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魔王の子孫  作者: 猫缶珈琲
1部
3/15

2章1節

 宿屋の裏手の路地。そこには2人の女性が居た。

 彼女ら以外の人影はなく、魔力街路灯もなく辺りは非常に暗かった。


「では、言われてた物です」


 ローブを来た女性がそう言いながらもう片方の女性に手のひらほどの1つの箱を渡す。

 その箱を開くと、複数の指輪が入っていた。


「ありがとう。5位さん。ルートは?」


「……いい加減、名前ぐらい覚えてくださいよ」


「リアナとかクーとかリーチャと、一応ノエミは覚えているけど」


 と、彼女はきょとんとした顔でそう返す。


「いやいやいや、そういう事じゃなくてですね・・・・・・。はぁ、たまになんかちょっとズレてるのは分かってましたけれど、もういいです。話を戻しましょう。此処からですと、そのまま中立地帯を抜けて、一度マーレント領に入りまして次に魔物領に戻りこの砦に向かってください。なんで中立地帯を通るかはコレに目を通してください」


 地図を開き、発光石で目的地を照らすと1つの手紙を置きアリスはそれを受け取る。


 魔物からは人間領と呼ばれる人間側の領地は大きく分けて3つの国が存在している。

 まず魔物領と接しているマーレント。この国の魔物領との国境沿いは中立地帯化が進んでいる街が多く点在している。更に中立地帯では傭兵業が盛んであり3国で一番傭兵を抱えている国でもある。


 次に此方も魔物領と接しているカレアント。此方は中立地帯化している箇所が少なく、戦時では最前線となる戦場が多く一番3国の中で疲弊している。ハプスブルグ校が存在するのもカレアントである。失った兵士の代わりに実地研修と言う形で以前兵士がやっていた任務を行っている。魔物の排除及び山賊等の排除、他にも捜し物等の簡単な任務も存在する。これにより不足している兵士を補いつつ、実戦経験の積み上げを行っている。無論、成功すれば少なからず報酬も出されるが、傭兵が請け負う仕事と比べると半分の額にも満たない。


 そして、魔物領とは一切接していないスレバニア。3国の中では一番大きく、権力も高い。しかし反面軍事力は1歩劣っているという状況だ。


 魔物領には国と呼べる物はなく、基本的に中立地帯を除き魔王率いる魔物軍が治めているとされているが実情は違う。確かに魔物軍が治めている場所が多いが、賛同、参加していない種族が多数存在し、各々動いている。種族間での戦闘も珍しくなく、意味もなく暴れる連中も多い。そのため魔物領は非常に危険な場所が多く存在し、今日は安全でも明日は危険地帯なんどと言う自体も少なくない。そのため、安息を求める者は中立地帯もしくは魔物軍が治める街に多く集まってくるのだ。どちらも必ず安全とは言い難いものの生存率は大きく変わってくる。


「魔物の砦に……?」


 疑問をそのまま口にする。


「はい。先輩がそう伝えよ。と、言っておりましたので。ですので、あたしが知った事ではない事柄ですのであしからず。文句は全て先輩にどうぞ」


 言い終わると、彼女はフードを深く被った。


「では、アリスさん。ご武運を」


 彼女は1礼し、闇の中に消えていく。


「先輩に、か」


 先ほどの女性は学園内高等部ランキング5位で生徒会に所属する人だ。彼女が先輩と指す人物は基本的に生徒会所属であるフィリングもしくは8位に対して。今回の場合は前者だろう。


 そして、そのフィリングはアリスの目的を知っていて勧誘し、尚且つ援助までしている。何がしたいのかよく分からないが彼女的には好都合だった。問題があるとしたら今回、もし最初に目標と接触した場合は「裏切らず、バレないように助勢すること」と言われた点だ。そして、意図的に以前から頼んでおいたものもこうしてタイミングをズラされて渡された。


 何かある。と見て間違いはないだろう。だが、それが吉と出るか凶と出るかはまだわからない。

 アリスは宿に向かって歩を進ませ始める。


──どちらにしても、現状としては協力関係なのは確実。変に手は出してこないでしょ。それに……。


 そうアリスは考えながら宿の裏口の前まで来るとドアノブを回そうとする。すると、ソレは触る前に回りドアがゆっくりと開く。


「あれ、アリスさん」


 ドアを開けたのはクロード・スカイ。今回の実地研修を束ねている男だった。


「あんた、か。あ、コレ、細工がされてないか見てくれない?」


 そう言い、箱を彼に見せる。


「いいけど、中身は?」


「量産型のドラウプニル」 


「ああ、魔通信機だね」


 そう言って彼は箱を取ると目を瞑る。すると箱に魔法陣が浮かび上がり、数秒後消え去った。


「特に何も無かったけど、これどうするの?」


 彼は目を開け、箱を返す。


「あー……ちょっとね。確認してくれてありがとう」


 宿の中に入り、部屋に向かって歩き始めると彼の声が後ろから聞こえてくる。


「何か、するつもりかい?」


 と。彼女は、一度立ち止まり「さてね」と返して再び歩き始める。

 クロードは遠のくアリスの後ろ姿を見つめていた。


「……リリーに一応言っておかないと、かな」


 そう呟き、ドアを閉めた。



 翌朝。ディードが起きると、小鳥の囀りに混ざり1つのすすり泣くような声が聞こえて来た。

 彼は警戒しつつ外に出ると、傷だらけのリザ之介がうずくまって1人で泣いているのを発見した。


 周囲を見渡すも、ゴブリンとオークの姿は確認出来ない。彼の状況と合わせて、2体がどうなったかをなんとなくではあるが察する。

 しかしこういう時、どういう言葉をかけるべきか言葉が見つからなかった。

 中に入るように促し、一応何があったか話を聞いた。


 戻って来れたのは20分ほど前、街で起きた事は彼の予想と大体一致していた。問題となるのがあの2体が何をしでかしたのか。という点である。

 流石に彼女らが無差別に攻撃する。なんてマネはしないだろう。そんな事をしてしまえば街から追い出されるか最悪自らの死を招く羽目になる。


 この間、ギャスも起きリザ之助の傷を回復魔法を使用し治癒していた。

 彼は思い出したかのように早く此処から逃げるように促すが、ディードは落ち着くように言い渡す。


「今更焦っても仕方ない。逃げるにしても、今回の場合遅かれ早かれ捕捉される。それなら準備してからのがいい。スラ何か案あるか?」


 そう言って目線を落とす。すると、スラは彼の服の首元から顔を出し、考える素振りを見せ水で文字を描いていく。それを読み取りディードは口を開いていく。


「……ふむ、でもそれだと魔力的にきつくないか? ……いや、それはだめだ。向こうの索敵能力は高い……待てそれならバラした方がよくないか? 1人でも相手してもらえれば此方が楽になる。……確かにそうだな。やはり戦力的にも魔力的にも"此処にいる連中だけ"じゃ辛いか」


「ちょっと待つギャ! 何話してるギャ!?」


「はぁ? ……お前らもしかして字読めないのか!?」


「読めてればこんな事言ってないギャ!」


 ディードはため息を付きながら話していた内容を説明する。

 まず出された案は逆に此方から攻め、向こうの誰か1人を戦闘不能に持ち込んだ後に逃走すると言うもの。だが、これはディードとスラの魔力がまだ半分ほどしか回復していない事を考慮すると辛い。ならば罠を張るという案が出たがこれまでの経験から索敵能力の高さは伺えるため却下。ならば逆の発想で罠はバレるの前提で囮とし、警戒させつつ動きを鈍らせるという意見が出たがそうなってくるとバラして戦力を裂かせてどちらかで撃破を狙った方がいいと意見を出すも、戦力的には此方のほうが不利な点は変わらず、逆にただ分散させるだけなら此方が各個撃破される可能性があると反論されてしまった。という流れだ。


「あんのハーレム野郎がいなけりゃそう難しい話じゃないんだが、あいつが鬼門でな・・・・・・」


「じゃぁ、罠張りながら逃げるってのはダメなのかギャ?」


「あくまでその場で戦って警戒させて動き鈍らせるのが目的だからな。逃げるんならそのまま逃げちまったほうがいい。それに仕掛けるにしても、中途半端に仕掛けると此方が疲弊するだけだしな」


「なるほどだギャァ……。そういや魔王様。この話をしてて思い出したんだギャけど刀もった人が「やっと追いついたよ」って伝えてって言われてたギャ」


 直後ディードは「馬鹿野郎早く言え」と声を荒げて言い返す。

 すると、スラが「むゅっ」と鳴き彼が目線を落とすと水の文字で「いっその事、突撃しちゃう?」とらしくもない事が書かれており、苦笑いを浮かべる。


「と、突撃って何か案があるんだギャ?」


 と、ギャスが恐る恐る言った。


「え、おまっ──」


 スラはディードの反応を切るように水の文字を書き始める。

 そこには、「特にないよ」と書かれており、本人は笑顔だった。だが、「けど」と水の文字が続く。「向こうは、プッチちゃんとリザくんが私達と仲間とは思ってないはず。そして、あまり考慮はしてなかったけど魔物軍もいるし多分向こうって2人のこと知ってるよね? 最後にプッチちゃんの話で力関係は多少なりは変化する」と書かれ、ディードがそれを声に出して読んでいた。


「あ……ぶつける気ギャ?」


 スラは満面の笑みを浮かべ、「大正解。よく出来ました」と書いた。



 作戦と呼べる代物かは正直怪しい所だが概要はこうだ。

 スラの予想だと、昨日の部隊といい今回魔物軍はまともな人材をほとんど送ってきてないと見ている。そして、昨日の部隊長であるゴブリンが引き続き指揮を取るとしたら、無闇に突撃させるようなヘマはしないはず。まず、部隊を分け、本隊と6人組の監視部隊の2つに。狼煙や通信等で連絡を取りその都度行動を選ぶだろうと。

 この仮定から多少の差異はあれど、大雑把に考えられる状況としての可能性は5つある


 1:此方と6人組が接敵しそれに魔物軍混ざり三つ巴

 2:1の状況から6人組が此方より優先的に魔物軍を狙った場合

 3:1の状況から6人組が両方を狙い部隊を裂く場合

 4:魔物軍は漁夫の利を狙っての潜伏

 5:6人組と先に魔物軍が接敵してしまい魔物軍がすぐに全滅してしまった場合


 そして、此方の状況として一番好ましいのは3。時点で1となる。逆に好ましくない状況は5。2と4は確実ではないが3もしくは1と似た状況に持っていける。

 この場合取るべき行動は5にならないようにする事。そして"奴らと戦闘"している事。


「よぉ……昨日ぶりだな」


 街の外に集合している6人組の目の前に、見計らったようなタイミングでハルバートを携えたディードが現れた。


 奴らが来るルート予測は簡単だった。この街の"正規"の出入り口は北と南の2つ。そして、向こうはこれまでのディードとスラの"極力人間側の領土に向かおうとしない"行動から「人間側の領土に向かうのは嫌がる」と考える。南は人間側の領土に通じる道、北は魔物側の領土に通じる道。つまり北に向かって出てくる。


──"博打"は此処からだ。


「あら、諦めたと見てよろしくて?」


 金髪のいかにもお嬢様といった出で立ちの女性が浮き上がり、どんどん上昇し飛び始める。


「いいや、逆だ。俺は別に──」


 聞く耳を持たないとの意思表示か銀髪のエルフの女性が話の途中でも問答無用で魔矢を放っていく。放たれた魔矢は分裂し、包囲するような軌道を描きながらディードの元に殺到した。

 それを皮切りに大剣と大槍を持った女性がそれぞれ左右から走って迫ってくる。


 後ろに下がりながら複数の半透明の壁を周囲に出現させ、魔矢を受けていく。奴は砂埃を嫌ってか、魔矢を爆散させず、難なく全て受けきることが出来た。


 直後、後方から気配を感じ、後ろを振り向こうと上半身をひねる。

 そこには長髪の女性が姿勢を低く、右肩を前に出し左手で剣の入れ物を、右手で持ち手の部分を持っていた。

 ディードはそれが何のための構えかわからない。だが、攻撃体勢だと言う事だけは理解出来ていた。


「壱之閃-」


 女性は独り言のように口を開き、彼は壁を攻撃が来ると思われる方向に複数枚発生させる。


「居合」


 と発せられた瞬間、発生させた壁全てが砕かれ破片が飛び散る。

 しかし、奴の姿勢は全くと言って変わっておらず、剣は"抜かれてはいない"。


「まじ、か……」


 咄嗟にハルバートを振るうが、一瞬にして姿を見失いソレは空を切った。


「よっ!!」


 よろめきながらも、奴らに背を向けながら走り出す。すると、ズボンのポケットに違和感を覚えた。

 空中に陣取っている奴からの砲撃、エルフが放つ魔矢を魔力を"惜しみなく"使い壁を発生させ続け、全て確実に防いでいき森の中へと戻っていく。


「わたくしはこのままいつも通り空中から支援、索敵。レストさん、ミラさんはと連携して突っ込んでくださいまし。アリスさんとシャローネさんは御2方の援護を。クロードさんは臨機応変にお願い致しますわ。それと動きが何やら妙ですわ。いつも一緒にいるスライムも見受けられませんし十分に注意を」


 それぞれ了解と返事が来るとそれぞれ森の中に侵入していく。


「さて」


 リリーシャスは一度周囲を見渡す。だが、見受けられる範囲には特に異常は無かった。

 デヴァインに内蔵されている魔力探知を起動するも此方も特に異常なし。

 彼女は森を見下ろし、戦闘形跡がある箇所を見つめる。昨晩、クロードの言っていた「アリスさん、もしかしたら裏切るかも」という言葉も気になっているのだ。


 リリーシャスから見て先ほどの攻撃は、明らかに攻撃までに時間が空きすぎていた。

 そうじゃなくとも、あの戦闘スタイル、あの剣技の流派であの場面引くのはおかしい。と感じていた。


──問題は他に気がついていそうなのがシャローネさんぐらいって事ですわね。



「行ったギャね」


 街の民家の影からギャスと背中に乗るスラが姿を現す。

 「じゃぁ、予定通りに煽っていこうか」と水で文字が書かれる。


 この作戦、本来は囮役はスラとギャスがするはずだった。だがディードが断り、自ら囮役をかってでた。

 理由はいくつかあるが、恐らく耐え切れないというものが一番大きい。

 実はスラ達より耐えられる時間、可能性は高いものの魔力が回復しきっていないディードも確実とは言い切れなかった。これが博打部分の1つ。


 2つ目はうまく誘導出来るか否か。

 ゴブリン、オーク、コボルト、ガーゴイルで編成された装備が整った1団が現れる。

 しかし、昨日のゴブリンの隊長らしき魔物は見受けられなかった。


 「プッチちゃん」と水の文字が書かれ続いてこう書かれた。

 「分かりやすい嘘ついてたり猫被ってたり何か企んでそうなのどうのこうの言わないけど、あの人騙して裏切ったら容赦しないからね」と。


「な、何書いてる・・・・・・ギャ。良くわからないわよ。それより、早く行くわよ! ・・・・・・ギャ!」


 ギャスは飛び出し、兵士の1体の頭を蹴る。それに合わせスラは何体かの魔物の顔に水を掛け、北の出入り口の方へ即座に移動し兵士の方に振り向き見下すような目で見る。

 そして、ダメ押しのように「臭いから水浴びしてきたらどうですかー? あぁ、臭すぎて、汚すぎて水汚染しちゃうますねー。ごめんなさい」と水の文字で書かれた。

 突然の自体で兵士達はきょとんとしていた。がちょっかいを掛けられた者、文字が読める者の顔が次第に赤くなっていく。


「ちょろいギャ。スラちゃん落ちないようにお願いギャ」


 「ほーい」と小さく書かれ身を翻し逃げはじめる。


「追いかけろー!! ぶち殺せー!!!」


 と、怒った連中が追いかけ始める。


「ま、待て! 二日酔いの隊長の命令じゃ──」


 その様子を見た何体かが止めようとするが、頭に血が登った彼らは止まらなかった。



「でいっ!!」


 振り下ろされた大剣をハルバートで受け止め、傾け受け流す。

 彼は後ろに下がり距離を取りながら、ハルバートを引き即座に突くが突如現れた炎の壁に遮られた。

 それを合図のようにして空から砲撃が放たれ壁が大量に割れ破壊された。続けざまに砲撃が来た箇所に向けて魔矢が殺到し残りの壁を剥がしていく。


「まずっ」


 何時の間にか回りこんでいた大剣の女が振りかぶり、空が一瞬光る。

 次の瞬間、砲撃と斬撃が同時にディードを襲った。

 急いで発生させた壁で砲撃を、ハルバードで剣を受け止めるが、頃合いを見て女が彼を蹴って後ろに飛ぶ。咄嗟に正面に壁を作り、それとぶつかる。

 程なくして最後の壁が破壊され、彼の目の前に砲撃が着弾。爆風を発生させディードを吹き飛ばしながらクレーターを作り出した。


 吹き飛ばされた彼は転がり、木にぶつかって止まる。咳き込みながら立ち上がろうとするが、何かが接近して来ているのを感じ、急いで飛び退けた。

 すると、ランスの少女が突進し木に接触する。と周囲を凍結させ凍結した木を破壊し更に直進していた。


「あっぶねぇ……!」


 壁を生成しつつ着地すると同時に"微かに振動した"魔矢が飛来しそれぞれ爆散し、発生した砂煙により視界が奪われる。

 舌打ちをしながら急いで移動する。が、煙を抜けた先に目掛けて火の玉が殺到していた。

 それは壁を複数枚犠牲にし防ぎきれたが、すぐ後ろから追尾して来ていた魔矢に抜かれ腕や腹部を掠める。


『お、また攻撃通った!』


 レストの声が彼女らの頭に響く。


「今度は削りきれそうですわね」


 と、言いながらリリーシャスは引き金を引く。


『ふ、ふぇ~やっと止まったぁ』


 突進していたミラは間隙をついて凍結させとうとしたはいいものの、避けられ発動させた自信の能力でそのままつべって行っていたのだ。


『ミラ~早く戻って来てよー』


『分かってますぅ』


 ミラは方向を転換し再び走り始める。


『カバーは、任せて』


 魔矢が放たれ、再びディードを襲い壁で弾かれるが、攻撃され手薄になった所をレストが追撃、壁を次々と破壊していく。

 距離を取る素振りが見え、リリーシャスは威嚇射撃をし動きを制限する。


「後、すこ──」


 複数の魔力反応があり、振り返る。すると木々の隙間から魔物が接近してくるのが確認出来た。


「7時方向、魔物接近。数不明」


 彼女は魔物がいる方向に砲門を向ける。


『僕が行こうか?』


「いえ、レストさんと交代してくださいまし、後方はわたくしとレストさんで対応致しますわ。シャローネさんは両側のカバーを」


 3人から了解と返答が来て、引き金を引き群れに向かって砲撃を行う。

 先ほどからアリスの反応が消えていた。通信にも応答しない。彼女の中では、ほぼ裏切り確定と言う状態であった。ので、"事前に伝えていた通り"わざとクロードに攻撃参加してもらわず彼女の警戒をしてもらっていたが、そうも言ってられなくなっていた。


──先に狙われるとしたら、シャローネさんかわたくしか。クロードさんは放置して極力浮かせるはず。そしてシャローネさんは・・・・・・。


 魔力を抑えているのか、2つほぼ群れとは離れ、群れより早く目標に向かっている小さい魔力反応があった。


「ッ! ミラさん離れて!!」


『もらっ──ふぇ!?』


 ディードに迫っていたミラに向かって氷の槍が飛来する。が、クロードが横から彼女を押し倒し、抱きかかえるように転がっていく。氷の槍は地面に全て突き刺さった。


「スラ、ギャス!」


 彼は叫びながら手を伸ばし、スラは飛び移り二の腕に着地し肩に移動する。そして、伸ばした手はギャスのしっぽを掴んだ。


「……へ?」


 振り回し、飛来してきた魔矢を次々と叩き落としていく。

 その光景を見てクロードは「無茶苦茶だなぁ」と声を零し立ち上がる。


「ぁー……」


「ミラ、大丈夫?」


「あ、ひゃい!」


 倒れたままぼーっとしていた彼女は話しかけられ、裏声になった返事と共に飛び上がった。


「よし。じゃあ、ミラ。これまで通りに突撃すると、多分返り討ちにあう」


 優しい声でそう告げると、細身の剣を抜き続ける。


「だから、僕の援護、頼めるかい?」


「も、勿論です! クロードお兄ちゃん!」



「レストさん、ストップ」


 そう言うと同時に引き金を引き、レストの頭上に居たガーゴイルを撃ちぬく。


『無駄乳、残りは?』


 一度止まった彼女は一旦後退し、そう問いかける。


「増援は後半数って所ですわね。貧乳さん、嫌な予感とかはあります?」


『ん? 嫌な予感はしてるよ』


「わかりましたわ。ありがとうございます。っと、離れすぎてます。このまま一旦寄りますわよ」


 魔法を行使しようとしていた個体を撃ち抜き、後退しながら威嚇射撃をしていく。

 レストもリリーシャスの動きに合わせ更に後退していく。


『ねぇ、急いで対処しないの? 私らならこの程度すぐだしさ』


 あまりに慎重すぎる対応に疑問を持ったのか、彼女に問いかけられる。


「したいのは山々ですけど、向こうは突撃してきた割りには引き気味で戦ってますわ。もし前に出て対処をし、シャローネさんとの援護可能範囲から出てしまうとわたくし達が完全に孤立してしまいます。こうなってしまえば相手の思うつぼ。いつどうやって打ち合わせしたかは存じ上げませんが、中々に嫌な手を使いますわね」


『つまり、どゆこと?』


「貧乳なお馬鹿さんには分からない所で、駆け引きがあるって事ですわよ」


『あ、馬鹿って無駄乳。後で覚えときなさいよ!』


「さっきから無駄乳無駄乳五月蝿いからですわよ」


 だがリリーシャスは微かに違和感を覚えていた。

 後方から来た部隊が彼らの仲間だとしたら、このような手を使えるのなら逃げるのは容易なはず。


──わたくし達の迎撃が目的? だとしてもわざわざこんな構図にする必要はないですし……まさか。


『ん、アリス……!』


 通信機からレストの声がし、彼女の方に目線を落とすと木々の間から微かに女性の姿が確認出来た。


「シャローネさん」


 停止し、壁を張りながらディヴァインを構え直した。


『分かってる』


「あんた、手伝いもせず……!」


 立ち止まったレストは、アリスが居る方に一歩踏み出す。


「ごめんね。19位。此方にも事情があるのよ。噂、知っているでしょう?」


「噂……?」


 レストは頭を巡らせ、友達とのとある会話を思い出した。

 それは、1位であるアリス・カゲミヤの探し人の話だ。彼女の義理の兄と復讐相手の2人を探しているとうもの。

 話していた当時はどうせ噂だと話半分であったが、この状況でレストは確信した。本当なのだと。


「あー、探し人でも居たって分け?」


 彼女に向かって大剣を構え、剣に炎を纏わせていく。


「そう。だから、今回は敵になる」


「ふーん。にしちゃ悠長に話すのね」


「確かに話なぞせず、奇襲して誰か落とせば楽だろうね。けど、少しの間とはいえ同じ学び舎で学んだ仲だし。特に仲良く接していなくても・・・・・・はぁ、あれよ。情けという奴。それに一度、貴女と7位、そして2位との連携と真正面からお手合わせしてみたくてね。運良く、とはちょっと違うけどそういう状況にはなったし」


 彼女はゆっくりと右手で左手に持つ刀の柄を持つ。


「不服?」


 そういうと彼女の雰囲気が一変し、殺気が発せられる。


「っは、ちょうどいいわ。私もアンタ一度ぶちのめしたいって思ってた所なのよ。やるわよ、バルムンク!」


 今度はレストの周囲から炎が自然発生し草木を燃やし始める。そして、1つの小さな旋風が彼女の足元で発生していた。


「今更、後悔しても遅いからね!」


 通信で彼女らの話を聴き、奇襲の危険"は"去ったが、状況はあまり好ましくはなかった。

 リリーシャスからすれば、アリスはクロードに相手をしてもらうのが考えうる最善手であったからだ。だが、こうなってしまってはどうしようもない。移動しながら誘い出して相手を入れ替える。なんて事も許さない相手。


「クロードさん、ミラさん。此方はできうる限り"時間稼ぎ"を致しますわ。出来るなら時間稼ぎをしているうちに仕留めてくださいまし」


 攻めているはずなのに、逆に追い込まれている状況にリリーシャスは歯切りした。


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