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読切怪奇談話集(仮)  作者: やなぎ怜


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ぬいぐるみを肌身離さず持っている

 ぬいぐるみを四六時中肌身離さず持っている子と知り合いになったんだけど、ちょっと不思議な体験した&現在進行形で困ってるっていう話をする。


 今って推し活とかでぬいぐるみを持ってるような女の子は珍しい存在じゃないと思うし、この書き込みで特定とかはできないと思うけど、一応ところどころフェイク入れて書く。


 ちなみにその子は女で私も女。



 その子とは通っている大学で知り合って、ちょこちょこご飯に行ったりするようになった。


 と言ってもその子とふたりきりでどこかに行ったことはなく、たいてい三人以上で行動しているときにその子も入っている、みたいな状況が多かった。


 その子は普通に綺麗めな子で、ファッションも別に奇抜とかではない。


 ただ何度か一緒に行動すると、その子がいつもぬいぐるみを持っていることに気づいた。


 そのときに見たのは人型のぬいぐるみだったから、推しぬいってやつなのかな~とか思った。


 私はあんまりグッズとかに情熱が向かないタイプだったけど、オタクではあったからそのときはそう解釈した。


 それでいつだったか、その子とふたりきりになるタイミングがあった。


 最初は三人だったんだけど、ひとりが急用ですぐに帰ってしまった。


 それでその子と初めてふたりきりになった。場所はチェーン展開をしている飲食店。


 いや、店内にはもちろん他のお客さんもいたんだけど、その子と一対一で会話するのはこれが初めてだった。


 一対一で話すのが初めてとか、そういうことを覚えているくらい、その子との関係性は薄くて、私は勝手に気まずい空気を感じて、その子がいつも持っているぬいぐるみを話題に出した。


 そのときは推しぬいだと思っていたから、推しの話を振るのがまあ無難かなと思って。


 推しぬいを常に持っているってことは、推し活について隠したいタイプでもなさそうかなと。


 で、結論から言うとその子が持っていたのは推しのぬいぐるみとかではなかった。


 特に思い入れもなくて、某オタク系ショップで投げ売りされてたぬいぐるみなんだって。


 私はその作品は見てなかったんだけど、ぬいぐるみがなんのキャラなのかは知っていて、それでそのキャラの名前を出したんだけど、その子は作品もキャラも知らなかった。


 知らないフリとかではなかったように思う。


 じゃあ単純にキャラの造形が気に入って買ったのかなって思ったら、別にぬいぐるみならなんでもよかったらしい。


 じゃあなんでずっと持ち歩いているの? という話になるよね?


 その子は


「これ、身代わり人形だから」


 って、すごく普通に、フラットな感じで言った。


 それがなんかちょっと怖くて、返答の内容もなんか怖いし、私が「ふ、ふーん……」みたいな態度を取ったら、なぜかその子はつらつらと「なんで身代わり人形が必要なのか」について語り出した。



 その子の家では身代わりの人形を持ち歩く習慣があったらしい。


 子供のころだけとか、特定の性別だけとか、そういう条件はなくて、その家系の人間は人形を肌身離さず持ち歩かないといけないらしい。


 その子の両親(いとこ同士らしい)も人形を常に持ち歩いていて、その子も物心ついたころから人形と一緒にいたとか。


 特定の地域の風習とかじゃなくて、その家系限定の習慣なんだって。


 で、なんで人形を持ち歩くかと言えば、先に書いた通り身代わりになってもらうため。


 思い入れのある、長く一緒にいる人形のほうが、身代わりの効果が高くなるとかなんとか。


 なんでそんな習慣が始まったのかはその子も知らないらしかった。


 でもその習慣が廃れないのは、人形から離れた場所にいると必ず不幸があるからなんだって。


 「血筋自体が呪われてるのかも」ってその子は言ってた。


 その子が語った理由自体はちょっとにわかには信じられないけれど、一応ぬいぐるみを持ち歩くのに明確な理由はあるんだ、ということはわかったから、まあ納得はいった。


 でも疑問が残った。


 「思い入れのある人形のほうがいい」とその子は言ったけど、その子が持ち歩いているぬいぐるみに、その子は特に思い入れがないという点。


 それについて指摘したら、


「私の人形、目を離した隙に盗まれることが多くてね」


 って言われた。


 そんなことある? ってみんな思うだろうし、私も思った。


 でもこのあとでまたその子とふたりきりになったときに、ぬいぐるみがなくなったことがあったんだよね。


 その子のカバンにぬいぐるみがあるのを見て、数分後にその子がカバンをひっくり返しても出てこなかった。


 落としたとかはない。だって移動中とかならまだしも、普通に周囲に学生がたくさんいる、大学のベンチでずっと座ってたから。


 「あー……また盗まれたか」って、その子が前にも「盗まれる」っていう表現を使ってたのも引っかかって、「犯人わかってるの?」って聞いた。


 その子はひとこと「妹」って言った。


「私のこと恨んでるんだ。私があの子の身代わり人形隠しちゃったからさ。それで死んじゃって、幽霊になっても私を恨んでるの」


 前に「これ、身代わり人形だから」って言ったときと同じ、特に感情のこもっていない、フラットな調子で言われた。


 なんていうか、バツが悪いとか、妹さんに対して悪いことをした意識、みたいなものも一切感じられなくて、ちょっと怖かった。



 その子の秘密っていうか、その子からべらべらしゃべったわけだけれども、そういう経緯を私が知っているからなのか、最近はその子から話しかけられるようになって、ちょっと困ってる。


 別に私はその子と仲良くしたい気持ちはないんで……。


 でもその子に近づきたくない理由に、「身代わり人形」の話を持ち出しても私のほうが非常識扱いされそうだし……。


 という話を別の大学に通う親しい友人にしたら、


「アンタを身代わり人形にしようとしてるんじゃないの?」


 って冗談で言われたけど、私からすると割とシャレにならない。

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