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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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海賊

 ――その船は空を往く。


「側面カラ攻メルナ砲撃ノ良イ的ダ!!」


 ――縦横無尽に空を駆け人魚を屑る。


「違ウ! 狙ウノハ船底ダ!! 船上ニハ――」


 ――不死者(アンデッド)と成り果てた船員を乗せて。


「そぅらっ!」


 湾曲した短い刀身を持つ刀――舶刀(カトラス)が船上目掛けて直進していた人魚の眉間に投擲される。

 狙い違わず舶刀は人魚の眉間に突き刺さる。

 眉間に舶刀を深く埋め人魚は暗い海へと墜落した。


「どんなもんだ! 見たかよコノヤロウ!! 百発百中、オレ様の超絶コントロ~ルをよぉ!」


 舶刀を投げた男は船上で自身の功績を高らかに宣言する。


「あ~ハイハイ。スゲーすげえー」


 男の隣にいた仲間は感情のこもっていないおざなりな称賛をくれてやる。


「おい、おい、おい、おい! なんだよなんだよ! このオレ様の神業が凄すぎて言葉も無えってか!? 遠慮なんかしねえで、もっと誉めろよコノヤロウっ!」

「…………はぁ」


 仲間は男の興奮した様子にうんざりとした様子で溜め息をひとつ。


「お前、舶刀投げたよな?」

「ん? おうよ! 見事なもんだったろう? オレ様の投擲技術はよお」

「……はぁ、ちょっと見てろ」


 腰に下げた拳銃――フリントロック式ピストル――を抜き放つと仲間は引き金を引いた。

 男は突然の行動に驚くも拳銃から飛び出した銃弾は男のすぐ傍を掠め船上に迫っていた人魚の眉間に孔を穿った。


「お、お見事……」

「見たか? 舶刀なんか飛ばさなくたって、あの魚はぶっ殺せるんだよ」


 自身の投擲技術に勝るとも劣らない射撃技術を見せた仲間に男は息を飲む。


「拳銃の弾なら撃ったあと弾込めすりゃ元通り。でもな……お前、舶刀どうすんの?」

「あ」


 人魚の眉間に刺さった舶刀はいまや人魚と共に暗い海の底へと落ちた。

 空飛ぶ船から降りたところで回収は絶望的。

 弾丸一発と比べ、その損失は明らかに大きい。

 費用対効果が悪すぎた。


「……せ、船長に頼んで新しいのを」

「確実に船長にどやされんだろうな」

「…………お、お前、射撃スゲー上手いし舶刀は要らないんじゃ」

「白兵戦になりゃ要るさ」

「…………どおじよう」


 甲板に座り込みどうするべきか悩む男。


「…………絶対に投げんじゃねえぞ」


 そんな男に舶刀を持った手が差し出される。


「き、兄弟ィ~!?」

「やめろ、気持ち悪い。百年以上つるんでるが、テメエに兄弟呼ばわりされるなんてゴメンだ」

「そんなこと言うなよー、兄弟。この呼び方が嫌ならお兄さまって呼び方でも」

「貸すの止めっかな……」

「ゴメン、嘘です。もう呼びません。お願いします。あなた様の舶刀を貸してください」

「最初っから、そう言ってりゃいいんだ馬ー鹿」


 口こそ悪いもののそこには信頼があった。

 でなければ、おいそれと自身の得物を貸与するなんて行為は出来ない。

 男は仲間から舶刀を借りる。

 白骨の手(・・・・)から白骨の手(・・・・)へ舶刀が移る。


「おっしゃぁ、これで調子出てきたぁ! あんがとな!」


 男は喜色に満ちた顔と声で感謝を伝える。

 確かに声からは喜びを感じられた。

 しかし、その表情からは何も感じ取れない。

 何故なら、男には表情を形作るための顔が無かった。

 その肉体は頭から爪先まで肉も血も通っていない。

 在るのは骨のみ。

 カタカタという空虚な音を響かせながら動く人骨。

 それが男の姿である。

 その仲間も同様だ。

 ボロ布と化した衣服を身につけているだけの人骨。

 人ならざる者――不死者(アンデッド)だ。

 そんな骸骨の船員が船上に船内にひしめいている。

 あるものは砲手を担い。

 あるものは操舵を担い。

 あるものはもう不要となった船医を担っていた。


「…………野郎共」


 そして、その男は骸骨の船員を束ねる者だ。

 元々はそれなりに上等だったろう衣服に身を包み、骨の指には宝石の嵌まった指輪をつけ、腰には舶刀ではなくサーベルを差し、頭に三角帽子(トリコーン)を被っている。

 彼こそ、海賊船フールズコフィン号の船長。

 七つの海を征した男。

 ――海賊、デイヴィッド・ソコル。


「派手に暴れるぞ」

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