昔語りを終え
「――ってな、具合だ……」
昔語りを終えるとデイヴィッドは溜め息を一つ吐いてから話を続ける。
「オレ達は晴れて食糧を得られ生にしがみつくことができき、異海を抜け出して故郷に帰れる。そん時ゃそう思った。……だが、誤算があったんだ」
デイヴィッドは椅子から立ち上がった。
「生きるか死ぬかの瀬戸際だ。そのせいか、オレ等は毒味すらしねえで肉を喰らっちまった。旨い肉だったよ。……あぁ、そりゃあ旨かった。久方ぶりの食事だったんだから当然だ。船員総出で食っても尽きることがない無限の肉。飽きるほどに喰らった。……でもな、おかしいんだ」
骨の指が己の腹を指す。
「食っても食っても飢えは治まらなかった」
腹部の衣服が骨の指に締め付けられギリギリと深いシワを形成する。
「異変は肉を喰らった全員に起こった。どれほど食おうと飢えは満たされずに身体は痩せさばらえていく。日ごと身体から肉が消えていくのに何故か生きていられた。肉は消え失せ皮だけが骨に張り付いてるのにかかわらず……生きていられた。やがて、その皮すら削げ落ちたってのに……」
デイヴィッドは大仰な仕草で周囲に侍る拓未達に己の骨身を強調するように立ち振る舞った。
「――オレ等は骨の身のまま世界に在る」
自傷的な立ち振る舞いにカテナを除く二人は怪訝な表情でデイヴィッドを見た。
「……喰らった者に不死の恩恵――いや、この場合は呪いを与える肉。が正しいか、」
一方のカテナはデイヴィッドの話から推察した意見を口に述べる。
「その通り。元々からしてそうだったのか、それともオレが食わせた果実のせいでそうなっちまったのかは分からねえ。だが、オレ等はその肉を喰らったことが原因で不死者になったってわけさ」
カテナに問われた不死者と成り果てた経緯をようやく語り終えデイヴィッドは椅子に腰を下ろす。
「長話はこれで終いだ」
話疲れたのか座りながら首や肩を回してゴキゴキと音を鳴らした。
疲労する筋肉もないのにそれでどう疲れが癒されるのか、どんな原理で音が鳴っているのか拓未は気になったが、抱いた疑問とは異なる言葉を口にする。
「……アンタ等が不死者になった経緯は分かった。なら、次は」
「お前等を捕まえた理由に、同盟を組んだ訳だよな? 言われなくたって覚えてるさ」
長い昔語りのおかげで霞んでしまっていたが、当初の質問はそれだ。
こうして語り合うまでに至ったそもそもの原因。
それを拓未は知らねばならない。
「第一にお前等を捕まえ――船に招いた理由は使えると判断したからだ」
「使える?」
「まぁ、途中からだったんだが空の上から見ていたんだ。あの人魚の群れを相手に持ちこたえていた。それを見て、一端に戦えるんだってな」
デイヴィッドが言っているのはカテナが展開した氷の半球に閉じ籠っていた一場面。
「アレを見たから、お前等を連れてきた。オレの目的に役立つと、使えると思ったからな」
「……ずいぶんと自分勝手な言い分だが、カテナが同盟を組んだくらいだ。それなりにこっちにもメリットがある目的なんだろうな?」
「あぁ、メリットはある。というか、オレに協力したほうがお前等の――人類の未来の為になるってもんだ」
その時、拓未は相対する骨の顔が笑っているように思った。
肉も皮もない骨の顔に表情などあるわけもないのに、
「人魚を殺す。たったそれだけがオレ等の目的さ」




