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魔王の子孫  作者: 猫缶珈琲
1部
5/15

3章1節

「野宿が始まってもう3日か……」


 星空を見上げながらディードはそう呟く。

 アリスの言う逃走ルートを通り、現在はマーレント領の中立地帯。殺害依頼が出ているのか2回ほど傭兵からの襲撃を受けていた。彼はこの事は予想出来ており、中立地帯の移動は避けたかった。

 だが……。

 


 3日前。


「中立地帯を抜ける!?」


 ディードはオウム返しをするようにそう叫んだ。


「うん。で、魔物領にある砦に行けって言われた。リザさんか小物なら何かわかるじゃない?」


 頬を膨らませ、不機嫌そうなギャスがゆっくりと答える

「その付近にある砦は現魔物軍に反発してる組織、俗にいう反乱軍が占領してるギャ。だから、助力を得るならうってつけ」


 「じゃぁ、安全?」とスラは文字を書き「そう」とギャスは即答する。

 どうやら、既に文字は読めないという嘘を付く気は毛頭ないらしい。


「でもなんで中立地帯抜けるんだよ? 傭兵雇って差し向けるって手段もあるだろ?」


 魔撮影機-クリスタルと呼ばれる写真機が出回っており、もし撮られていた場合、高額の賞金を掛け傭兵を雇う事も、依頼と言う形で依頼所に送り不特定多数の傭兵を動かすのも容易。

 そして、最低でもディードの昔の写真を所持しているだろう事は予測出来ていた。

 なんにせを彼から見たらあまりいい手には思えなかった。


「理由は2つ。まずマーレント領はこの中立地帯付近でアトランティッド校って所の大規模演習があるの。立ち入り制限が掛かってる上に、期間はよく覚えてないけど結構長かったはず」


「魔物領は中立地帯ギリギリに軍を置いてるギャね。中立地帯まで踏み込んで来るのは少量だけれど、中立地帯から抜けたら即バレて囲まれるギャよ」


「それが2つ目。極力戦闘を避けるなら中立地帯を抜けていくのが無難なの。まぁ、後2~3日も歩けば演習地域じゃないマーレント領に出れるから、早めに出るならこの時だね。どちらにしろマーレント領には入らないといけないし」


 「なるほど」とディードは呟きながら眉をしかめる。


「兄さん、何か問題でもある?」


「いや、問題はないが、お前の情報源になってる奴って何者だ?」


 何をどう考えてもディードの現状を知りすぎている。

 とりあえずの目的地が反乱軍の砦と言う点も引っかかっていた。


「生徒会副会長様。それ以上の事は知らないし、探っても情報がいまいち手に入ってこないから分からない。信用できるかどうかは半々って所」


「……分かった。まぁ、こっちも似た状態だし人のことは言えねぇか」


 彼はギャスに目線を向けその後、疲れ果て寝ているリザ之助に目線を向ける。


「当面の行動指針を決めた所で兄さんと妹ちゃんに先に言っておく事があるの」


 咳払いをし、アリスはゆっくりと以前あったとある事件の事を話し始める。

 それはサクラ・カゲミヤと呼ばれる女性の暴走そして、前当主にてアリスの師匠の死の事であった。

 彼女はディードの力になるとは別に、そのサクラ・カゲミヤと呼ばれる女性を殺す事も目的としていた。


「なんだけど、当面は兄さんの逃亡優先するからその点は安心して」

 

 

 アリスに助力していた謎の情報源、魔物軍の動向、ギャス達の立場、ギャス本人の目的といった不明瞭な点が多い。

 一度整理しなければと考えつつ、思うようにスラと2人っきりになれる状況にならなかった。


 「危ないから」と言って、この3日間リザ之助かギャスのどちらかが、ずっとそばに居たからだ。ただ、リザ之助は本当に心配だっただけなのか、魔力が回復しきった後は「気をつけて」といって心配するだけで無理に一緒に居ようとはしなかった。

 あまり使いたくはなかったが、アリスにそれとなく頼みギャスを引き剥がしてなんとか時間を設ける事が出来た。


「さて、スラ。まずはギャス達の事どう思う?」


 久々の2人っきりの時間とはいえ、呆けてのんびりと時間を浪費するわけにも行かず本題を切り出す。


 「どうって、多分反乱軍の所属だと思うよ」と書かれディードはびっくりする。

 すると、続けて「だって、私が安全? そうって聞いて即答したでしょ? それって内情知ってますって事だよね」と書き言いたい事を理解する。

 もしギャスが内情を知らない場合、よほどの馬鹿じゃない限りは安全とは言い切れない。言えても曖昧な表現になるはずだ。更に初日の魔物軍の暴走が云々と言う台詞にも合点が行く。


「あー……となると反乱軍は暴走しかけてる魔物軍から離反したって所か」


 「暴走ってのが本当ならねー」と書き、スラはため息を付く。そして、「多分あなたを担ぎ上げるつもりだと思うよ。ほら、打倒してすり替える王は此処に居る分けだし、見返りなしで助けるなんて虫のいい話なんてないよ~」と続ける。


「確かにな。なら従順な振りして逆に利用しちまうって手もありか」


 と、冗談を言うと「それが一番だねー」と書かれ彼は思わず笑ってしまう。


「じゃぁ、次はアリスの情報源の方。此方はどう思う? 反乱軍関係者なのは確実だろうが」


 スラの顔が少し険しくなり「情報が少なすぎてよく分からないね。でも、プッチちゃん達以上に気をつけておいた方がいいかも」と返ってくる。


「そう返すって事は何か引っかかるのか?」


 「そりゃ、おかしいからね~」と書かれディードは思わず「どこが!?」と返してしまった。


 スラが言うにはまず、反乱軍と繋がっていたらなぜアリスをギャスと共に送らなかったのか。

 次に準備が用意周到な風に見せて、行動に移させるまでにワンクッション置いたのか。

 情報共有が遅れたという線もあり得るが、魔通信機の存在で可能性は低い。


 魔通信機-ドラウプニルと呼ばれる代物は、魔力周波数と呼ばれる物を予め設定しておき、その周波数が合っている物同士が通信ができるという物だ。主に魔通信機や量産型ドラウプニルと呼ばれている。

 魔通信機には子機と親機の2種類が存在する。指輪の形をし、兵や傭兵の間で使われている物は子機と呼ばれている。子機同士での通信可能範囲は最大4~5キロと言った所だ。親機と呼ばれる物は持ち運べるような代物ではなく、人間領には各地に大きな塔が点在している。これがドラウプニルの親機だ。通信可能範囲は最大30キロ。そして最大の特徴は親機は単独での通信は不可能だが、中継器としての役割がある点。つまり、子機の通信可能範囲は親機を通す事で広げる事ができるのだ。


 魔物領、魔物軍ではあまり流通はしていないが国境近くであり、アリスから見せてもらった地図が正確ならば、親機から30キロ範囲に存在する反乱軍の砦。そして魔通信機を入手できるアリスの情報源。繋がっているとすれば通信して情報共有して居ないわけがない。とスラは結論づけていた。


「つまり、俺の状況を把握したのはつい最近で、アリスの探し人と魔王の息子が同一人物かっての裏とりの時間を稼ぐために動かすのを遅らせたみたいな感じか?」


 「裏とりというより、私達をどう"動かすか"の変更だと思う」と書かれ彼は少し悩む。


──そうなると、なぜ反乱軍の砦に向かわせるんだと言う話になるんだよな。


 「問題はなんで反乱軍に向かわせるかって話だよね」と続け彼は肯定する。


「あぁ、そこだな。……なぁ、ふと思ったんだが、つながってはいないが内情は知っているって線はないか? 例えば密偵が反乱軍に紛れ込んでいるとか」


「むゅー……」


 スラは唸るようにそう鳴くと「有り得そうだね~」と書いた。


「ただ、もしそうだとしても、中身は一切見えないのがなんともなー」


 そう言うとディードは体を起こし、立ち上がる。


「さて、そろそろ戻らなきゃな」



 翌朝。


 朝食を食べようとした時の事だ。3度目の傭兵の襲撃を受け対応は難なくこなしたものの、用意されていた朝食とリザ之助が運んでいた食料の約半数が彼が所持していたかばんと一緒にダメになってしまった。

 その場は残りの食料で済ませたが、彼によると持って後1日ぐらいと言われ、急な食料不足に陥った。


 ディードとスラは釣り、採集、狩り。と野生感溢れる対応策ばかり出すが、無難に近くの小さな街に買い物に行くという方針で決定した。

 ただ、地図で見た限り一番近くにある街でも片道2~3時間ほど、アリスでも40分から50分掛かる距離に存在していた。そのため、今日の所は食材の調達を第一に考え移動はほぼしない方針となった。

 しかし、ディードは顔が出回って危険かもしれない。と用心して小さな街には同行せず、機動力と戦力を鑑みてアリスだけが向かうはずだったが、話がしたいとスラもついていく足運びとなった。


「では、アリスさん、これが必要な調味料です」


 そう言って、リザ之助はアリスに1枚の紙を渡す。


「食材は任せますが極力偏らず色々な物を頼みます。かばんはできるだけ大きのをお願いします。あ、お金はちゃんと持ちましたか? ちゃんと辿り着けそうですか? 魔通信機は──」


「大丈夫。その、なんていうか。幼い娘を送り出す時のような親の対応されても困るから・・・・・・」


 フード付きのローブを着たアリスはため息混じりに彼の言葉を遮りながら返し、ディードとギャスは笑う。

 彼女の服に入っているスラが首元から顔を出し、「気をつけてね」と水の文字で書き、彼は「おう」と短く返事を返す。

 恐らく、気を付けて。には傭兵の襲撃とギャス達の事の2つの意味が含まれているのだろう。


「じゃ、行って来ます」


 と言うと、次の瞬間には姿が消えていた。


「・・・・・・ほんと、呆れるほど早いギャねぇ」


 彼女の話では縮地と呼ばれる移動法らしい。原理を説明されたがスラ以外誰も理解出来ていなかった。魔力を起爆剤とし、足元で小さな爆発を発生させそれを利用し高速で移動する。と非常に簡潔に説明されやっと他のメンバーもなんとか理解する事が出来たぐらいだ。


「さて、俺らも動くぞ」


 そう言いながらディードは身を翻す。


「と、言うと何するギャ?」


 きょとんとした顔でギャスが疑問を口にすると、背を伸ばしながらディードがこう答える。


「待ってる間に、俺達の今日の昼飯を、果物だのキノコだの探すに決まってんだろ」


 ついでに周囲の探索をしておいて損はないだろう。と言う彼の考えからあまり広がらずに手分けして食料を探し始めるのであった。


 

 出発し40分が過ぎた辺りで移動速度を落とす。


「妹ちゃん。大丈夫?」


 目線を落としながら、右手で胸元を開けてスラの様子を確認する。


「む、むゅ」


 唸りながらぐったりしたスラを見て苦笑いする。肩に移るように促し、歩き始めた。


「で、話って何?」


 アリスが問いかけ、「それは」と書かれた水の文字はヨレヨレだった。


「本当に大丈夫!?」


 彼女は内心もっとゆっくり進めば良かったと思い、「何処かで休もうか?」と続けて聞くが「大丈夫」とよれよれの時で断られる。

 「聞きたいのは先日の5人の戦闘力と武装」と続けれ書かれ、水の文字は遂には形を保てず地面に落ちて行く。

 強がってはいるが、相当気分が悪いと見てまず間違いない。帰り道は気をつけようとアリスは心に決め簡単に説明を始める。


 恐らく一番戦闘しているであろう大剣の炎使いの女性。彼女の名前はレスト・ラーベ。順位は19位。

 と、此処で早速「順位って?」とよれよれの字で質問が飛んで来た。


「私が通ってたハプスブルグ校って所の年初めに大会みたいなのをするんだけど、その順位。一部例外居たりするし、順位の決め方とか説明いる?」


 と簡潔な補足を入れ、若干ではあるが乱れが治り初めたらしく「今はいらない。けどお姉ちゃんは何位?」と、先ほどより読みやすくなった字で書かれた。

 「分かった。それと、私は"一応"1位」と、返事をし説明の続きを再開する。


 彼女は兎に角勘がよく、攻防もバランス良く高い。そのため、あの中では攻撃が一番通りにくい。使用している神装武具は烈火偽装れっかぎそう‐バルムンク。


 次は司令塔となっている女性。リリーシャス・リケイン、順位は7位。

 接近戦は壊滅的で寄ってしまえば簡単に倒せる相手だが、基本的にチームで動く時は先ほど述べたレストが立ちはだかる。更に、彼女自信神装武具で空を飛べ、距離を取れる。

 そのため、寄る手段は限られる。中、遠距離戦での火力に特化しているのも重なり、好き放題やらせると一番厄介な相手でもある。

 使用している神装武具は金夜魔装‐ドラウプニル。後、神装武具では"ない"が特殊魔砲‐ディヴァイン。


 「え、違うの?」と問いかけられ、言葉を選びながら説明を再開する。


「出回ってるクリスタルやドラウプニルの量産品って神装武具って呼ばないでしょ? 理由があってあれはコアの適正に関係なく万人が"まとも"に扱えるから。そもそも適正判定がないから適合者じゃなくても良くて魔力負荷も比較的少ない。それとは逆に7位が扱うディヴァインは単体では絶対に適合しない。だから神装武具っぽいけど、正確には神装武具じゃないって友達が言ってた」


 「適正判定?」と書かれ「あー……」と声を漏らしながらアリスは考えた後、口を動かす。


「神装武具、クリスタルとかの量産品もだけど全てコアと呼ばれる核なる部分があるんだけど、それに魔力を流して適合すればコアが活性化、それで性能が向上するってわけ。特殊な力が有る場合はそれも発動可能になる。問題は負荷がかなりかかるって事。まぁ、妹ちゃんも知ってると思うけど魔力操作量マジック・マニュピュレイトね」


 魔力操作量とは、人間、魔族、魔物に関わらず存在する魔法を同時発動できる量の事である。扱える量には個人差があり、超えて発動された魔法は不発する。


 「で、7位のディヴァインはオリジナルのドラウプニルで魔力的に繋いで扱ってるんだとか。詳しくは知らないから踏み入った説明は何も出来ないけど。お、見えてきたね」


 森を抜け、草原に差し掛かった所で、森を避け引かれている荒道の先に小さな街が見える。

 彼女はフードを被り、更に歩を進ませていく。


「えっと、リザさんが居るって言ってた調味料はっと……」


 渡されたメモを取り出し目を通し始める。

 書かれていたのはブラックペッパー、塩、マスタード、唐辛子、ハーラウ、パウラゴの計6つ。

 確認し終わり仕舞う。


「ハーラウか。は、入ってたのか。気が付かなかった……」


 嫌そうな顔で独り言を呟くと「苦手なの?」とスラに聞かれる。


「うん。ハーラウがってより苦い物全般的にね」


 ハーラウとはアウラウネの葉を複数枚数日煮込んだ液体の事である。甘い香りはするが、非常に苦い。その分栄養価が高く旅人や旅商人を中心に愛用されている。


「あ、ごめん。説明の途中だったね。再開するよ」


 次はエルフで戦闘時姿をあまりみない女性。シャローネ・リーベット、順位は2位。

 森や市街地のような身を隠す事ができる場所では、姿を消して一方的に攻撃してくるのが特徴。そして、遠隔操作できる魔矢で仲間の援護が主な役割。攻撃の隙を埋めたり、即興の連携がうまく非常に厄介なうえ嫌らしい。それに寄られても弱くない。

 使用している神装武具は風魔偽装ふうまぎそう‐トリスタン。


 と此処まで説明した所で小さな街に到着した。今は人はさほど出歩いては居ない様子だった。

 出入り口から見える店のうち、一番近くにあった店に立ち寄った。店主に旅道具を売っている店を聞き、ミカンを1つ買って店を後にする。

 刀を脇に抱え、皮を剥きながら歩いた。剥いた皮は小さい袋に入れていく。


「歩きながらは剥きにくい・・・・・・」


 スラは笑い、口を開けて催促する。


「ちょっと待って、はい」


 剥き終わると、果肉を1房スラの口に入れ、アリスも自分の口に放り込む。

 そして、ミカンを食べながら説明を再開する。


 1番幼い女性。ミラ・ゲッティン。高等部ではなく中等部の所属のため順位はなし。

 学園内では彼女は秀才と名高い。それも、氷魔法の特に難易度の高い凍結魔法をすぐに習得したからという理由だ。そして、中等部所属では特に少ない神装武具使い。

 だたし、戦闘経験は浅く、凍結以外の扱いはまだまだと秀才と呼ぶにしては、実際の実力はさほど高くはない。

 使用している神装武具は氷槍獄装ひょうそうごくそう‐ヴァジュランダ。

 "元となった"魔装は雷属性の槍だが、生成過程で変異した神装武具。

 ちょうど教えられた店に着き、最後の1房を口に放り込む。


「んぐ、此処だね。カバン、大きのがいいんだっけ」


 「うん、リザくんそう言ってた」と書かれ、「了解」と返すと店に入った。

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