異海
――七つの海を制覇した男達がいた。
太平洋。
大西洋。
インド洋。
地中海。
カリブ海。
メキシコ湾。
そして、北極海。
七つの海を股に掛け男達は世界中を航海した。
自らが乗り込む船に髑髏の旗を掲げながら。
時に商船を襲って略奪の限りを尽くし。
時に軍船と戦って大海に血と炎の華を咲かせた。
自由気ままに人生を謳歌する男達は最後の航海である北極海からの帰路、船上で宴を開いていた。
この日ばかりは大盤振る舞いと上等な樽酒が幾つも開けられ船員達は溺れる程に酒を飲みまくった。
時間が経って酔いが回ると船上のそこかしこで殴りあいが始まる。
喧嘩だけでなく歌を唄う者や踊り出す者も現れて、それぞれに酒を楽しんでいると誰かが夢を語りだした。
自分はこの航海が終わったなら陸に降りて野良仕事をしてみたい。と赤ら顔で語ってみせた。
宝島に隠された財宝や商船から強奪した金品。それらは船員達に報酬として分配される手筈となっている。
夢を語った男はその分配される報酬を使いその夢を実現するつもりなのだ。
それを聞いた他の船員が男に続き次々と夢を語りだす。
オレは報酬を貰ったら酒場を開く。
オレは娼館の娘を見受けする。
オレは新しい船を買ってまた海に出る。
凶悪な面に愉快そうな笑みを刻んで男達は口々に夢を語った。
この航海も港に到着するまでのあと二ヶ月で終わりかと思うと寂しく、船員達は笑いあいながらも迫り来る別れに哀愁を感じていた。
……だが、彼等の航海は終わらなかった。
予定していた二ヶ月が経過しても彼等は港に辿り着けなかった。
――彼等は八つ目の海に辿り着いてしまったのだ。
既存の海図も羅針盤も意味を為さない異なる理によって支配される異海。
彼等はそんな異世海を彷徨った。
蛸や烏賊に似た化物と戦い、目まぐるしく変わる天候にも負けず異海の海を生き抜いた。
しかし、弾薬が底を尽いた。
次いで、食料が底を尽いた。
やがて、身体からは肉が削げ落ちほとんど骨と皮だけになってしまう。
もう誰もが生存を諦めかけた。
元の世界へ帰るために続けてきた航海の終わりがこんな結末になるなんてと嘆いた時、船長がソレを手にし現れる。
肉だ。
淡いピンク色をした肉塊を船長が手にし船員達に喰えと促した。
いったい何の肉かなんて言葉は誰も吐かない。
全員が肉に貪りつく。
限界の飢餓状態にあった彼等にもたらされた救いに無我夢中で食らいつく。
船長は何度も何度も謝罪の言葉を口にしながら、船員達と共に肉を食べた。
そうして彼等は、
――不死者となった。




