2章2節
複数の魔矢がアリスの後方から接近し捉えるも、彼女は一瞬にして消え魔矢は地面に突き刺さる。
『後方警戒!』
「分かってる!」
応答ながら、大剣を瞬時に持ち替え地面に突き刺す。
すると彼女を囲う形で地面に円を描くように赤い線が引かれた。そして、その赤い線から炎の壁がせり上がる。直後その炎の壁に何かが接触、一部がはじけ飛び瞬時に再生し、赤い線に亀裂が入った。
──何度か見てきたけど、相変わらずの速さ。目で追いきれりゃしない。
2波、3波と続き壁は弾けては再生を繰り返しているが、線の亀裂は防ぐ事に増えていっていた。
すると、上空から1発の砲撃、複数の魔矢が攻撃が繰り返されている方向に殺到する。が、瞬時にリリーシャスに向かって反撃がなされ、予め貼っていた数枚の半透明の壁を難なく破壊し、腕を掠め切り傷を作る。
『くぅ! この程度じゃダメですわね・・・・・・!』
そう言いながら彼女は更に壁を再生成し、攻撃を繰り返しつつ対象から距離を開けていく。
レストは左手をかざし、1つの炎の弾を作り出す。
「なんとか追い込めない?」
『ボクだけだと、手数が、足りないよ』
「なら、アレやる?」
炎の弾を浮かせながら小さく分離させていく。
『ッ! ディヴァイン、音声認証、モードモア!』
「イエッサー」とディヴァインから音声が発せられ分離し、変形を始めた。
隙を埋めるように、攻撃を引き継ぐかのように魔矢がアリスの居る方に飛び去っていく。
ディヴァインは、彼女を覆うように展開していき至る所に小さな魔法陣が浮かび上がっていく。最終的に球体の形を取り彼女は中にすっぽりと収まってしまった。
魔法陣から銃身が形成されイガグリのような姿へと変貌する。
『タイミングは、合わせる』
シャローネは追加の魔矢を引いていく。
リリーシャスの真っ暗な視界にぼんやりと周辺の魔力反応の箇所が浮かび上がった。敵、アリスの位置を確認し言葉を発する。
『おねがいしますわ。全砲門───』
全ての砲門が反応し、魔力が集まっていく。
『発射ァ───ッ!!!!!』
それぞれの砲門から砲撃が始まり、レストの細かく炎の弾も殺到し、魔矢も合わさりアリスの魔力反応があった周囲に雨のように降り注いでいた。
普通の相手であればこれで勝敗は決するだろう。
砲撃は続き、炎の弾も間隔を置きながら放たれていく。
『大きいの、いく。位置を』
流石に魔力感知範囲外なのかそう問われる。
幾つかの魔矢が空で円を描き、そして魔法陣を描いていく。
『位置は、くぅ!』
再び貼っていた壁が破壊され、幾つかの砲門が飛来した何かに斬られ爆発する。
同時に魔力反応が消え、ディヴァインの内部は真っ暗になった。
「無駄乳!」
『まだ、大丈夫ですわ。位置は、わたくしから見て、1時方向、距離約400m!』
『了──』
魔法陣を1つの微かに振動した魔矢が通り、大きさが約2倍になった。
『解ッ!!』
指定された箇所に速度も著しく早くなった大きな魔矢が飛んでいき、数瞬後に爆発、爆発音と共に爆風が辺りを駆け抜けていく。
『更に距離を取りますわよ。ディヴァイン、音声認証、モードキャノン』
再び、「イエッサー」と音声が発せられ、変形し元の砲の形へと戻る。ただし、ダメージを受けた影響で花が飛び散っていた。
「りょうか──」
何かを感じ取り、未だ突き刺している剣を抜きながら飛びのける。すると、衝撃波が地面を伝い襲ってきた。それは炎の壁を難なく破壊し、レストが立っていた場所を通り更に突き進んでいく。
『壁、再生成、可能まで、何分?』
レストは急いで立ち上がり、走り始める。
「張れても、後10分ほしい」
『と、すると、もう1度張れるか怪しいですわね』
「そもそも魔力ももう少ないし、張る方向はなしかな。で、そっちは?」
リリーシャスは後退しつつ、ディヴァインに目線を向け、状況を説明する。
「此方は攻撃は支障なさそうですわ。ただ、魔力感知に少々支障が出ていて・・・・・・簡潔にいいますと使い物になりませんわね」
ノイズまみれでろくに機能していない魔力探知の画面を見て、ため息をつく。
『そういや、魔物軍は?』
「さっきほどの攻撃の巻き添えで、ほとんど反応が消滅してましたわよ」
『普通は、そう、だよね』
呆れ声でシャローネがそう返す。
レストに続き、リリーシャスも残存魔力が少なくなっていた。戦闘出来たとしても後数分が限度といった所だろう。
まともに戦えるのはシャローネ1人。寄られれば退場。中、遠距離戦も互角か此方が押される現状時間稼ぎも難しくなっていた。
──せめて、アリスさんの足を止められれば、この状態だろうと勝機はいくらでも・・・・・・。
すると、右手の半透明の非常に薄い壁のような板のような物が後方から現れ視界にはいる。それは防衛に使われる壁より更に薄く、複数枚連なって1つの細長い道のようになっていた。
彼女はそれが何かを知っており、驚きの表情を浮かべた。
後方から、道を伝って先ほどレストを襲った"衝撃波"が迫っていたのだ。
急いで回避行動に移るが既に遅かった。
「セバス、コアを──」
衝撃波は彼女の腕を切り裂き、ディヴァインをも切り裂く。直後、ディヴァインが爆発した。
「無駄ち……リリー!!」
レストは叫びながら立ち止まり、爆発音がし黒煙が立ち込める場所に目線を送る。
黒煙から片腕を失ったリリーシャスが落下する光景が映る。
『大丈夫、多分、死んで、ない!』
「あんの馬鹿、司令塔が真っ先に落ちてどうすんのよ!」
悪態をつきながら、大剣を再び地面に突き刺し盾のように構える。すると、何かが剣に接触し強い衝撃が身体に伝わる。
「此処は私が支えるからシャローネはリリーを!」
『……分かった』
彼女の周囲を複数の魔矢が旋回し始める。
「此方に回せる残弾ね」
そのまま防御姿勢のまま2発目に備えるが、来る様子は無く不気味な静けさがレストを襲った。
殺気はするのに、寒気がするのにそれでいて静か。彼女の頬を冷や汗が伝う。
「追撃して来ないってどういう……ッ!」
気配を感じ取り、剣を引き抜き半回転しながら薙ぐが空を切るだけだった。
辺りを見渡し、苦笑いを浮かべ独りでに口が動く。
「あぁ、怖いなぁ」
大剣を逆手に持ち替えると、炎が広がり盾のような形を取る。
そして、殺気が特に強い方向に盾を向けると、盾を撫でるような斬撃によって出来上がった1筋の線から火花が飛び散りる。
すると額から血を流し、至る所が焦げ、ボロボロになっているアリスの姿が一瞬見え姿を消す。
「思ったより、ダメージは……」
体を捻りながら盾を動かし、次の攻撃を受ける。今度は2つの斬撃がさきほどとほぼ"同じ"箇所に命中し火花が飛び散る。
彼女は高速で移動せず、後ろに飛びながらもう1発、地を這う衝撃波とは違う衝撃波が直撃する。すると、大剣に1本の小さなヒビが入った。更に一服置いてもう1撃飛来するが、複数の魔矢が盾となり難を逃れる。
防御にまわしていた魔力を消し盾となっていた剣を元に戻すと、順手に持ち替え体勢を整え直した。
──防衛に回って時間稼ぎしようとしても攻撃を重ねて、バルムンクが破壊される。からといって攻撃に転じてもすぐに倒される。
体を傾け後ろに倒れるように跳ぶと、先ほど立っていた場所に攻撃が飛来し地面に直撃、砂煙が発生する。
レストは攻撃が見えているわけではなかった。ただ、"勘"を頼りに防衛し回避していた。
体勢を整え直そうとするが、再び衝撃波が接近し、咄嗟に剣でかばう。衝撃が身体を伝わり、ヒビが更に入る。
明確な反撃手段も少ない。
一瞬で距離を詰められ、更にもう一撃ヒビに入っている箇所に攻撃が入る。
遂にはバルムンクの剣身が攻撃に耐え切れず、折られた。
だが、レストは剣を、神装武具を破壊されたにも関わらず不敵な笑いを浮かべていた。
「"寄った、わね?"」
そう言うと、いつの間にか左手に持っていた炎を纏っている片手剣を突き出す。
だが直後に左腕に衝撃が走り、弾き飛ばされてしまった。
「これも、これでも」
──ダメ。なの?
次の瞬間レストを数発の斬撃が襲った。
◇
ディードは最後の魔矢を叩き落とし、後ろに跳んでいく。
「予定変更って?」と水の文字が見え状況を簡潔に説明する。
まず、人差し指にはめている指輪を見せ、これが魔法通信機と言う代物だと言う。これは初撃を与えた後、距離を取る前にズボンのポケットに忍ばされていたと呆れ声で語られる。
そして、その魔法通信機を忍ばせた人物はディードの知り合いもとい以前の家族で彼を探していたと。
無論、此方の逃走に協力し以後も同行する話運びになっていた。魔法通信機はリザ之助にも渡すように言ってあると続けた後、ボコボコになっている顔を回復させながらギャスが口を開く。
「それふぇ、そふぇふぁよふぇいふぇんふぉふふぃふぁんふぁ?」
呂律も回っていない様で、何を言っているのか分からずよく聞き取れない。
「おい、ギャス。真面目な話してる時にふざけた顔して、分けの分からない事を言ってんじゃねぇ」
大きく跳び、太い木の枝に着地すると周囲を見渡しながら彼はそう行った。
「どっちがふざけてんのよ!!! 人を武器みたいに振り回した癖して!!!」
多少なりは回復し、ちゃんと喋るようになったが今度はキャラが完全に崩れていた。
「魔力がもうギリギリなんだよ、しょうが無いだろ。で、さっきは何を言いたかったんだ」
彼が防衛に行使している壁自体の魔力消費はそこまで大きくはない。だが、壁の耐久度自体はあまり高くなく、完全防ぐには何重にも発生させる必要がある。そのため結果的に非常に魔力消費が激しくなってしまっているのだ。
「いや、だからってちょっと酷くない? 一応、私さ……」
彼に聞こえないぐらいの声量でギャスは独り言を呟く。
「おい、早く。時間がない」
「はいはい、それで何か方針が変わったの? って言ったの」
木の根が凍り付き始めたのを確認し、ディードは他の木に移りながら口を開く。
「今回逃げるつもりだったが、向こうを撤退させるように仕向ける。まぁ、俺らは耐えてアリスが狩るってだけだがな」
別の木の枝に着地と同時に、下から魔矢が迫り来るが半透明の壁でそれを全て防ぐ。
「スラ、まだ余裕はあるか?」
そう問いかけると「まだまだ余裕だよ」と書かれる。
「よし、じゃぁ防衛は任せる。氷女は無視でいい。ただ、凍結の妨害だけは頼むぞ」
「一旦、完全に浮かせて、油断させるんだね」と書かれた。
「流石。エルフは相変わらずなのが嫌らしいなー」
と彼がぼやくとスラは力強く頷いた。
「後、ギャス。語尾無くなって口調変わったままだぞ」
そう言うと同時に枝から跳び退ける。枝は何かに直後に切断される。
木の根本にはクロードが居り細身の剣を振り上げている姿があった。
体をひねり体勢を直しつつ、凍った地面に着地すると白い息を吐きながらクロードを睨む。
2人は何の合図もなしに同時に同じ方向に走りだした。
「邪魔」
と、呟きながらギャスを投げ捨て、ハルバートを両の手で構え直す。そして、走る方向を変え彼目掛けて走り始めた。
「おっと……」
クロードは立ち止まり、右肩を引き、左手を前に出して突くような構えを取る。そして左手で狙いを定め、剣先に魔力を纏わせる。
一歩前に踏み出し突き出すと、纏わせた魔力が射出され衝撃波が発生し一直線上を魔力で串刺しにする。だが、ディードは右に一度跳び避けると、着地と同時に得物を振り上げながら跳躍し間合いを一気に詰めた。
間合いに入りハルバートを振り下ろすが、体を傾けながら剣でいなされる。
その様子を息を切らしながら追いつこうと走っているミラは遠目で見ていた。攻撃、防衛、反撃、回避、攻撃。と繰り返し行われる2人の攻防を観察しどのタイミングで援護に入るか、思案していたのだ。
「どうしよぉ、凍結は相殺されちゃうし……」
彼女が得意としているのは自信の魔力を神装武具である氷槍獄装‐ヴァジュランダを母体にし、対象の凍結だった。
この手段以外の攻撃方法は、もっぱらランスであるヴァジュランダを使用しての突撃ぐらいしか知らないし出来ない。そもそも戦闘経験が浅く、ランスを平気で振るう始末である。
今回の場合、無闇に突撃してしまうと逆に邪魔になってしまったり、相手の攻撃の機転となりえる可能性があると経験が浅いながらも答えを出していた。自身が相手の眼中に"ない"事も。
ディードが空中に発生させた壁を足場にし跳び、クロードの攻撃を避け後ろを取る光景が映る。
「クロードおにちゃ……!」
彼はそれを察知し攻撃を間一髪避けると、距離を取る様子を見てミラは安堵のため息をつく。
──いやいや、こんな事をしてる場合じゃないです!
ダメ元でランスを地面に突き刺し、魔法を発動させる。すると、地面が凍結し始め、凍結した箇所は1本の道のようにして2人が戦っている場所に向かっていく。
程なくして戦っている一面の地面が凍結するも、対象が凍結する様子もなく何事もなかったかのように戦闘は続いていた。
「やっぱり、でも!」
別の手段を考え始めた矢先の事だった。何かが飛来し、彼女の肩に突き刺さる。
「きゃ──!」
倒れこみ、肩に何が刺さったのか確認すると歪な形の矢が突き刺さっていた。
痛みで涙目になりながらも、矢を抜きヴァジュランダを引き抜くとその場を移動する。
「ふ、伏兵が居るなんて聞いていないですぅ!」
ディードは横目で走って逃げていくミラを見て通信を飛ばす。
「よし、リザ助。後は手筈通りに」
『分かりました』
突かれた剣を弾きながら、後退し距離を取ると深呼吸をして話しかける。
「さて、ハーレム君。どうするよ」
先ほど、「片付けた」とアリスから通信が入り、予め遠目の場所で伏兵として配置しておいたリザ之助は、いい感じに牽制としての役割を終え合流場所の安全確認に向かってもらっている。
博打要素の1つとしてリザ之助との連携もあったが、アリスのおかげでその心配も無くなったのは大きかった。そして、この状況はクロード達から見ればこの場所にディードとスラ、アリスが向かってきているのに加えて数も戦力も不明な伏兵が存在する状況になっていた。
「……そうだね。これ以上は流石にまずいから引かせてもらうよ」
彼は、そう言い残すと離れていった。
姿が見えなくなり、ハルバードを消すとディードはその場に座り込み「辛かったー」と呟き戦闘中の事を考え始める。手筈通り防衛はスラに任せてディードは攻撃に専念していた。まともな攻撃魔法が使えないとはいえ、クロードに傷1つ付けられていない現実に頭を抱えた。
「くっそ、どうあがいても倒せる気せんぞ」
◇
奇襲を警戒し、木が盾になるようにしながら走り抜ける。
『ごめん、そっちほとんど援護出来なかった』
シャローネから通信が飛んで来て「仕方ないよ」と返しながらミラを拾う。
傷口を見る限り毒の類は塗られている様子はなく、傷も浅い。
ただ、相当痛かったのか、奇襲にびっくりしたのか、クロードに抱きつき泣きじゃくる彼女を見て苦笑いを浮かべながら頭を撫でてやる。
「さて、アリスさんの対処また考えないとね」
◇
『……さん……トさん』
「……んっ」
通信機の呼ぶ声で目を覚ましたレストは空をみあげていた。
──全身が痛い。激痛がする。動ける気がしないんだけど。呼吸するだけでも痛いんだけどナニコレ。
彼女が分かる範囲だけで、左腕、右足、肋骨が数本折られていた。認知出来ないだけで恐らくもっと折れているだろう。
最後の攻撃が防がれた時点で彼女は死を覚悟していた。あんな至近距離で格上の相手。しかも接近戦が本職の人間だったからだ。
でも生きていた。運が良かったとかではないだろう。彼女は生かされたのだ。
「くそっ」
右手で地面を叩く。
情けなのか。利用価値があったからなのか。負い目からか。生かされた理由は定かではない。
でも完敗した。レストは最初にシャローネと一緒に、間合いに入れば炎を纏った竜巻を発生させる罠を張っていたが、看破され即座に中、遠距離戦に切り替えられた。だが、その中、遠距離も仕留め切れずじまい。リリーシャスが落ちてからはあまりに一方的で、力量差が思い知らされた。
自然と彼女の瞳から涙が溢れ出る。
『レストさん、生きてたら返事をしてくださいまし!』
リリーシャスの声が聞こえ、涙を右手で拭いながら魔力を通わせ、魔通信機のスイッチを入れる。
「はいはい、生きてるって」
『はぁ、良かったですわ。皆無事ですわね』
通信機の向こうから安堵のため息が聞こえる。
「あいつは?」
『ごめん、逃がした』
クロードが暗い声で答えた。
「分かった。まぁ、今回は運がなかったわね」
『運が、悪かった。ってより、向こうの、手のひらの、上で、踊ってた。感じ?』
『大体そんな感じですわね~。対アリスさん用の3人砲撃で落とせてれば良かったのでしょうけど、そう簡単にはいきませんでしたし、新たな対策が必要ですわね』
『あう~……。すみません役立たずでぇ……』
鼻声のミラの声が聞こえてくる。どうやら泣いた後らしい。
「平気、平気。それよりアリスに、1位にボコられてない?」
『あ、はいー。遭遇してないです~。矢が肩に刺さったくらいです~』
『ん、応急処置、は?』
『してますぅ~』
「なら、いい」
レストの頭の真上に樹の枝からシャローネが降りてきて着地する。
「……レスト。酷いね。動けない、でしょ」
「うん。まぁ、戻ったらフランカに回復魔法かけて貰うしそれまでの辛抱だね」
「そっか」と言いながら肩を貸しレストの身体を起こす。
「あいだだだだだ!!!」
『あ、レストさん私の回復もお願いしてもらえませんこと? 流石に隻腕で回復待ちだなんて嫌ですし』
痛みで顔を苦痛で歪ませながら「へいへい」と空返事をする。
回復魔法には2種類ある。一般的に回復魔法と呼ばれる物は回復出来ない例外も存在するが、腕を失おうが足を失おうが、死ななければ大抵の傷を回復出来る。が、扱える者は非常に少ない。
もう1つは応急処置、自己回復魔法と呼ばれる代物。同じ種類の魔法ではあるのだが、此方は自身の傷のみしか回復出来ない。しかも回復出来るのは、小さい切り傷や出血を止めたり、塞いだりする程度である。
そのため学園では、生徒とは別に正規で雇っている回復魔法を扱える者が、1日の人数制限をかけ回復魔法を施している。ほぼ毎日と言っていいほど回復が必要な生徒が運び込まれるため、回復待ちの生徒で溢れかえっている事が多い。
なお、生徒で扱える者は無論含まれていないため、急ぎで回復する場合は自身の伝を使って頼み込む事になる。
『で、無駄乳。あんた、コアは平気なの?』
レストに問いかけに、直径20cmほどの半透明の球体に複数のビー玉ぐらいの大きさの球体が入ったコアと呼ばれる代物を見ながらリリーシャスが答える。
「ちゃんと壊れる前に排出しておきましたから平気ですわ」
神装武具にはコアと呼ばれる箇所がある。通常のコアの大きさはビー玉ほどで、この部分を破壊しないかぎり、神装武具は皮となる武器部分を作り直し埋め込めば完全に復活する。逆にコアを破壊されると"全く同じ"神装武具は復元する事ができなくなる。
例外の1つとして、量産型のドラウプニルはコアが非常に小さい。
そして、リリーシャスが扱う特殊魔砲-デヴァインのコアもまた通常の神装武具とは異なり複数のコアを無理矢理連結し1つのコアとして形を成していた。
「ただまぁ……ブラックスミスの主任に怒られそうですけど」
そういうと彼女は肩を落とし項垂れた。
◇
走る事30分。ふと上を向くと木々の隙間から1本の細い煙が見え初め、更に1分ほど走ると予め決めていた集合地点の河原が見えて来た。
そこでは火を焚き、鍋で何かを煮込んでいるリザ之助の姿があった。
恐らく今日のお昼を作っているのだろう。
「あ、ディードさん。お疲れ様です」
「朝からお互い大変だったな。アリスは?」
辺りを見渡し、姿が見えない彼女を探しながらリザ之助の元に歩いて行く。
「安全確認のついでに果物でも取ってくると言ってましたよ」
そう言われ、適当に返事をし鍋の前まで歩いて来るとしゃがみ中見を見つめる。
「……味見します?」
「する」
即答すると、2枚の小皿にスープを取り分けて貰い渡される。
「頂きます」
スラが肩から降り、2人は同時にスープを飲む。
「お、うまい」
スラも頷き、リザ之助は照れる。
「ずっと料理作ってましたからね。アリスさんが戻って来たらお昼にしましょう」
そして、待つこと10分ほど経った時、アリスが向こう岸の森の中から現れ右手にはかばんのようなポーチのような物を持っていた。
「あ、兄さん久しぶり」
彼女は剣を収めている入れ物を持つ左腕を挙げ、振りながら走ってくる。
「おう、アリス久しぶり……って強くなりすぎだろ。お前」
河を飛び越え、着地するとゆっくり歩いて来る。
「そりゃぁ、修行したし」
そう言いながら、かばんのようなポーチのような物を下ろし広げると、それは1枚の布であり中にはリンゴやジュカの実等の果物が入っていた。
「個人的には、あのおっさんの所でゆっくり暮らして欲しかったんだがなぁ」
ディードはジュカの実を1つ取ると、ナイフを作り出し真っ二つに斬った。片方をスラの前に置き、もう片方を齧る。
「追ってきたんだから仕方ない。諦めて」
「えっと、お二人はどういったご関係で?」
リザ之助はそう問いかけながらスープをよそって行き、ディードは簡潔に説明を始める。
アリスとは昔、拾って2年間ほど一緒にとある村で暮らしていた。だが、その村は盗賊の手に掛かって崩壊。その時、滞在していたとある剣術の師範にアリスの事を任せてディードは旅にでた。といった内容だ。
「んで俺の母親はその盗賊の襲撃時に死んでる」
「あー言ってた義理の妹ちゃんだねー」とスラが水で文字を書き「そうだ」と彼は返した。
「へぇ……普通ならそういった状況ですと、捨てられた。とか思いそうですけど」
「魔族って割りと嫌われてるからそのせいだと思ってたよ。中立地帯だろうと嫌ってる人はいるし、面倒事が格段に多くなるからね。だから捨てられた。ってより私の身を案じてって考えてた。ほら、師匠に話つけてたしさ」
「で、どうなの? お兄ちゃん?」と文字を書き、ニヤニヤしながらスラがディードを見上げる。
一服置き、意を決したように口を開く。
「大体、合ってる」
そういうとジュカの実の残りを口に放り込み顔をそむける。
「なら良かった。で、兄さん。そのスライムは? リザさんの事は話ある程度聞いてるけど」
彼女に座りながら問いかけられ、スラの説明を始めるが「そうじゃない」と言われ、聞きたいのは関係性の方だと訂正が入る。
「関係性ねぇ。家族」
「私も一応義理の妹になるのかな?」と書かれ「どうだろう」とディードは返す。
「むゅ~?」
スラは鳴きながら膨れる。恐らく「えぇ~?」と言いたいのだろう。
すると、急にアリスが立ち上がり戦闘体勢に入り3人は彼女を見上げた。
「どうかしたか?」
「何か来る」
そう言われ、彼女が見ている先を見ると、1匹の小悪魔がふらふらと森の中から飛んできた。
「……あ」
ディードは完全に忘れていた。
戦闘中、邪魔になり投げ捨てて来たとある小悪魔のことを。
「投げ捨てておいて更に放置って、酷すぎじゃないのぉぉおおおお!?」
ギャスは吠えるように叫び、面食らったアリスがこう問いかける。
「あ、もしかして知り合い?」
「まぁ、一応」
と、苦笑いを浮かべながらディードが答えた。
初登場神装武具(神器)
○光霊魔装-ティルフィング:近接型
○真打・蔭刻宗近(凛心魔装-リディル):近接型