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魔王の子孫  作者: 猫缶珈琲
1部
7/15

3章3節

 スヴェンが店先で座って待つこと10分。

 左手に持たれていた刀はベルトに挿し、2本の棒と1振りのナイフを携えたアリスが店から出てきた。


「おー! おー!!」


 彼はソレを見ると、飛び上がるように立ち上がった。


「じゃぁ、ちょっと街から出てようか」


 そういうと2本ある棒のうち1本を渡し歩き始める。


「えー、棒だけー?」


「今はね。後でこれも渡す」


 そう言って、ナイフを彼に見せる。

 やる気になったのか「分かった」と元気に返事をした。

 街を出て、壁沿いに移動し周囲を見渡し人気がない事を確認する。そして、カバンを降ろしその上にすやすやと心地良く寝息を立てているスラを置くとローブも脱いだ。畳んでカバンの前に置くとその上にナイフを置き棒を一振りすると振り返る。


「じゃぁ、はじめようか」


 すると、顔を赤くし、目をそむけるスヴェンの姿があった。


「どうしたの」


「いや、その……思ったより綺麗だなって」


「はいはい。それはどうも」


 歩きながら、適当に流すと「嬉しくないの?」と疑問が返ってくる。


「別に。それより」


 荷物から十分距離を取ると立ち止まる。


「時間ないし、とりあえず私に当てるつもりで打ってきて」


「分かった!」


 スヴェンは棒を両手で持ち構えると雄叫びと共に走り始める。間合いに入ると振り降ろすが、アリスは半歩下がりそれを避け、棒は勢いのあまり地面に付く。


「ほら早く次」


 言われるまま振り上げ、振り下ろし、薙ぎ、突き。彼は幾度も様々な攻撃を仕掛けるがその全てをギリギリの間合いで避けられる。


 そして、5分ほどの時間が流れた。彼は体力が底をつき尻もちをつきその場に座り込んだ。

 肩で息をし、汗が頬を伝っていた。


「うーん、どうしたもんかな」


 当然と言えば当然だが彼女から見て彼の太刀筋は素人のソレだった。

 何か光る物があるかとも思ったが、特にそういうのも見受けられない。潜在能力は"普通の"剣術をあまり知らないアリスに見抜けるかは怪しい所であり、彼女の剣術で見極めるには圧倒的に時間が足りなかった。


──まずは、全くと言ってない基礎体力と筋力どうにかしないとか。棒、念の為に買っておいたけど要らなかったかな。


 そう考え、カバンの方に歩いて行く。

 スラをローブの上に移動させ、カバンを開けると買っておいた紙と万年筆、インクを取り出す。

 そして、空雪を出現させ机の代わりにし、紙を置くと文字を書き始める。


「はぁ、はぁ。アリスねーちゃん、何かいてんの?」


「君の今後の練習内容」


「え、ほんと!?」


 そう言うと、起き上がり元気に走って寄ってくる。


「見せて!」


「はいはい。これは書けたから目通していいよ」


 紙を差し出し彼は受け取ると熱心に書かれている内容を読み始める。

 次第に眉にしわが寄っていき不満そうな表情になっていくのが見て取れた。


「不満?」


 2枚目に次の練習内容を書きながら不満、不服、納得がいかないと言いたげな彼に問いかける。


「そ、そんな事はないけど、これ毎日?」


「毎日」


 更に嫌そうな顔になる。

 書かれていたのは腹筋70回1セット、腕立て伏70回1セット、スクワット70回1セット、背筋70回1セット、ジョギング約10キロなどいった筋トレ内容だった。


「や、休みは?」


「筋肉痛が起きたらその日は休み、それ以外はなし」


「回数減らすのは?」


「ダメ」


「……分かった。逆に回数増やすのは?」


「無理しない程度ならいい。後、それは1~2ヶ月続けて、楽にこなせるようになったらこっちね」


 そう言って書き終えた2枚目を手渡す。

 紙には先ほどの筋トレメニューの数が増えたものに加え、動体視力強化と書かれていた。

 更に嫌そうな顔になるが最後の1文を見て彼は首を傾げた。


「最後の何?」


「そのまま動体視力の強化。ちょっと待ってて」


 そういうと3枚目の紙に何やらささっと書き彼に渡す。

 紙には上下に○、×、△、□の記号が書かれ、それぞれの記号はうねうねし複雑に絡み合っている線で繋がれていた。


「上がスタートで下がゴール。で、線をゆっくり目で追って」


「・・・・・・それだけ?」


「それだけ。でお次は」


 アリスは目の高さまで両手を挙げ手のひらを広げると、肩幅まで広げる。


「この状態で顔を動かさないように、目線だけで親指から順に両手の指を交互に、テンポよく見る場所を変えていく」


 彼は棒と紙を地面に置き、見よう見真似でポーズを取り言われた通りにやってみる。


「ん、思ったより簡単」


「最後は家に本ある? と言うか文字読める?」


「あるし読めるよ」


「えらい。じゃぁ、先に問題を作っておいて、適当なページを一瞬だけ開く。で問題に答える。問題は例えば、一番最初の行の一番初めの文字は何か。みたいな感じ」


 彼は両手を降ろしながら「分かった」と元気よく返事をする。


「問題は初めは簡単なものから、徐々に難しく、数を増やしていって。それと、やり過ぎたらダメだからその点は注意」


「1つ目の紙って自分で書いてもいい?」


「勿論いい。けど私が書いたみたいに線はうねうねしてて複雑に」


「はい! アリス師匠ねーちゃん!」


「……え?」


 いらぬ言葉が聞こえ彼女の顔は引きつる。


「此処まで教えてもらったら、もう師匠だよ!」


「弟子はとってない」


 目を輝かせる彼には悪いがキッパリとそう言い放ち、万年筆や紙を仕舞い始める。


「えー、でも強くなる方法教えてもらったのに!」


「私が教えたのはあくまで動体視力の強化法。それと基礎体力と筋力の強化するための筋トレだけ。強くなるかどうかはその後の話」


 センスや生まれ持った才能も関係してくるのでその限りではないが、それでも師匠や独学するにしても練習法や習得方法等はとても大事。と彼女は考えていた。


「・・・・・・そっか。でもアリス師匠ねーちゃんもこれやってたんだよね?」


「師匠はやめてって。私もやってたから教えた」


 尤も彼女が行っていた筋トレ量は、一彼の倍以上はあり他にもやっていたが、口にはしなかった。


「なら、強くなれるよ」


 何の根拠もなく言い切り、スヴェンは笑う。


「それなら、本当の師匠見つけないとね。何処かの学園に入るのでもいいよ」


「アリスねーちゃんが師匠!」


「だから弟子は取ってないって」


 ため息混じりにそう返し、仕舞い終わると空雪を消しスラを再びカバンの上に移動させるとローブを着始める。


「あ、そうだった。はい」


 ナイフを渡しこう続ける。


「そのナイフを抜いていいのは自分、もしくは守りたいと思えた人を守る時だけ。無理して対峙もしない。逃げる時が最善の場合は特にね。いい?」


「はい! アリスねーちゃんもう行くの?」


 元気よく返事したかと思えば、急に暗くなる。


「もうこの街は出る。元々買い出しだけが目的だったからね」


 と、言いながらカバンを片肩で背負い、フードを被った。

 彼も紙と棒を拾い上げ家に戻る準備をする。


 そして、刀をベルトから抜こうとした時、1本の棒を左手で持っている事に気がつき、「あっ」と小さい声を挙げる。

 いつも刀を携帯していた状態で持っていたため違和感がなかったのだ。


「ス・・・・・・ス~ドマ? まぁいいや、これもあげる」


 そういって2本目の棒も彼に渡しベルトから刀を抜き、鞘を左手で持つ。


「スヴェンだって!」


 彼から名前の訂正が入り苦笑してしまう。


「あ、言い忘れてたけど、動体視力の奴。1枚目の練習やってる時でもやっていいから」


「分かった。帰ったらやるよ!」


「これは始めたら毎日やること。休むのは許さないよ」


 彼は元気よく「わかってるよ。師匠!」と言うと、はにかんだ。


「だから師匠じゃないって・・・・・・じゃぁね」


 そう言い残し、歩き始めた。少し経った時の事だ。「いつか、探しに行くからー!」と突然スヴェンは叫び後ろを確認する。すると、棒や紙を持ち、必死に手を振っており、思わず笑い、再び前を向いた。


 「優しいね。アリスお姉ちゃんは」と水の文字が書かれる。


「起きてたの?」


 と問いかけ「ついさっき」と書かれる。


「そっか。私自身、なんでこうも構ったのか分からない」


 昔の自分と重ねたのか。それとも彼の故郷が無くなる可能性を低くしようとしたのか。値引きするように仕向けたお礼なのか。はたまた偽善か。今日まで特に聞かれず、必死に覚えたクロード達の情報を話せて内心嬉しく、浮かれていたのか。彼女は理由がどれかわからなかった。


 ただ、1つだけ分かる事があった。最後まで面倒を見れる分けでもない。ちゃんと彼を強く出来るような下地を準備出来るわけでも、優秀な指導者を紹介出来る分けでもない。なのに、あのような真似をした自分への嫌悪感であった。


 「いいんじゃない。慕われて悪い気はしないでしょ」と書かれ、「まぁね」と低いトーンで返す。


「ま、会うことももうないでしょ」



「はぁ・・・・・・師匠になってくれたらなぁ」


 スヴェンは振り返ると走って自宅へと向かった。

 その様子を見ている複数の男性が居たのだった。

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