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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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蒼の異形

「……まったく貴様は毎度毎度、よく飽きもせずに拾い物ばかりしてくるものだな。犬の性というやつか?」


 呆れた顔でカテナは拓未を睨み付ける。

 拓未はそれを甘んじて受け入れた。

 時刻は真夜中。

 日付が変わってから一時間経つかという頃。

 真理と鈴はとっくに眠っていて、拓未とカテナだけが焚き火の前で言葉を交わしていた。


「……いや、自分でもこうポンポンと人に巡り会うなんて思ってなかった訳で。それに、倒れてる人間がいれば助けたいと思うのが人の性な訳で……」


 拓未の視線が焚き火の近くに寝かされた外国人に向けられる。

 真理と鈴に続く、拓未が助けた三人目の人間だ。

 助けたといっても、ほとんど外傷は無かったので拓未がした事といえば、濡れた服を脱がせ身体を拭いて、自身の代えの服を着せただけである。

 それでも、助けたことに違いはない。

 あのまま海岸に置いていっていれば死んでいただろう。


「ヒトが激減したこの世界で歩を進める度にヒトと出会うなど、ほとんど呪いに近いぞ駄犬」


 薄気味悪いモノを見る視線をカテナは拓未に投げる。

 寒がるジェスチャー付きだ。


「はいはい。以後気を付けるし、呪いの解除もいずれするよ。……で、その人はどうなんだ?」

「わからん」

「は!?」


 拓未が発した「どうなんだ?」という言葉。その意味はカテナに不死者かどうかを問い掛けたのだ。

 カテナには不死者を察知する能力がある。

 男を発見した海岸に近づいた時、カテナの入った棺桶は微動だにしなかった。

 その時点で一応の安全は確認出来ていたが、拓未は念には念を入れて夜になり目覚めたカテナにもう一度確認してもらっていた。

 その結果がこれだ。


「わからんって、それはどういう……」

「わからんものはわからんのだ。コイツは何とも言えん」


 唇に指を押し当ててカテナは自身の見解を口にする。


「……ヒトなのだろうが揺らぎ(・・・)がある」

「揺らぎ?」

「説明はせんぞ。言ったところで理解は出来ん」


 カテナの眼にはヒトでは捉えられないモノが色々と見えている。

 それは紫外線であったり、不可視の霊体であったりと様々だ。

 色で説明すれば分かりやすかったが、面倒なのでカテナはしなかった。

 通常のヒトを白だとしよう。

 逆に不死者は黒だ。

 普段は感覚で不死者かどうかを自動的に判別するが、カテナは自らの眼で判断するなら、そういった色の違いで不死者かどうかを見極める。

 白ならヒト、黒なら不死者と簡単な見分け方だ。

 だが、男を見たカテナはその簡単なはずの判別に迷った。

 揺らぐのだ(・・・・・)

 基本的に白く見える男は時折、映像にノイズが走るかのように黒く染まるのだ。

 白と黒を行き交う男。

 カテナが分からない――解らない――判らない――と、口にするのも無理はない。


「……肉体があることから見ても亡霊(ゴースト)に類する精神体の不死者である可能性は低い。かといって、感染者や共生者という訳でもない。……強いて、近しいものを上げるなら、」


 ――鏑木仁乃かぶらぎじんない

 その男の名が脳裏を掠める。

 明確な殺意をもって相対したカテナからまんまと逃げおおせた怪人物。

 拓未達一行が北を目指す理由をつくった元凶。


「…………近づいたということか?」


 その考えは早計だと分かっていたがカテナは完全に捨てることも出来なかった。

 鏑木仁乃が、もしくは奴の拠点が近いのかもしれない。

 この金髪の男は奴が造った実験体の一つではないか。

 そんな憶測をせずにはいられなかった。


「……駄犬、貴様いまどれくらい回復した?」


 キョンシーとの戦いからそれほど日は経っていない。

 傷はほとんど回復していたが、拓未の疲労は癒えていない。

 毎日、歩きづめであるからには仕方のないことだ。

 拓未はカテナの質問の意図を理解できなかったが正直に答える。


「六割弱ってとこかな。戦闘には支障ない」

「……そうか、」


 その答えにカテナは苦い顔だ。

 鏑木仁乃。得体の知れないあの男と遭遇するかもしれない状況で本調子でないことに危機感を抱く。

 自分一人ならいざ知らず、本調子でない拓未を連れてでは色々と問題がある。

 カテナは苛立ち、今後の行動をどうするか思案した。

 その時だ、


「……なんだ、コレは?」


 カテナの探知範囲にソレが入った。


「……潮の匂い、」


 拓未の鼻もソレを感じとる。

 海が近いから潮の匂いがするのは当たり前。

 だが、その匂いは噎せ返る程に濃く吐き気を催すほどだった。

 二人の視線がソレに向けられる。


「アレは、」

「いったい何だ?」


 酷道から海岸線に向けられる視線。

 海の上にソレは立っていた。

 蒼い皮膚をしているが上半身は美しい女そのもの。

 腰まで届く翡翠色の髪を潮風になびかせている。

 その下半身は魚のもので、腹ビレや尾ビレが確認出来た。


 ――人魚がそこにはいたのだ。

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