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読切怪奇談話集(仮)  作者: やなぎ怜


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カチャおじ

 子供のころにいた変なおっさんの話する。怖くはない。


 変質者の話だからちょっとキモい表現が入るのは堪忍な。



 今から二十年は前の話。


 そいつは小学生から見ておっさんだったけど、実際の年齢は不明。


 住宅街とかを徘徊していて、見た目は明らかに小汚い。


 なんか服とかが薄汚れている感じとか、髪がボサボサだとかそんな感じ。


 どこに住んでるかとかも親は知ってたかもしれないけど、俺らガキどもは知らなかった。


 いつもジャムのガラス製の小瓶を手に持って、金属製のスプーンを瓶の中に入れて「カチャカチャ」って音を立てて徘徊していたんで、そのおっさんは「ジャムおじさん」とか「カチャカチャおじさん」とか言われてた。


 当時は前者の名称のほうが浸透していた印象があるんだけど、ここでは便宜上「カチャおじ」としておく。


 カチャおじに関しては、ガキのあいだでは色々と噂があったけど、正直今振り返れば眉唾なものが多いと思う。


 怒らせるとジャムを食べさせてくるとかいう話もあった。


 あ、カチャおじが持ってたジャムの小瓶はいつも中身が入ってたんだよな。


 赤いイチゴジャムで、だから持っているガラスの小瓶がジャムの小瓶だっていうのがわかった。


 で、ちょっとキモい話になるんだけど、そのジャムにはカチャおじのツバが入っているとかいう話もあって、ガキでもさすがに聞いたとき鳥肌が立ったな。


 まあその話を置いておいても、カチャおじの見た目は衛生的じゃなかったから、死んでもカチャおじのジャムなんて口にしたくはなかったが……。


 でもカチャおじは小汚い見た目だったから、そういう噂も妙に信憑性があるように聞こえた。


 カチャおじは肝試しの対象でもあった。


 やんちゃっていうか、まあクソガキがちょっかいかけるのにちょうどいい相手と見られていたというか。


 「怒らせたらジャムを食わせられる」って噂があったけど、実際カチャおじが怒ったという話は聞いたことがなかった。


 隣のクラスのだれそれがカチャおじにちょっかいかけた~というような話はよく流れてきたけど。


 俺はと言えば、大人しいタイプだったから特にカチャおじにちょっかいかけたこともない。


 友達の家に行く道と、カチャおじが徘徊するルートがちょっとかぶってて、何度か遠目に見たり、すれ違ったことがあるくらい。


 面白みがなくてすまん。


 でもビビりなガキだったから、カチャおじとすれ違うだけでもドキドキだった。


 カチャおじは前述のとおり小汚い見た目だから、それだけでもかかわりあいになりたくないのに、なんかジャム瓶をスプーンでカチャカチャしてるのは、意味不明すぎてやっぱ近くで見ると怖かったな。


 なんかカチャおじの世界ではちゃんと論理に沿った行動だったのかもしれないけど……。



 カチャおじは俺が中学生のときに死んだ。


 川にかかった橋のたもとであおむけに転がっているのが見つかったと聞いた。


 顔面に粉々になったジャム瓶のガラス片が突き刺さってて、右か左かは知らないんだけど、目玉に金属製のスプーンが突き刺さっていたらしい。


 事故で片づけられたんだけど、俺らのあいだでは「殺人だろ!」って話になってたな。


 殺人だとしたらカチャおじを殺したやつが地元にいるかもしれないということになるので、事故なら事故のほうがいいんだけど……。



 カチャおじのことは今地元で暮らしてる小学生は知らない。二十年は前の話なんだから、当たり前だけど。


 でも正月に帰省したときに甥っ子から「カチャカチャさん」っていう都市伝説を聞かされた。


 夕方の通学路で「カチャカチャ」って音だけ追ってくる存在なんだと。


 正直ちょっと鳥肌が立ったけど、同時になんか不思議な郷愁とでもいうべきか、懐かしい気持ちにもなった。


 今小学生の甥っ子(怖がり)からすると、洒落にならん怪談らしいのだが。


 「カチャカチャさん」=「カチャおじ」だったとしたら、今もあのおっさんはさまよっているんだろうか?


 そうだとしたらもの悲しい話だなと思った。

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