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彷徨えるココロ  作者: NON ♪
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義母の異変

やっとの事で私は自分たちの希望に近い家を見つける事が出来た。築三年の3LDKの中古物件で、夫の兄や姉たちの住む家からも自転車で行ける距離であり近くにスーパーや病院もある。そうしてまたバタバタと引っ越しを済ませ、何とか落ち着いた暮らしを再スタートした。義母も自室に義父の仏壇を納め、ベランダのプランターに花を育てたりする心の余裕も出てきたようだ。結婚当初の様な平穏な日々。息子たちも義母になつき、近所の方たちともすぐに馴染む事が出来た。同じくらいの歳の子を持つ家族とは家族ぐるみの付き合いもできて皆が心からホッとした。


そんなある日、すぐ近くに新築の家が建ち並び始めた。時はバブル全盛期である。『ちょっと見学に行ってみない?』と近所の友だちに誘われて興味半分で出かけて行った。新築ガレージ付の5LDKの家だ。見学だけのつもりだった私は、冷やかしで値段やローンの組み替えの話しを聞いてみた。すると中古で購入した今の家が倍以上の値段で売れる事、頭金無しで今とさほど変わらないローンでの買い替えが可能な事、ボーナス払いが無いという事も魅力だった。私は夫が帰宅すると、その話しを伝えて買い替えを提案してみた。今、住んでいる家とも目と鼻の先であり、友だちとの交流も今のままでいられる。願ってもない良い話しだと私たち夫婦は思い、夫も乗り気である。これから息子たちが成長しても部屋数が増えるという事も有り難かった。そしてまた引っ越しの準備を進め、無事に新居に落ち着いた。それがいけなかったのだろうか?私たちの暮らしは、とんでもない方向へと向かっていく事になるのだ。浅はかな引っ越しだという事に、私たち夫婦はまだ気づいてはいなかった。


引っ越しをして暫くの間は何事もなく以前と変わらずに穏やかに暮らしていた。息子たちも近所の子供たちと同じ私立の幼稚園に通い、家から200m程の所にある公立小学校に通い始めていた。順風満帆な生活が続いていた。続いていくはずであった。しかしその頃から少しずつ義母の言動に違和感を憶えるようになっていた。『あれ?どうしたんだろう?』といった感じの、ほんのちょっとした変化だったので、さほど気にはしていなかった。よくよく注意しなければ見過ごしてしまうような変化…歳のせいで物忘れや勘違いをする事は誰にでもある。そんな風にしか感じ取れなかった。それくらいゆっくりと、しかし確実に変化していったのだ。日常生活には何の支障もきたしてはいなかったし、ごく普通に時は流れている様に思えた。


これはおかしい…と確信する出来事が、ある朝突然にやって来た。息子たちがいつもの様に集団登校の列に並んでいた時の事だ。その時、義母がベランダから下を覗いて大声で言い放ったのだ。『あんた達、今頃まで何してるの?早く帰らなきゃおウチの人が心配するでしょ!』皆、ポカーンと口を開けて義母を見上げている。思わず私は義母を部屋の中に引き戻して言った。『どうしたの?皆んな今から学校に行くのだから、おかしな事言わないでよ!』今度は義母がポカーンと口を開けて私を見つめて言った。『あ、そうか…』それでも私は未だそれほど深刻に受け止めてはいなかった。きっと義母は何か勘違いをしていたのだろう。そう自分に言い聞かせていた。たぶん私自身が認めたくなかったのだろう。帰宅した夫に今朝の出来事を話す時も、義母と一緒に笑い話の様なことがあってねと、言った。私も夫も当の義母も『何を勘違いしちゃったんだろうねぇ〜』と笑っていた。そうやって笑い話にする事によって、私の頭の隅っこに芽生えかけていた不安を消し去ろうとしていたのかも知れない。けれど笑い話では済まされない様な出来事が、次々と起こり始めたのだ。やはり幾度も引っ越しを繰り返し、環境を変えてきた《ツケ》のようなものが廻ってきたのだろうか?バブルに踊らされた私たちの責任なのだろうか?そんな筈は無い。義母にとっても、やっと落ち着いた生活が戻って来たのだから。私は自分にそう言い聞かせて、あまり深く考えないでおこうと未だ思っていた。逃げていたのだ。でもそれは間違いであった。この頃を境に義母はどんどん変わっていった。義母のココロが彷徨い始めたのだ。全くつかみどころのない、私たちの未知への世界へと。


続く…


*注*

この物語は著者の体験に基づくものであるが、登場する人物、団体、場所等は、架空のものである。


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