1-10「花の祝福」
続きです。
惨めだ。
俺はここで死ぬのだ。
暗い闇の洞窟で、誰にも気付かれずに、ひっそりと。
街に戻りたいと思った。
こんな結末は嫌だ。
誰かと触れ合うことの、なんと幸せなことか。
そう思えば、俺の抱いていた夢が無性に馬鹿馬鹿しいものであるように感じた。
この洞窟と街は同じだ。
暗い洞窟から見れば、あの街はキラキラと輝き。
街から見れば、世界は未知にあふれている。
両者は結局、自らにない境遇を求める、ただの好奇心の矛先だ。
エルマ。
君に会いたい。
会って、この夢のことを話そう。
そしてまた叱ってくれ。
今は君のあのお節介の声が聞きたい。
それと、言わなければならないことがある。
すまない。
今まで君に不遜な態度をとっていた。
俺は君の才能に嫉妬し、傲慢にも俺の方が上の筈だなどと、勘違いを起こしていたのだ。
そんな俺に対する説教を受ける覚悟も、今の俺にはあるから。
涙がこぼれた。
後悔の念と、この境遇を招いた自らに対する嘲笑が、腹の中でごちゃ混ぜになっていた。
涙が頬から顎へ、そしてそのまま地面に落ちていく。
パタパタと、いくつもの水滴が地面に落ちた。
その時であった。
涙で濡れた地面がわずかに盛り上がった。
その速度は徐々に加速し。
そして、芽吹いた。
不思議な芽であった。
そこらで見る草木の芽はほとんど緑色だ。
それなのに、その芽は新雪のような白を身にまとっていた。
そして、暗い洞窟を照らすかのように、わずかに光を浴びていた。
次々と落とされる涙を養分としているかのように、その芽はどんどん大きくなっていく。
芽は葉が増え、茎が伸び、それはもう芽ではなくなっていた。
花の蕾があった。
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