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1-6「花の祝福」
続きです。
洞窟を抜けると、広い空間に出た。
至る所で雫の落ちる音がする。
赤褐色の壁で囲まれ、見ると、それはまるで水の滴りのような模様をしていた。
手で触れると湿っていた。
俺は服の裾で手を拭き、先に進もうとした。
『誰か』
途端、声が響いた。
人の声を重ね合わせたような声が、壁に当たって反響し、頭を揺さぶる。
『何用か。
ここは神聖な場所である。
力も持たぬ人の子が近づける道理はない』
怒気を孕んだような声音だ。
この声の主にとって、ここは踏み荒らされたくない場所らしい。
俺は、やはりと思って、その声の主に尋ねた。
「ここに、マグニ・ローレンの宝が眠っているのか」
声の主は答えなかった。
ただ、あたりの温度が僅かに下がるのを感じた。
俺は続けて尋ねた。
「あなたが、そうなのか?」
『‥‥私は"花"ではない。
だが、あれをよく知っている。
人の子よ、汝はあれを欲するか』
俺は、間を空けずに答えた。
「欲しい」