1-8「花の祝福」
続きです。
息が苦しい。
汗が止まらない。
なんなんだこれは。
自分が自分ではないような感覚。
胃の中で何か別の物が這いずるような、そんな気味悪さ。
『‥‥貴様、まさか‥‥』
膝が力を失って、俺は地面に四肢をついた。
ぬかるんだ地面が水音を立て、服がそれを吸い上げる。
体が熱い。
一体なんだと言うのか。
俺はどうしてしまったのだ。
気づけば、先の化物は雰囲気を変えていた。
端的に言えば、怒りがなくなり、哀れなものを見る佇まいをしていた。
『‥‥"悪魔憑き"とはな。貴様も、稀有な糸を紡いだものよ。"花"を得に聖域に訪れ、そして"私"と相対し、最後は"悪魔"に身を滅ぼされるか。哀れ。実に哀れだ』
「‥‥あく、ま?」
『そうだ。その様子では貴様も感じたであろう。己の矛盾に。どの悪魔が憑いているのかは知らぬが、その苦痛は己が咎を悔やむ心を、彼奴等畜生どもが貪り食っているからよ。もう手遅れだ』
手遅れ、つまり、死ぬと言うことか。
先ほどまで高く弾んでいた心はもうない。
ただ、俺の中にいる悪魔の存在はもう確定的だった。
「どうしたら、助かる」
『うん?』
「俺はまだ、死にたく、ない」
掠れる声を振り絞り、言葉を結んだ。
奴は悪魔の存在を知っていた。
なんでもよかった。
ただ、目の前にある希望を掴みたかっただけだ。
『手遅れと言っただろう。それをなんとか出来るのは、"花"くらいのものだ。だが貴様は、悪魔に魅入られるほどの咎の持ち主。"花"を渡すわけにはいかぬ』