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彷徨えるココロ  作者: NON ♪
9/17

義姉たちとの茶番劇

夫の兄夫婦や姉たちにも、義母の様子は伝えていた。しかし誰一人として義母を訪れることはなかった。皆が仕事を持っていたし忙しい毎日を送っているのと、もうあまり関わりたくないというのが本音なのだろう。でも私自身が限界に近づいているという現状を聞いて欲しかった。だらといって何の解決にもならないという事も充分に承知してはいたが、兎に角あなた達の母親の今の姿を知って欲しかった。私たちの苦悩の日々を少しでも解って欲しかった。


少しの時間だけ兄嫁に義母を預けて、私たち夫婦は夫の姉二人と近くのファミリーレストランで待ち合わせをした。義姉たちは私の向かいに座って私の話しをじっと聞いていた。話しているうちに、涙が流れてくる自分を止めることが出来なくなっていた。その間、義姉たちは何も言わずに黙って聞いていた。そうして一通りの話しを終えた私の顔を見て、それを待ち構えていた様に義姉たちは私に向かって言った。『仕方ないじゃない、私たちはもうウチを出た人間なんだから。引き取ったからにはそれなりの覚悟と責任を持って、ちゃんと面倒を見てくれなきゃね〜』 『えっ?』私はもう涙も出なくなっていた。そんな事は解っている。ただ少しだけ私の胸の内を聞いてもらいたかっただけなのだ。まるで拾ってきた仔犬の世話をキチンとしなくなった子供を叱りつけるような目で私を見下ろしながら、そう言い放った。あなた達の実の母親の事じゃないか?どうしてそんな風に冷静でいられるのだろう?不思議でならなかった。『大変やね、頑張ってくれてありがとう、ごめんね…』なんていう言葉を心の何処かで期待していた私が愚かだったのだろうか?そうして、もういいでしょ?といった顔をして二人は先に席を立って言った。『もう帰らなきゃ、私たちも忙しいのだからね!』たったそれだけの言葉を残して二人はさっさと帰って行った。


それから夫が初めて口を開いた。『仕方ないんだよ、解っただろ?俺、聞いたんだよ。店に入る前に姉貴たちが話してるのをね。言いたい事だけ言わせてじっと黙って聞いていよう、絶対にどちらかが同情したりしちゃ駄目だからね、もう関わらないって決めたんだからね、そういう事なんだよ。だからもう諦めるしか無いんだよ…』この人は何を言っているのだろう?諦めるって何を?何という事なのだ!夫は最初から知っていながら、私と義姉たちとの茶番劇を傍観していたのだ。どうして止めなかったのだ?これからずっと先の見えない義母との闘いのような日々を、じっと耐えながら過ごす…そんな現実を《仕方がない事》だと本気で思っているのだろうか?息子たちの日常生活を犠牲にしながら?私は夫さえも敵のように思えてきた。


とうに限界を超えていた私たちに、更なる事件が起こった。私の実家の用事で、どうしても留守にしなくてはならない日があり、一晩だけという約束で何とか母子家庭である義姉に義母のことを託した。渋々ながら嫌味を言われながらも『一晩だけだからね!』と念を押されて。流石に実の母親の事である。私の実家の手前、断り切れなかったのだろう。しかしその日の夜遅く、警察と義姉から私の実家に電話があった。義母が何処かに出て行ってしまって行方が解らないというのだ。私たちは急いで義姉の家へと車を走らせた。義姉の家に着くと、そこには何事も無かったような顔をした義母がちょこんと座っていた。どうやら勝手口から外に出た義母は帰る道が解らなくなり、二軒隣の住人に保護されていたのだ。義姉は私たちに『もう、こりごりだわ!』と言うと義母を追い払うようにして玄関のドアをバタン!と閉めた。義母が実の娘にも見捨てられた瞬間である。私たちは、もう誰も頼ることが出来なくなった事を確信させられた。そうして本当に茶番劇の幕は降ろされたのである。


もうこれ以上、自宅での介護は不可能である。私は夫が仕事でいない間に友人や私の姉やヘルパーさんに相談したり時間を作って義母を見てもらいながら、この状態から脱却する方法を考えて手探りで行動を開始した。必死である。もう夫も頼らず自分で何とかしなければならない。大切な息子たちの為にも、哀れな義母の為にも…それは私自身との闘いの始まりでもあった。 相変わらず義母の奇行は続いていたが絶対に負けるものか!諦めてなるものか!という意地のような気持ちが私の中に芽生えていた。そうなるともう悲しいとか虚しいとか、そんな気持ちも少しずつ消えてゆくから不思議なものだ。今思うとそれは、まだ私が若かったからだろう。今現在の私の年齢で、もし我が母親が同じような状態になったとしたら到底無理かも知れない。息子たちが小学生だったのでパートで働くという事も控えていたし、私自身にまだ体力もあった。何とかその都度、問題行動を回避しながらも、私が行動するしかないと気持ちを奮い立たせながら、ありとあらゆる情報を集めた。しかしそれは思った以上に困難な事でもあった。折れかける心を友人や私の姉に支えられながら私は兎に角、本当に必死であった。


続く…


*注*

この物語は著者の体験に基づくものであるが、登場する人物、団体、場所等は、架空のものである。

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