1-2「花の祝福」
続きです。
英雄に憧れる少年のように。
それは、胸の奥を焦がす思いであった。
この街は比較的大きな街だ。
学校、などという教育機関は、そうそうあるものではない。まして、この学び舎は1学年約250名のクラスがA〜Fまでの記号で分けられている。
1クラスが40名にも及ぶのだ。
これは、小さな村であればその人口に達する時もある。
つまり、この学校はそれだけ生徒を集める魅力がある、ということである。
無理もない。
マグニ・ローレンが創った街は飢えることがない。
周囲を枯れた大地で囲まれたこの街は、不思議なことに、いつまで経ってもその土地を枯らすことはなかった。
それどころか、豊穣の神が降りたかのようだった。
どんな作物でも育ち、水は溢れ、人々の腹を満たしていった。
周囲からすれば、楽園同然だったのだろう。
商人は店を開き、農夫は畑を広げ、外からも多くの人がやってきた。
気づけば、人口およそ100万を優に越す大都市となっていた。
俺は、そんな街が誇らしかった。
だが同時に、退屈を感じていた。
人は、この街でしか生きられない。
一度外に出れば、そこは不毛の大地だ。
生きていくのであれば、ここから出ずに、一生を終える方が良い。
そうとはわかっているのに、俺の胸がチクリと痛んだ。
実のところ、本当の意味ではわかっていないのだろう。
だからこんなにも落ち着かない気持ちになるのだ。
ある日、よく見る旅商人の男から話を聞いた。
曰く『塩水で出来た湖がある』のだと。
曰く『天にも届きそうなほど高い木がある』のだと。
曰く『1年でいくつかの気候を回す国がある』のだと。
そのせいだ。
その話のせいで、俺はこの街にいることが我慢できなくなった。
"外"を渇望してしまった。
だから、成人と認められる齢18までの3年間を、こうして学ぶことで埋めているのだ。
成人した途端、俺の心のタガは外れるだろう。
そして、ついに念願を叶えるのだ。
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