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魔王の子孫  作者: 猫缶珈琲
1部
2/15

1章2節

「全く、酷い目にあったギャよ」


 ふくれっ面で3体の魔物が持ち帰ったリンゴを齧りながらギャスは悪態をつく。


「全くもって申し訳ない。気が付かないとはなはっはっは!」


 笑いながらそう言い、ディードから見ても反省の色は一切見えなかった。

 装備も持たず、外に出ていたのは今日の夕食であるきのみや果物等の山菜を採りに出ていたらしい。


 調理担当なのかリザードマンが手慣れた食材と調理器具を持って、外で調理を始める。

 その間に自己紹介を始めたのだが、ディードの事は知られていたため完結にスラの挨拶だけを済ませ、ギャスの連れの自己紹介を聞き始める。


「俺はオーケアドス・フィンクス・スタイ・バーン・クロス・ディン・アークバルド・クサライ!」


「え? なんだって?」


 彼は、オークの口から一度に覚えるには少々長い言葉が発せられ思わず聞き返していた。


「だから、俺はオーケアドス・フィンクス・スタイ・バーン・クロス・ディン・アークバルド・クサライ! これからよろしくでさ、旦那!」


 どうやら名前だったらしい。

 当分の間覚えられそうにないため、彼は適当に相槌だけを返しゴブリンの自己紹介を促す。


「拙者はゴブ左衛門と申す」


「おう、よろしくな」


 此方も聞き慣れないような名前だったので、ディードは適当に流しリザードマンの自己紹介を促した。

 話されたのは彼の名はリザ之助、調理担当兼盾役とのこと。


 オークとゴブリンは主に攻撃役。死んだらしい後1人が後衛で連携をしていたそうだ。そして、ギャスが回復魔法を扱え指示を出し、1つのチームとして少しの間だが行動を共にしてきたとのことだ。


 ディードとスラはギャスが回復魔法を扱えるという事柄を疑いつつも、更に話を聞く。

 夕飯後、敵の情報を集めるため近くにある街に繰り出し聞き込みをするそうだ。

 主に横槍を入れてきた勢力についてだという。

 あの戦闘時ディードが対応に手馴れているように見えた。とも言われ、少し悩んだ後彼は明かす事にした。


 あの横槍を入れてきた勢力に追われるようになったのはつい2カ月前から。最初は男1人と女1人の計2人だった。が、徐々に増えていき今では男1人に女5人の計6人にまで膨れ上がっている。

 人数"だけ"を見ればそう多くはないが、問題は別にあった。それは神器。人間側で言う神装武具の存在であった。


 それらは通常の武器と比べ"基本的に"性能が高く、物によっては特殊な能力を備えていたりするなど厄介な代物だ。

 奴らは全員その神器を装備している。無論、いくら武器"だけ"が強かろうが、使い手が弱ければ恐れる必要はない。

 そして、現状ディードとスラの2人では、防戦に徹しつつ撤退するので精一杯だった。まともに当たれば勝てる見込みはなく、そもそも男との1対1ですら勝てるか怪しい。そんな状態であった。

 こんな状況に嫌気を差し、ちょうど一ヶ月前に相手の攻撃に合わせ崖から落ち死んだ振りをして難を逃れた。成功した。と思っていたがそんなことはなかった。と言った内容であった。


「神器ギャねぇ・・・・・・」


 ギャスがリンゴの芯を食べながら神妙な顔でそう呟いた。


「ご飯が出来ましたよー」


 というリザードマンの声が聞こえ、鍋を持って小屋の中に入ってくる。

 ディードは毒を警戒するも、スラに「毒はない」と言う合図を貰い夕飯であるスープを頂く事にした。


 スープは店で出しているかのように美味しく、とても満足感がある出来栄えであった。

 その間、ゴブリンとオークはパンチラだのパンツの色だのに話の花を咲かせ、少々台無しだったのが残念だったが。

 食事が終わり程なくして3体の魔物は自身の装備を纏い街に向かっていった。

 会話内容からディードは不安を感じつつも、これからのどうするかを軽く相談し少しでも魔力を回復させるため、寝床に付くのであった。



 街に着いた一行はすぐに二手にわかれた。

 一方はゴブリンとオークが一緒に聞き込み、リザードマンは1体で聞き込み。

 此処は国境沿いであり尚且つ中立化してしまっている街である。そのため魔物も魔族も見慣れた者と言ったスタンスであり、特に魔物がうろついていると言った理由で怪しまれるという心配はなかった。


 リザードマンことリザ之助は酒場に行き、まず周辺の状況を聞いて回った。

 奢ったりして失った金銭は決して安くはなかったが、得られた情報はそれなりに、だった。


 まず、この周辺に展開していた魔物軍の約半数以上が消し飛んだ。恐らくディードを追っていた6人組の仕業だろうとリザ之助はすぐに結びつける。更に、逃げ帰ってきた魔物軍の1部隊の隊長が泥酔し漏らした話によれば、明日も部隊の補充を行い次第標的の捜索を再開するとの事だった。

 次にその6人組がこの街に滞在しているという事、彼女らはハプスブルグ校と呼ばれる選ばれたエリートが通う学び舎の生徒だという事。

 最後に彼女らもまた明日再び動き出すという事。


 勘定を済ませ、酒場を後にするとリザ之助は少し焦っていた。

 ディードの話と先ほどの話、本当に自分達の手でどうにかなるような相手なのか? と、いう不安からであった。


「とりあえず、お2人と合流して戻り、対策を練るもしくは今日のうちに出発するべきですかね……」


 2体を探すため、歩を進ませ始めた。



 一方、ゴブリンとオークの2体はとある宿の女湯に居た。

 厳密には、女湯を囲う塀の向こうだ。この街には中立地帯という事もあり良く立ち寄るため、老朽化で朽ち穴が開いている箇所を良く知っていた。

 つまり、覗きの常習犯であった。2体は聞き込みという方便を使い覗きに来ていたのだ。


「……ゴブ左衛門、見えるかい?」


 穴を覗き込みながらオークはそうゴブリンに問いかける。


「湯気が濃すぎてよく見えませんな。ですが、中に若い子がいるのは確実」


「若い声が聞こえてくるから、だな?」


「はい。ですから湯気が薄くなり見えるのが先か、彼女らが出て行くかの勝負になるでしょうな」



「ねぇ、湯気濃すぎない?」


 と、肩ほどの長さの赤髪の女性が呟くように問いかける。

 女湯の脱衣所から露天風呂に出てみれば柱のように立ち上る湯気を見ての感想であった。 


「あら、この程度気にしてるようですから、貴女の胸は何時までたっても貧相なのですわよ。レストさん?」


 レストと呼ばれた女性の問いかけを鼻で笑いながらロングヘアーで毛先が渦を巻いている金髪の女性が答える。


「……アンタ、さぁ。喧嘩売ってんなら買うんだけど? ねぇ、売ってるでしょ? 無駄乳」


 と、レストと呼ばれた女性は睨みつけながら言い放つ。

 彼女らの言い分通り、赤髪の娘は胸は小さく、金髪の娘は胸がすごく大きかった。


「此処の湯気は、覗き対策。って、聞いたよ」


 更に脱衣所から1人現れる。今度は銀色で長髪、耳は少し長く尖っているエルフの女性だった。


「覗きぃ?」


「うん。此処に、着いた時、ボクが、女将さんに、聞いたから」


 途切れ途切れでいてゆっくりと喋りながら風呂椅子に腰掛ける。


「と、言いますと、此処は覗きが多い。という話になりますわねぇ。ありがとうございますわ。シャローネさん」


 シャローネと呼ばれた女性は「うん」と言って体を洗い始める。


「そうねぇ。ま、精々気をつけないとね」


「レストさんは別に気をつけなくてもよろしくなくって? そんな貧相な胸誰も見ないでしょう?」


「あぁん?」


 2人は再び睨み合い、シャローネと呼ばれた女性はため息を付く。


「喧嘩は、ダメで────あっ」


 脱衣所から更に1人、小柄な水色の髪をした女の子が現れ、次の瞬間盛大にコケた。

 睨み合っていたレストと金髪の女性は呆気にとられ彼女に駆け寄る。


「ミラさん、大丈夫ですの?」

「ちょっと、ミラ、大丈夫!?」


 ほぼ同時に発せられる声に「実は、仲、いいよね」とシャローネは呟く。


「ミ、ミラは大丈夫ですぅ……」


 赤く腫れたおでこを手で抑えながら涙目のミラが起き上がる。


「さて……」


 シャローネが鏡の横にあるスイッチを押すとカコンっと何かが作動する音がし、彼女の上からお湯が落ちてきて、泡を流す。

 やっぱり、このシステム嫌いだな。と思いながら、犬のように首を振り軽く水を飛ばすと立ち上がって脱衣所の方に歩み始める。


「あれ? シャロ、もう出るの?」


「うん、ちょっと、ね」


 そう言うと、壁の方を睨みつけるように見つめた。



 2体は依然として食い入る様に覗き込んでいた。

 若い女性の話し声は聞こえる。微妙に湯煙の無効に影が、シルエットが見える。脱衣所に交代で入っていっては出て行く様子が見える。

 だが、一向に湯船に入る様子は見受けられない。


 怪しい。と思いつつもちらりと見えるかもしれないその裸体に、胸を踊らせながら覗き込んでいた。

 この判断が失敗だとも気が付かずに。

 数分経っても、飽きずに覗き混んでいると、急に1陣の風が吹き湯けむりがかき消され、女湯が鮮明に映る。

 服を着て武器を持ち、戦闘態勢が整っている4人の女の子の姿が。


「……まずい」


 本能で死を覚悟し咄嗟に振り返りながら走りだす。

 その光景を眺めながら金髪の女性は足元に魔法陣を展開する。


「それでは皆さん。街への被害は最小限に、できれば無傷でお願い致しますわ。金夜魔装かやまそう‐ドラウプニル。起動」


 起動、という言葉を発すると同時に足元の魔法陣が消え去る。


『皆さん、"魔法通信"の調子は良好かしら?』


 彼女達の頭の中で金髪の女性の声が響き、それぞれ、「問題なし」「うん」「大丈夫です」と返答が返ってくる。


 「了解いたしましたわ。それでは色気づいた魔物に粛清を……」



 リザ之助がゴブリンとオークを探し始めて十数分が経った。

 すぐに見つからないとは彼自身も思っていたが、そこまで大きくはない街、話が集まりそうな場所を探しても一向に見つからないとなると、サボっているのではないか。と思わず邪心してしまう。

 そんな時である。路地から2体の姿が見え、彼らの名前を呼ぶと急いで走ってきた。


「急いでどうかしたんですか?」


「追われてる! 逃げるぞ!」


 リザ之助は言われるまま、引かれるようにして2人と一緒に走り始める。

 その様子を民家の屋根の上から観察する1人の女性がいた。


「こちら、シャローネ。仲間と合流、3体が外に向かって、大通りを北進」


『此方としては好都合。そのまま観測をお願い致しますわ。レストさん。そのまま10時方向に、ミアさんはそのまま後ろから追ってくださいまし』


 シャローネは了解。と返事をし屋根伝いに奴らの追跡を再開する。


『は、はい~』


『ん、私本当にこのまま突き進んでいいの?』


『ええ、その先は兵士の宿舎に演習場そして外縁部。つまり、もうすぐ大体外ですわ。話は先ほど付けておきましたし誘導もさせて無理矢理接敵させますから、心置きなく走ってくださいまし』


『なら、よし』


 シャローネの方も外縁部が見えてきた。一度立ち止まり、弓を構え魔矢をつがえると何度か引いていく。

 放った魔矢を操作し、それは夜の空を円を描きながら飛び始めた。


「どうする? 分ける?」


 再び走り始め、指示を仰ぐ。


『いえ、一緒にレストさんの方に押し出してくださいまし。わたくしもそろそろ位置に付きますから』


 彼女はその通信を送った後に大きな塔に到着。特殊魔砲とくしゅまほう‐ディヴァインと呼ばれる大砲のような銃のような代物を構える。


『リ、リリーシャスお姉ちゃん、ミ、ミラはど、どうしましょう~?』


「そのまま走ってくださいまし」


 半透明の画面のような物が展開され望遠鏡のように遠くの風景や物を拡大し始める。

 奴らの姿を確認した直後、魔矢が奴らに襲いかかり予定通り西側に誘導される。

 それを確認すると、北に進まれぬよう奴らの北側に対して数発撃ち、少し時間を置いて1発ほど少々大きめの弾をレストと彼らの間に撃ち、砂煙を巻き上げさせながら奴らの足を無理矢理止めさせる。


「レストさん、よろしくってよ」


 大剣を構え、砂煙の中を走りぬけると敵を確認し、間合いに入るやいなや大剣をなぎ払う。

 だが、咄嗟に庇ったリザードマンの盾に阻まれ火花が飛び散る。

 彼女は舌打ちをしながら、大剣を即座に持ち替え、突かれた剣の軌道を変え避ける。


「逃げて!  実力差がありすぎる!」


 リザードマンはそう叫びながら盾を前にだし、レストに突進する。


「んなっ!?」


 彼女は体勢が崩れ、後ろに飛ばされた。だが、その口は笑っていたのだ。

 次の瞬間、彼は後方から冷気を感じ、急いで振り向くと仲間のオークが黒髪の少女の手によって氷漬けになっている光景が眼球に映る。


「やっと、追いつきましたぁ~」


 彼女は安堵のため息を付きながら、身の丈より大きいランスを薙ぎ氷の塊を破壊する。


「っく!」


 リザードマンとゴブリンはランスを持つ少女から離れるように、そして逃げるために走り始めた。


「なんてこった……なんて……!」


「警戒してください。遠距離の敵も────」


 上空から無数の魔矢が2体を襲う。

リザードマンは甲皮によりそれを弾いていた。だがゴブリンは体に無数の魔矢が突き刺さり、転げるようにして倒れた。

 立ち上がろうとする彼に追い打ちのようにして、炎の球体が飛来し直撃。彼の体を燃やし始めた。


「あ……!」


 一度立ち止まり助けようとしようとするも、もう手遅れだと言う事に気が付き再び走り始める。


『あいつ、思ったより、硬いよ』


「私も見た。見事に矢弾いてたよね。ってわけで無駄乳さん、出番よ」


 レストは戦闘体勢を解きながらそう伝える。


『任せて下さいまし』


 その言葉と同時に1本の魔力の線が走り、次の瞬間着弾し爆発した。

 爆風と共に砂煙に包まれ、彼女はむせ始める。


「ゲホッ、あんた、ゲホッ、手加減しなさいよ!」


『あら、確実に、と思っただけですけど? まぁ、ちょっとズレてしまいましたが』


「ゲホッ、ダメじゃないのよぉ!」


 レストは左手で口を塞ぎながら街の方に走っていく。そして、砂煙が薄くなって来た所で立ち止まり深呼吸をし息を整えた。

 そして、騒動を嗅ぎつけ見事に人集りが出来ており苦笑いする。


『じゃ、レスト、後処理、頼んだ』


『頼みましたわ~』


 そう言い残したシャローネとリリーシャスからの通信が切られる。


「あんたらねぇ!!!」


「だ、大丈夫です! ミラがついてますから!」


 大槍を抱えたミラがそう言い、肩をすくませる。


「大丈夫、気持ちだけ貰っとくから・・・・・・」



 リリーシャスは大きな塔から民家の屋根に降り、先ほど撃った方角を見つめる。


「何か、気になる?」


 シャローネの声がし、辺りを見渡すが彼女の姿は無かった。


「下、下」


 裏路地を見下ろすと彼女の姿を発見出来た。

 リリーシャスは屋根から飛び降り、一瞬浮いた後着地する。


「いえ、たいした事ではありませんわ」


 彼女に歩いて行きながらそう話す。


「そう。でも何か、あったら、言って」


「分かってますわよ。あっ! そうですわ、早速ですけれど、アリスさんの事どう思います?」


「いけ、好かない」


「そ、そうですの……。じゃなくて、今日のお昼の事ですわ」


「お昼? 何か、あった?」


 シャローネが問いかけると「そうですわ」と言い一服置くと続きを語る。


「おかしいと思いません? あのアリスさんが雑兵相手に"手こずった"なんて」

初登場神装武具(神器)

烈火偽装れっかぎそう-バルムンク:近接型

氷槍獄装ひょうそうごくそう-ヴァジュランダ:近接型

風魔偽装ふうまぎそう-トリスタン:中遠距離型

金夜魔装かやまそう-ドラウプニル:補助型


特殊武器

特殊魔砲とくしゅまほう-ディヴァイン:該当なし

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