ケースJ ~爺ちゃんの場合~
Jさんは魔王に進化した!
「あんだってー?」
Jさんは耳に手を当てて聞き返した。
「Jちゃん魔王になったらしいよ」
少年がメガホンを口に当てて声を大にして教えてあげた。
「ほーかほーかー。
・・・・飯はまだかいのう」
「Jちゃんさっき食べただろう」
Jさんはボケている様だ!
Jさんは立ってるだけでピルピル震える様なお年寄りだった!
「いじめじゃああ!
ワシを餓死させる気なんじゃあああ!!」
Jさんはおいおいと泣き出した!
少年は困って母親を呼びに行った。
「まあまあ、お義父さん。
(夕ご飯の)ご飯の支度がまだ終わらないのよ。
もう少しまっていてねー」
少年の母親、Jさんの義娘がエプロンで濡れた手を拭いながらやってきた。
お年寄りの扱いに慣れている様だ。
「ほーかほーかー。
・・・・さっき何か言われた気がするのう。
・・・・・気のせいじゃなー」
Jさんはついさっき魔王に進化した事忘れ去った!
「・・・世界的にはこれで平和かもね」
「そうねー。なんでウチのお義父さんが魔王に進化したのかしら」
「それはきっとボケててついうっかりだよ。きっと」
少年と母親がどうせ聞こえてないのを良いことに、本人目の前にして言いたい事を言っている。
「たのもう!ここに魔王が現れただろう!」
いつもと変わらない日常に戻ろうとした時、勇者が玄関に現れた!
「はいはいはーい、今行きますよー」
母親がパタパタと玄関に早足で駆けて行った。
「!貴様は魔王の配下だな!」
「配下というより義娘ですよー」
「邪魔建てするなら討つ!」
「うーん。取り合えず上がってくださいな。
・・・靴は脱いでねー」
母親は勇者を家に招いた!
土足で上がろうとした勇者は靴を脱ぐまで上げて貰えなかった!
「くっ、既に装備の一つを盗られるとはっ!
手強いぞっ!」
「はいはい。殆どの日本の一般家庭では靴は脱ぎますよー」
警戒して威嚇する勇者に、母親は飄々と言った。
二人の温度差が凄い。
「ここか、魔王!」
「あんだってー?」
リビングのドアを勢いよく開けて言い放つ勇者。
ドアの金具が少し壊れた!
母親の額に青筋が立った!
Jさんは聞き返した!
「ああ!また話が戻るよ!」
少年は嘆いた!
「・・・確かに魔王の気配がするのにどこにいるんだ?」
勇者は目の前の現実を認めていない!
「目の前のお年寄りが正真正銘魔王ですよー」
母親が笑っていない笑顔で言った!
部屋の温度が下がった気がする!
「・・・そんな馬鹿な・・・。
いやでも確かに気配はそこから・・・」
勇者は戸惑っている!
「ねえ母ちゃん。この勇者、こんなお年寄りに刃物向けてるよ」
「あらー、息子はこんな大人になっちゃ駄目よー。
これは反面教師だからねー」
少年に指をさされた勇者は居心地が悪くなった!
「こんな余生幾何も無いお年寄りに粋がって刃物向ける様な大人にはならないから安心してよ母ちゃん」
ノンブレスで言い切った少年に勇者は撃沈した!
勇者のライフは0だ!
勇者は純粋無垢な少年の素直な発言の前に斃された!
魔王は今日も縁側でピルピル震えながらお茶を飲んでいる!