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魔王の子孫  作者: 猫缶珈琲
1部
6/15

3章2節

 最後に唯一の男性であり、彼女らの切り札。クロード・スカイ。例外処置が成されているため、順位はなし。

 彼の能力そのものは良くも悪くも平凡の一言。


 しかし、彼には切り札至らしめている能力がある。それは加護と呼ばれている代物だ。

 この能力は稀に発現し、所有者は20歳から25歳の間に自然と効果がなくなり、消滅するまでは恩恵を受けられる。その恩恵と言うのは発動条件は人によってそれぞれだが、効果は一律して身体能力の強化及び魔力の強化である。


「これも概要くらいしか知らないから踏み込んで説明出来ないんだけど、攻撃が当たりそうなのに当たらないって事なかった?」


 スラはこれまでの戦闘を思い出しながら「いっぱいあったよ」と答える。


「それ。自然と能力が上がってて気がついたら勝てるのか分からない。勝てる気がしないみたいな感じ。私も手合わせした事あるけど、普通にやったら勝てないだろうなっていなされ方された。と言うか本気でやっても勝てるか分からない。これなんてどうだろ?」


 特に大きいカバンを手に取り眺める。

 「いいんじゃない?」と書かれコレに決めると、レジに持っていく。


「2000バーツになるよ」


 店主にそう言われ、ちょうど2000バーツを支払った。


「まいど、旅人かい?」


「はい。そうですけど、どうかしたんですか?」


 アリスがそう言い、店主は何やら考えた後、1つの話をしてくれた。

 この付近の話ではなく、此処から西に向い中立地帯を抜けさらに西に進んだ所の国境近くの魔物領で異変が起きているという。

 店主は念のためと地図を出し、大体の位置を指で指した。その場所は目的地より更に北西に向かった場所であった。


 噂ではそこの土地で人と意思疎通が困難の魔物の多くを束ね、治めていた主が病で倒れた。いつも荒れている場所とはいえ更に荒れ酷い有様になっているとの事。


「だからよ、嬢ちゃん達気をつけてくれよ」


「情報ありがとうございます。では」


 お礼を言い店を出る。


「目的地の近場じゃないけど、気をつけないとね」


 そう言いながら、歩を進ませ始める。

 「そうだね」と返され、アリスはそうそう。と思い出したかのように続け、説明の最後を簡潔に伝える。


 クロードが扱う神装武具は光霊魔装こうれいまそう‐ティルフィング。

 人伝に聞いた事だが、彼は過去に1本神装武具を破壊しているらしい。何があって破壊するような事になったかは定かではない。


「で、妹ちゃん達との戦闘で、って思ったけど違う?」


 と聞くが「壊した事なんてないよ」と書かれ「違うか」と落胆した声でアリスは返した。


「まぁいいや、食べ物早く買って帰ろう」


  改めて街を見渡すと、レンガで作られた建物が目立ち、子ども達が至る所で遊んでいたり、家の手伝いで汗を流していた。

 街を流れる川は綺麗で、太陽の光りが反射し輝いて見えた。


「……今更だけどいい街だね」


 街を見渡しながら、話しかけるようにそういった。

 程なくして、対向から歩いてきた男性と肩がぶつかってしまう。


「あ、すいません」


 アリスは立ち止まり、振り向きながら謝罪を述べるが、男性の態度を見て瞬時に目が据わった。


「痛いわ~、そっちからぶつかっといて謝罪だけってそりゃないよねぇ?」


 小汚い服を着た男性はヘラヘラ笑い、ぶつかった肩を手で抑えながらそういった。それが合図だったのか、路地からぞろぞろと3名ほどの彼の仲間と思われる人物が現れ、彼女を囲む。


「っち、前言撤退。妹ちゃんカバンの上に移って」


 そう言いながら刀の刃先が下側になるように持ち替え、右手で左手で持っている刀の柄に振れた。

 スラは言われた通りカバンの上に移動するとあくびをする。


「おいおい、つれねぇじゃないの」


「ダメッスよボス~こういう時は優しくリードしてあげないと」


 奴らはヘラヘラと笑い、そのうち1人が手を伸ばした瞬間だった。


「・・・・・・は?」


 間が抜けた声を出し、差し伸ばした腕はあらぬ方向へと折れ曲がっていた。そして、叫びながら腕を押さえその場にしゃがみ込む。


「俺の、俺の腕がっ! 俺──」


「五月蝿い」


 鞘でしゃがみ込んだ男の顔を殴ると、声にならない叫び声と共にその場に倒れ意識を失う。

 残りの男はその光景をただ見て呆然と突っ立ていた。

 アリスはため息と共に持ち替えていた刀を元に戻し彼らを避け、再び歩き初める。


「あっ、ま、待ちやがれ!!」


 ボスと呼ばれ、最初に肩をぶつけた男性が彼女を追いローブを掴もうとする。

 だが、掴んだはずのローブは手中にはなく、空を切るだけであった。彼女は、彼が認識して居た場所から右にずれた位置に存在していた。

 男は足を引っ掛けられ、転がるようにしてコケる。


「いてぇ・・・・・・く、そ」


 男は立ち上がろうとしたが、そのまま体勢を崩し再び地面とキスをする。

 右足に目線を送ると、切断された足と傷口から夥しい量の血が出ている光景が眼光に広がる。足を押さえ、叫び声を挙げた。

 すると、男の目の前に1つの小袋が落ちてくる。緩く縛られていた袋の口から薬草が溢れ出て来た。


「次は無いから」


 そう言い残すと、アリスは再び歩を進ませ始めた。

 後方から「ボス」と何度も呼ぶ声が聞こえ、ため息を付く。

 「対応慣れてるね」と書かれ、「一時期、1人で旅してたからね」と不機嫌そうに返した。



「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 森に1つの叫び声が轟き、木に留まっていた鳥が一斉に飛び立っていく。


「おい、ギャス。何やってんだよ」


 叫び声を聞きつけ、走って来たディードが見た光景は、誰かが仕掛けた罠にギャスが引っ掛かり、宙吊りになっている状態であった。


「わ、罠に引っかかった・・・・・・ギャ」


「んなこったぁ、見りゃ分かんだよ」


 指を鳴らすと、ロープが切れギャスは落下し地面に叩きつけられる。


「飛べばこんなもん引っ掛かんねぇだろ?」


「あいたた・・・・・・疲れるんだギャ。だからちょくちょく飛ばないようにしてるんだギャよ」


 立ち上がり、足に巻き付いているロープを解くと自信に回復魔法をかけていく。


「それより、何か収穫はあったギャか?」


「ん? あぁ、ケラの実があったくらいだな」


「入れ子の実だギャ!?」


 ケラの実とは、楕円系で縦に長く大きい物で10センチほどの果物である。甘く美味しいのだが、大きい種が中央にあり実の部分は少ない。実は切り込みを入れると皮のように種から剥がす事ができ、食べること自体は容易である。


 この実の最大の特徴は種の部分も食べられるという点である。

 食べ方は種を火の中に入れ、外が真っ黒になるまで焼き取り出した後、包丁で切る。すると、中身が柔らかくホクホクとなっており、後は調味料を振ってスプーンで掬って食べる事ができる。ブラックペッパーや塩を振りかけ食べるのが一般的である。ただし、冷め時間が経ちすぎると固くなり食べられなくなるので注意が必要となる。

 とある人形に似ている事から別名入れ子の実と呼ばれている。


「食いつきいいな、好きなのか?」


「大好物だギャ!」


 そういうと小さな羽が羽ばたき、しっぽが左右に振られ如何にも上機嫌と言った様子だった。


「奇遇だな。俺も好物だ。時に、お前の成果は?」


「散らばってるけどそこにあるギャよ」


 と言って指差した先に、数種類のキノコが地面に落ちていた。

 ディードは歩いて行きキノコを見定め、1つだけ拾い上げるとこう告げる。


「これ以外、全部毒キノコだったぞ」


 嘔吐、下痢、麻痺と言った種類の毒キノコで、命に直接関わる種類は見受けられなかった。

 ギャスは驚いた顔をし「嘘だギャ!?」と反論するが「嘘じゃねぇ」と言い手に持つキノコを上に放り投げた。



「・・・・・・グリフォンのお肉か」


 アリスは1キロほどある肉の塊を見ながらそう呟いた。

 そして、財布を取り出し中身を確認し、再度値段を確認すし再度財布の中身を確認する。この動作をもう2回ほど繰り替えし、諦めたかのように隣の安いお肉を店主に頼む。


「これかい? あー・・・・・・この肉の値段で、グリフォンの肉売ってやってもいいよ」


「え? いいんですか?」


 思わず聞き返すと「いいんだよ、ほらお嬢ちゃん可愛いからさ」と言われ、店主のご行為に甘える事にした。

 絡まれて不機嫌だったアリスは一転し上機嫌となり、はにかみながら歩く。

 「良かったね」とスラが水の文字で書くと上ずった声で「うん」と返し、お肉をカバンに入れると次の店へと向かう。

 道中「そういや、その刀? っていうのも神器なの?」と書かれた。


「そう。凛心魔装りんしんまそう‐リディル改め、真打・蔭刻宗近しんうち・いんこくむねちか。刀は何処の武器かは知らないけど、師匠が確か東の方の地方って言ってたよ」


 「へぇ~じゃぁ」とスラが文字を書く途中でアリスは喋り始める。


「多分、刃こぼれしないの? って聞きたいと思うんだけど、親方、この刀を打ち直した人ね。その人が言ってたんだけどなんでも昔ごく一部で使われてた特殊な金属で硬いと。それに宗近の能力で更に硬くなるから尚更硬い。故に刃こぼれ非常にしづらいってわけ。これ以外にも理由はあるけど秘密」


 説明が終わりちょうど野菜を売っている露店に着き品定めを始める。

 「なるほど~、じゃぁじゃぁアリスって」と書いた所で幾つか店主に野菜を頼み、財布を取り出しながらスラの方に目線を向ける。

 「お兄ちゃんの事好きなの?」と続けて書く。


「うーん? 兄としては好きだよ。けど、異性としては見てないかな。血が繋がっているわけじゃないけど、どうしても兄妹として、兄としてしか見れないから」


 そう言うと、店主が野菜を入れた木のザルをアリスに渡すと料金を要求してきた。


「……安くないですか?」


 アリスは店主が言った値段が暗算で計算した合計金額より明らかに低くびっくりして思わず聞き返していた。だが、間違っていないと言われ、要求した金額を支払うと野菜をカバンに仕舞い次の店に向かう。


 そして、次の店でもその次の店でも安く売ってもらえたり、おまけを付けてもらえたりし、挙句の果てには昼食をとった店でお代は入りませんときたのだ。明らかに怪しいと考える。

 アリスの表情は険しくなっていた。

 立て続けにこの様に安くしてもらえたりするのだろうか。否、あり得ない。裏で何かが動いている。

 と、考え周囲を警戒しながら最後の店に立ち寄る。


 まずパウラゴ(マンドラゴパウダー)と書かれた小瓶を手に取り、メモに書かれていた香辛料を持ってカウンターに持っていく。

 案の定、書かれていた値札の合計金額より低い値段が提示される。


「すみません。安いです」


 と、殺気をだし、今にも店主を殺してしまいそうな雰囲気を醸し出しながら言い放たれたため、店主は顔を真っ青にし後ずさりする。

 「あ、えーっと何処に行っても安くしてもらっていて、怪しんでるだけです」とスラが急いで水で文字を書き、それを読んだ店主は胸を撫で下ろした。


「君、さっきカレルヴォの奴らぶっ飛ばしたろう? ソレでだよ」


「誰……」


 思わずアリスはそう呟いた。

 話によると、先ほど肩をぶつけた男性がカレルヴォという人物だったらしい。どうもこの辺りで色々と悪さをしていたようで、かなり迷惑していたらしい。

 此処の自警団を使えば良いのではないかと言ったが、どうもそのカレルヴォと呼ばれる人物の兄弟が自警団関係者におりしかもかなり地位が高い所に居りそうも行かないとも話された。


 彼女は息の根も止めておくべきだったと考えたが、後の祭りである。

 最後に、この情報は1人の少年が運んだものだ。

 店を出て、辺りを見渡すと路地に例の少年の影が見え、影は路地えと消えていく。


「妹ちゃん、ちょっと激しく動くけど良い?」


 と聞くと、スラは笑顔で頷く。


「んじゃ、参之閃-空雪くうせつ


 と、アリスが呟き、とても薄い半透明の板が空中に1枚出現する。

 「ねぇ、呟いてるのって言霊?」と聞かれ、「さぁ。師匠にこうしろって言われたから知らない」と返し、地面を蹴って跳び、その後店の壁を蹴り更に跳ぶと、空雪を足場にし向かいの家の屋根に飛び移る。


 足場にされた空雪はまるで雪のように砕け落ちる。

 路地を見下ろし、屋根伝いに走っていくと目的の少年が走っているのが目視で確認出来た。

 追い抜かした所で飛び降り彼の目の前に着地した。

 彼は止まろうとするが、止まりきれずアリスとぶつかった後、急いで逃げようとする。が、首根っこを掴まれ、逃げる事は叶わなかった。


「捕まえた」


 そのまま逃げようと懸命にあがく少年を引きずりながら、適当な広場まで来ると少年を投げるようにして離してやる。

 少年は再び逃げ出そうとするが、アリスに先回りされ観念したのかその場に座り込む。


「ねーちゃん、俺をどうする気だよ」


「どうも? ただ話をね」


 アリスはしゃがみ込みながらそう優しげな声で話しかける。


「話って、何話すんだよ」


「んー、じゃぁ、なんでこんなことしたの?」


 と、問いかけた所で耳元から寝息が聞こえ始める。


「・・・・・・お礼だよ。行きそうな店片っ端に一部始終とその格好話せば、勝手に値引きとかしてくれるだろうからそれで」


 彼は目線を逸らしながらアリスにそう伝える。

 確かに、ローブを着て大きなカバンを携え、見慣れぬ剣を持ち、スライムと共にいる女性となれば一目瞭然だろう。間違えようがない。


「お礼か。私、そんなたいそうな事してないけどね」


「したよ! ねーちゃんは部外者だから知らないんだろうけど、あいつら!」


 途端に此方を向き叫ぶかと思ったら少年はしょげる。


「ねぇ、ねーちゃん」


「ん?」


「旅人なの分かってるけど、街にいてくれよ! 街守ってくれよ!」


「無理」


 キッパリと断り、立ち上がる。


「私が守れるものは限りがある。で、この街は大きすぎる」


「この街、小さいのに?」


「うん。君には小さく見えるかもしれないけど、私から見れば大きい。すごく」


 過去、戦争の影響で失われた故郷。その後拾われ居着いた先で燃えた村。救えなかった、止めれなかった友人や師匠。それぞれを思い出しながら彼女はそう伝える。


「だから、君が強くなって守ればいい。小さく見えるんでしょ? この街」


「出来るかな? 俺に」


「君次第。ほら行くよ」


 そういうと身を翻し歩を進ませ初め、彼に聞こえない声でこう呟く。


「はぁ、ガラでもない……」


「え? 何処行くの?」


 そう問いかけられ、アリスは少し考えこう答えてやる。


「着いたら分かる」


「な、なんだよそれー!」


 と少年は叫びながら走ってついて来た。


「あ、そういやねーちゃん名前は? 俺、スヴェン・ジョアンヴィルってんだ! スヴェンでいいよ」


「私は……」


 一瞬、偽名を名乗ろうかと考え言葉に詰まるが、現在の本名を名乗る事にした。


「今はアリス・カゲミヤって名乗ってる」


「アリスねーちゃんね。今はって事は名前変えたの?」


「うん、変えてる。旧名は教えないよ」


「聞かないよ。スライム触っても良い?」


 そう言って、走り後ろからスラが寝ている肩側に回りこむ。


「寝ちゃったからダメ」


「そっかぁ、残念」


 随分と人懐っこい子だと考えつつ彼に目線を落とす。

 すると、それに気がついたのか彼もアリスに目線を向ける。


「どうしたの?」


「いや、急に馴れ馴れしいなと」


 少し皮肉を込めてそう言ってやると素直に謝ってくる少年にため息をつき、冗談だと伝える。


「そっかーなら良かった」


 彼は無邪気に笑う。

 彼女は内心、扱いづらいと考え、変に首を突っ込むんじゃなかったとも考えた。が何処に行くのかワクワクしながらついてくるスヴェンを見て到底そんな態度を取ったり、言葉を吐けはしなかった。

 スヴェンの話に付き合い、数分歩いた所でとある店に到着した。


「武器、屋?」


「そう。武器屋」


 アリスは短く返答し、店のドアを開けた。

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