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読切怪奇談話集(仮)  作者: やなぎ怜


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父親の先輩

 小さいころに見た夢か、見間違いか記憶違いの話だと思っていたんだけれど、なんかそうじゃなかったらしいという話。



 昔は賃貸マンションで暮らしてたんだけど、俺が小学校に上がる前に両親が家買って一軒家に引っ越した。


 だから小学生になってからの話なのは確実なんだけど、いつごろの話なのかまでは覚えてない。


 ある日の夜、家のインターホンが鳴った。


 それに母親が応対するために親機(家の外じゃなくて中にあるほうね)のところまで行って、受話器を取った。


 でもたしかそのちょっと前に、インターホンの調子が悪かったときがあったんだよね。


 お隣に引っ越してきた夫婦がそのときと同じ夜中にやってきたときに、なんか外の音声を拾ってくれなかったみたいなことがあったはず。


 ちなみにお隣さんの要件はゴミ当番についてだった。カラスにつつかれないために正方形のカゴ?にゴミ袋入れるじゃん。地域によってはないのかな? まあそれでそのカゴ?は持ち回りで朝早くに外に設置してたんだよね。そのことについて聞きにきたんだった。


 インターホンの不調で母親が戸惑ってて、父親と俺もインターホンのところに行ったから、なんか記憶に残ってる。


 インターホンのディスプレイの、暗くてぼんやりしてて色数の少ない映像も印象に残ってる。二〇年以上前の話だから、今出回ってるインターホンよりも性能はずっと低かったし、画質もよくなかった。


 そこに夜中で周囲が真っ暗な中、男女が並んで立ってる姿はなんか不気味だった。


 そういうことがあったから、またインターホンが不調なのかなと思って、戸惑ってる母親のところに行ってみた。


 受話器を持つ母親の視線の先、ディスプレイを見るとあごひげを薄っすらと生やした、白シャツ姿の男性がひとり立ってた。黒いネクタイをしていて、なぜかそでは肘の辺りまでまくり上げてた。


 そのうち、父親がやってきてディスプレイを見て「えっ」みたいな声を出した。


 母親が父親に受話器を渡したんだけど、そのあいだも俺はディスプレイを見てた。


 さっきも書いたけど当時のインターホンのディスプレイは表示できる色数が少ないし、夜中だったから、その男性の肌の部分は妙に白く見えた。


 見てたら、男性の首がなんか細長く伸びた。それでろくろ首みたいに首を伸ばして、インターホンのカメラに顔を近づけてきた。顔はいつのまにかさかさまになっていて、薄っすらと生えたあごひげが画面の上部に映っていた。


 目はなんか子供が書いた人物画みたいな、黒いクレヨンで雑に塗りつぶしたみたいな黒目だった。ディスプレイの質が良くないから、そういう風に映っただけかもしれないけど。


 拍子抜けすると思うんだけど、俺が覚えてるのはそこまで。


 それでたぶん両親との会話で聞いたのかな? その夜中に訪れてきた男性が、父親の先輩(たぶん学生時代の)で不動産屋の社員だということは知識として頭の中にあった。今の一軒家を買うときに世話になった、みたいな話も知ってた。


 でもさ、冒頭でも書いたけどこの記憶は小さいころに見た夢か、見間違いか記憶違いの話だと思っていたんだ。


 だって普通に考えてありえない出来事だし。


 だからそのうち、あの夜の出来事は夢だと思うようになってた。



 今は俺も社会人のおっさんになって、実家はだいぶ前に出て一人暮らししてる。


 俺の家はすげー家族仲いいってわけじゃなかったし、俺が社会人になってすぐくらいに両親が離婚して、母親が家を出たこともあってあんまり帰省はしてない。まあ、親不孝もんです。


 でもこの歳になってくると親の顔もあと何回見れるのかとか、そういう年寄り臭いことを考えるようになってきて。ほらコロナとかもあって帰りたくても帰れない期間もあったから、ついこのあいだ父親が一人暮らししてる実家に帰省したんだよね。


 そしたら、父親から父親の先輩の話を聞いた。この家を買うときに世話になった、不動産屋に勤めてた、あごひげ生やした先輩の話。


 なんかもう死んでるらしい。というかあの夜の時点でもう死んでたらしい。


 あの夜の出来事は夢とか、見間違い記憶違いの話じゃなくて、実際にあった出来事らしい。


 それでその先輩はまだ俺の実家に来るらしい。


 父親のボケを疑ったんだけど、そもそも母親との離婚の原因がその先輩の幽霊?らしい。


 らしいらしいばっかりで申し訳ないんだけど、俺はあの夜以来その父親の先輩は見てないから、確信が持てない。


 なんで父親が今さらこの話をしたかというと、この実家を俺が相続するかどうか考えておけ、ということらしい。


 父親は自営業だからまだ働いてるんだけど、とっくに還暦は過ぎてる。


 ちなみに俺は一人っ子。このままだと父親が死んだらこの実家を継ぐのか、あるいはどっかに売るのかとか俺が決めないといけなくなる。


 父親は死ぬまでこの家に住むつもりらしい。なんで? って聞いたんだけどこれは答えてくれなかった。



 まじで? っていうのが今の正直な感想。


 実家に愛着があるかと言われればあるほうだったんだけど、その父親の先輩とかいう幽霊?が未だに訪問してくるって聞いちゃうと……。


 幸いまだ父親はぴんぴんしてるんで、死ぬ前に実家を処分して欲しいというのが本音。でも父親を説得できる自信はないし、母親も父親にかかわるつもりがもうないようなので……なんか詰んでる。


 まじでどうしようかね……。

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