2-2「出立」
続きです。
またエルマのお節介を聞く羽目になり、俺は苦笑した。
だが、前までと違い、不思議とそれがしあわせなことだと感じていた。
「エルマ、あのさ」
「なに?」
「俺、旅に出ようと思うんだ」
「‥‥どれくらい?」
「わからない。たぶん、気がすむまで戻らないと思う」
「‥‥そう」
エルマは珍しく、食い下がってこなかった。
ただ、少し安心したような、でも、悲しそうな表情を浮かべていた。
「わたしね、知ってたの。イオがやりたいことあること。でも、わたしには教えてくれなかった。それって、わたしが反対すると思ったからでしょ?」
「‥‥反対しないのか?」
「するに決まってるでしょ!」
エルマが喉を裂くような声を上げた。
「この街の外は危ないんだよ? 日照りが続いてるし、食べ物どころか水も少なくなってるかも知れない。そんな中やっていける? 追い剥ぎだっているかも知れない。怖い思いだって‥‥」
いつしか、エルマは肩を震わせていた。
両の手で顔を抑え、うずくまってしまう。
俺はそっと寄り添い、彼女の震える肩に手を掛けた。
「エルマ」
「なによ」
エルマがぶっきらぼうに答えた。
「ごめんな。いままで。俺、お前にずっと嫉妬してたんだ。悔しくて、悔しくて、耐えられなかったんだ。
最低だよな。お前がいつも努力してたの、俺、知ってるはずなのに」
彼女は天才ではなかった。
ただ、常日頃からやるべきことをこなしていただけなのだ。
学校の成績は、ただそれについてきた結果に過ぎない。
俺は、傲慢で嫉妬深くて、そのくせ怠惰であった。
どうしようもなく救えない男だ。