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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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目覚める男

 草木も寝静まる深夜遅く。

 焚き火を囲みながら四人は夜明けを待っていた。


「……まだ目覚めない、か」


 拓未はいまだ眠る男を気にした。

 人魚の襲撃から二時間近く、いつまた同じような事が起こるとも限らない。

 休息は諦め真理、カテナ、鈴、拓未は周囲を警戒していた。

 唯一、事情を知っていそうな男は眠り続けていて情報は皆無。

 いま出来る最善策がそれだった。


「でも、人魚ってホントにいたんですね」


 遠目から人魚との戦いを見ていた真理が呟く。


「わたしが知ってるのとは少し違いましたけど……」


 真理のいた地下施設には子供向けの蔵書がそれなりにあり世界三大童話作家が書いた童話を幼い頃に目にしている。

 そのなかで語られた人魚の姫と人間の王子の悲恋の物語から、人魚にメルヘンなイメージを抱いていた真理。

 実際にはカテナに臆せず襲いかかる怪物と知りげんなりとしていた。


「あー、アタシもかな。師匠が持ってた書物にも人魚のことは絶世の美女とか書かれてた。確かに見た目は綺麗だったけど……アレは、」


 鈴の場合、絵本や小説というもので人魚を見たわけではなかった。

 身近にあった蔵書のほとんどが道士に関連する古書ばかり。

 そのなかで大量の妖怪、化物、怪物とされるものたちが記述された図鑑のようなもので人魚の存在を知ったのだった。


「……駄犬もそうだが、どうやら貴様達の間では人魚とはそういう容姿として伝わってるらしいな」


 自らの知る人魚と異なる別物が世界的に広く伝播してる点にカテナは違和感を覚える。


「…………私が眠ってる期間に何かが起きたのか? それともただ人間達の造ったイメージが先行しただけか? …………いや、だが」


 江戸時代の日本においてカテナのいうような人面魚に近い形の人魚の存在は確認されている。

 だが、それくらいなのだ。

 世界各地で語られる人魚の伝承。

 そのほとんどがヒトの上半身に魚の下半身という一般的な人魚象。

 この差違が何を意味しているのか答えを得るためカテナは思考を加速させようとする。


「そういえばカテナ、その腕は大丈夫なのか?」


 しかし、拓未の声がそれを遮る。

 人魚に喰われた腕は高速再生能力により治療され綺麗に治った。

 それは拓未も確認している。

 だが、何故かその喰われた腕には黒い布が巻かれダラリと垂れ下げられ微動だにしていない。


「……フン、腹立たしい事だがあまり芳しくはないな」


 その布はカテナの魔力により編まれた物だった。

 カテナの纏う漆黒のドレスもまた魔力の産物だ。

 その強度は凄まじく防刃、防弾はもちろんのこと。

 防火、防水、防電、防爆、防毒と優れた機能を有している。


「コレを巻かねばならぬほどにはな、」


 喰われた腕は見た目こそ回復していたが、その機能まで回復したわけではなかった。

 いまも鈍く痛み十全な働きは望めない。


「まぁ、この状態になったことで分かったこともある。あの魚が何故私を真っ先に襲ったのか? それは」

「――あの人魚が不死者(アンデッド)を喰らう存在だからだ」


 カテナが言おうとした言葉を低い男の声音が引き取り答えた。


「アンタ、目を覚ましたのか!?」


 焚き火のそばで眠る男はその身を起こす。


「つい、今しがたな」


 その場で胡座をかくとグシャグシャと頭を掻いた。


「不死者を喰らうってどういうことだ!? それに外国人なのにその流暢な日本語はいったい?」


 人魚の弱点を教えてくれたときも、目覚めたいまも男は日本語を喋っている。

 外国語訛りのない完璧な日本語を。


「どうやら、貴様は色々と知ってるらしいな小僧?」


 自身が導きだしたのと同じ答えを口にした男にカテナは興味を抱いた。


「なぁ、アンタ! 知ってることがあるなら教えてくれないかっ」


 人魚についての知識を持つ謎の男に拓未は迫る。

 得体の知れない敵――人魚への対抗策。

 それを素性も知れない男に問うのもおかしな話だったが拓未は強く迫った。


「あー、その前にだ。こっちも教えてほしいことがある」


 男は拓未達四人を見回してから尋ねた。


「――オレはいったい何者なんだ?」

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