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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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髑髏

「……不死者じゃないみたいだな」


 浜辺に寝かせた男の安否を確認し終えると、拓未は物陰に隠れているように指示していた真理と鈴に出てくるように促す。

 木樽に入っていた謎の男。

 拓未はまず二人を下がらせると、男が不死者かどうか確認した。

 服を脱がせて肉体を検分し、噛み傷の痕や寄生痕(きせいこん)がないか探した。

 それが無いと確認してからようやく生死を確かめる。

 男は生きていた。

 心臓の鼓動と脈がある。


「金色の髪……」


 真理は男の髪色に見とれた。

 美しいブロンドの髪は海水に濡れてキラキラと陽光を反射させ輝いていた。


「……外国人、か」


 白い肌に金色の髪。

 無精髭を生やした三十代前半くらいの白人の男だった。

 どこの国の人間かは拓未にも分からない。

 拓未の人生に外国人との関わりはほとんど無く一目見ただけで、その出身地を看破など出来なかった。

 きっと欧米出身なのだろうと適当に当たりをつける。

 

「特に外傷は無いし、気を失ってるだけだな」


 素人判断であったがそう断定すると拓未は男を担ぎ上げる。

 いつまでも浜辺に寝かしてはおけない。

 目覚めた時に言葉が通じるか不安だったが、拓未は男を助けることにした。


「鈴、俺はこの人を介抱する。もしかしたら、まだ他にも漂流者がいるかもしれない。鈴はその捜索を頼む、真理は俺を手伝ってくれ」


 ボロ布と化した衣服を纏って浜辺にいたことから拓未は男を外国からの漂流者と判断した。

 そして、鈴に他にもいるかもしれない男の仲間を捜索させた。

 いまだ浜辺の安全は確保されていない。

 その事からも捜索には道士である鈴の方が適任なのだ。


「わかったわ拓未! ちょっと見てくるっ」


 拓未達は男を介抱するために酷道へと引き返し、鈴は桃木剣を手に漂着物に溢れる海岸を進んで行く。

 木片、プラスチック片、金属片、ガラス片、原型を留めずに流れ着いた漂着物で海岸は酷い有り様だった。

 下手に歩けば危険物を踏み抜き大怪我をする恐れもある。

 真理が降り立った海岸入り口はそれほどでも無かったが、鈴が進んでいった先は進む度に危険度が増していく。

 錆びついた釘が飛び出す木片が、割れ尖ったガラス瓶が切っ先を上向けて砂の中で息を潜めて待っていた。

 だが、鈴はそれらを踏むことなくするすると進んでいく。

 まるで地雷源のような危険地帯と化した場所を危なげなくだ。


「……うーん、いないなぁ」


 鈴は直感的に海岸に埋もれた危険物を察知していた。

 それはカテナの探知能力に良く似たものだ。

 無意識ながら鈴は自らの周囲に微量な霊力を放出させていた。

 バリアのように展開された霊力のフィールドに危険物が触れる。

 それを鈴は無意識に感知。

 危険物を避けて移動。

 と、簡単な仕組みである。

 至近にしか働かない危機察知能力だったが、鈴はこれにより危険地帯を難なく進めた。

 既に一時間は歩いただろうか。

 結構な時間を捜索した鈴だったが、漂着者の姿は見当たらない。

 まだまだ海岸線は続いていたが、これ以上の捜索は無意味だと鈴は踏ん切りをつける。

 大量の漂着物があったせいで慎重に進まねばならず、あまり多くの距離を探せた訳ではない。

 だが、ここらが潮時だった。

 探そうと思えば徒歩で立ち入れる海岸線の先の先にまで捜索範囲を広げられた。

 しかし、何事にも限度というものがある。

 鈴一人でそんな遠くにまで移動して何か別種の危険に遭遇する可能性はゼロではない。

 鈴は師匠より生きて欲しいと願われている。

 もしも、生きてる漂流者がいるのなら救ってあげたかったが、まずは他人より自身を救う方が先決なのだ。

 一時間掛かる距離を歩いてきた鈴。

 拓未達とはかなり離れてしまった。

 そろそろ戻るのが正しい判断なのだ。


「……ん?」


 そうして鈴が帰路に着こうとした時だった。

 波打ち際に立っていた鈴の足に一枚のボロ布が絡みついた。

 鈴は絡みついたボロ布を手に取った。

 黒い大きな布であった。


「なんだろ、これ?」


 布にはとある白い模様が刻まれていた。


「……ま、いいか」


 鈴はその模様が少しだけ気にかかるも、すぐに気持ちを切り換えて帰路を急いだ。

 ボロ布は海へと返した。

 海へと返ったボロ布はゆらゆらと波間を漂う。

 その布の中心には、


 ――髑髏(どくろ)が刻まれていた。

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