同盟会議
拓未が寝かされていたのは島の沿岸部であった。
鈴の案内に従って島の中央へと進んでいったことで拓未はそのことに気づく。
整備された道なんてものはなく、船の残骸で形成された不安定な足場を慎重に進んでいく。
巨大な木片や金属片が積み重なった不安定な道。
踏みしめる場所を間違えば怪我をするのは必至だ。
真理を背負いながらの拓未は最初こそ苦労したが、進むにつれてその苦労は緩和された。
船の墓場。大量の船の残骸がより集まって出来た島。
いまこそ、島という規模だが最初は波間に浮く小さな小舟の残骸だった。
それが長い年月のなか流れ着いた多くの廃船を取り込み今に至る。
つまり、島の奥に進むたび足場を形成する素材は古くなり擦りきれ摩耗している。
鈴が目的地へと至る頃には平地とまではいかないが、だいぶ滑らかな足場に変わっていたのだった。
「あの船は……」
一隻の巨大な帆船がそこにはあった。
拓未はその帆船を知っていた。骸骨の船員が搭乗し人魚と戦っていた海賊船だ。
しかし、記憶とは様相が異なっている。
海賊船は上甲板と船縁の一部を損傷していた。
まるで内側から食い破られたような大穴が拓未の目には映っていた。
「――よォ、目は覚めたかよ犬ッころ」
海賊船にできた大穴に目を奪われていた拓未に乱暴に声が投げられる。
「お前はッ」
声のした方向に目を向けて見れば、そこにいたのは片手で舶刀を弄ぶ骸骨――エドワルドだ。
自らに重傷を負わせた不死者の登場に拓未は臨戦態勢を取ろうとし、
「はい。ストップ」
鈴が両者の間に割り込んだ。
「……鈴?」
「ちょっと、ホネ。アンタ拓未にケンカなんて売ってる暇あるの?」
「ァん? なんだよ嬢ちゃん。あるに決まってんだろガ。そいつのおかげでオレ等の船ァ……てか、ホネって呼ぶんじゃねぇって何度も」
「はいはい。うじゃうじゃいる骸骨をどれがどれだかアタシが判別出来るようになったら名前で呼んだげるわよ。それより、本当にケンカなんて売ってる暇あるの?」
「何度も言わせんなってのっ、オレにはソイツに言ってやりてえことが」
「ふーん、拓未にケンカ売れるほど船の修理は進んだんだ?」
「ぅぐ!」
「ガイコツ船長に言われたんじゃなかった? さっさと船を直せって、こんなとこで油売れるんだから、当然修理は進んだんだよねぇ~」
「て、テンメェ……」
鈴の挑発するような物言いにエドワルドは返す言葉がない。
代わりにカチカチと歯と歯を苛立たしげに鳴らすだけだ。
「お、覚えてろよ! バーカ!」
そして、三下のような捨て台詞を残してエドワルドは船の修理に戻っていった。
拓未はその光景を唖然とした様子で眺めていた。
「……俺の寝てる間に何があったんだ?」
記憶の上では、ついさっぎで殺し合いをしていたエドワルドが鈴に言い負かされて逃げていったのだ。
拓未のなかに渦巻く疑問と混乱は計り知れない。
「ま、そこんとこも説明したげるからさ。行くよっ拓未」
鈴はエドワルドとの一件などなかったように気を取り直して拓未を先導した。
鈴は進む。船の墓場の最奥へと。
そこで待っていたのは、
「――遅かったな駄犬」
尊大な態度の吸血鬼。
「――これで、役者は揃ったな」
骸骨の海賊達を束ねる長。
強大な力持つ不死者二名に木場拓未は迎えられるのだった。
本来は何もない伽藍とした広場だったであろう島の中央部。
そこに椅子やらテーブルやらが持ち込まれていた。
中世の貴族が腰掛けるような装飾華美なソファにゆるりと身体を預けているカテナ。
木組みの粗雑な椅子に座ってサーベルの手入れをするデイヴィッド。
在り方はそれぞれだが両者ともにくつろいでいるのが窺えた。
「ほら、何してんの拓未。適当に座って」
気づけば、鈴も近くにあった丸椅子に腰掛けていた。
この場で立っているのは拓未だけである。
「いや、なにがなんだか……」
一人だけおいてけぼりを食らってしまっている拓未は現状に対応しかねていた。
「なにって、決まってんだろうが」
デイヴィッドは立ち尽くす拓未にこれからなにが行われるかを口にする。
「――同盟会議。これからの道行きを決めようってんだ」




