公園は先に書いたとおり、住宅街の中にあって、子供心にここで遊んでいいのかという思いがあり、足が向かなかった。


 それで、俺が入り浸っていたのはもっぱら山だった。


 祖父母の家がある一帯は、山を削って作られた住宅街だったから、山はすぐそこにあった。


 その山の中にあるていど整備された山道があって、そこを登ると開けた場所に出る。


 いい感じに木陰もあり、ベンチもあったから、極度の空想癖のあった俺はそこでぼんやりと過ごすことが多かった。今ほど夏の暑さは厳しくなかったし。


 当時はあまり不思議に思わなかったが、そこは虫が出なかった。


 祖父母の家では蝉がこれでもかと庭の木に取りついて、しきりにやかましく鳴いていたが、その開けた場所は蝉の声も遠かった。


 だから、俺にとってはぼうっと空想するのに最適だった。


 祖父母の家に帰省する習慣は、俺が中学生になったころくらいから、段々となくなった。理由は定かではない。


 それで、ネットで怖い話を読むようになってから、虫の声や鳥の声がしない場所というのは、ホラーではお約束だということを知った。


 先に書いておくと、俺は別に怖い思いはしなかった。


 ただぜんぜん虫が出ないし、蝉の声が遠いことを不思議には思っていたから、そういうネットの書き込みは真偽のほどは定かではないとは思いつつ、なんだか腑に落ちるところもあった。


 あの山道の先にあった開けた場所。あそこにはなにかいたのかもしれない。


 そう思うともう一度行ってみたくなかったが、祖父母の家に行く習慣は絶えて久しく、また俺の当時の懐事情では祖父母の家のある県に向かうのは現実的ではなかった。


 次に祖父母の家を訪れたのは、祖父の四十九日のときだったはず。


 と言っても俺にできることはほぼなく、合間の特有の雰囲気に居心地の悪さを覚えて、俺はまた暇を見つけて祖父母の家を出た。


 あの山道の先にある、開けた場所へ行くいい機会だと思った。


 そこでなにか怖い思いをしたらネットに書いてやろう、くらいの気持ちで向かった。


 山道は昔より荒れていた。山道の先の開けた場所も、地面から伸びる雑草が目立っていた。


 蝉がとてもうるさく鳴いていた。


 蜂が飛ぶ不愉快な音がした。


 俺は何箇所か蚊に刺された。


 もう、ここにはなにもいないのだなと思って、早々に山道を降りた。


 それ以来、あの開けた場所には行っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ