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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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道士

「へー、拓未も北を目指してるんだ。奇遇ね、アタシもよ」


 一息ついた拓未は鈴に自身が山門に行った理由を語った。

 詳しい事情は省き、大雑把に北を目指してる道中であり食料確保の為だったと。


「そっちも北を目指してるってことだけど、なんでなんだ?」


 まさか自分達以外にも旅をしてる人間がいるとは思わず拓未はその理由を聞いてみた。

 よっぽどの事が無い限り、こんな世界で旅なんて出来ない。

 ただ日々を生きていくだけでも困難であり、安全な生活圏を得るのも一苦労。

 もし生活圏を手に入れても、毎日を不死者と猛獣の脅威に怯えながら暮らさなくてはならない。

 そんな世界で鈴みたいな女の子が一人で旅をしてる理由を拓未は聞いてみたかった。


「……アタシ、捨て子だったの。捨てられたのは赤ちゃんの時なんだけど、理由は……まぁ、言わなくても分かるか」


 鈴が敢えて語らなかった理由を拓未はきちんと知っていた。

 こんな劣悪な状況にある世界だ。子供、特に赤ん坊となると足手纏いにしかならない。

 腹が減れば泣き、排泄すれば泣き、眠ければ泣き、異常を訴える為に泣く。

 常に息を潜め不死者と猛獣等の危険から隠れなければいけない中で、赤ん坊の存在というのは自分達の生命を危機に曝しかねない。

 だから、捨てるのだ。

 とても身勝手で許せるような行為ではない。


「その辺の路上にゴミみたいに捨てられたアタシはそのままだったら一日も経たずに死んじゃってた。……でもね、師匠が助けてくれたの」


 沈静化し直立不動で佇む自身の恩人を鈴は見つめる。


「師匠はアタシを拾って育ててくれた。その恩を返すためにアタシは師匠を生まれ故郷に返してあげたいんだ。だから、旅をしてるの」

「……一つ、聞いていいか?」

「なに? アタシに答えられることなら答えてあげるけど」


 拓未は気になっていたことを聞いてみる。


「……キョンシーって、なんだ?」


 捨て子であった鈴を育てたという師匠。

 まさか、現在の状態で育てたということは無いだろう。

 拓未の予想では、キョンシーとは人間から変化した不死者だ。

 そうでなければ、赤ん坊の鈴を育てられたはずがない。

 屍体でも感染者でもない、未知の不死者――キョンシー。

 拓未はその全容を知りたかった。


「……うーん、アタシも詳しくは知らないんだよなー。確か、本来は自然発生する不死者の一種だったんだけど、何百年か前の戦争で大量の人が死んじゃった時、一人の道士(どうし)が人間をキョンシー化させる術を編み出した。ってのが起源だったかな?」


 拓未の予想通り、キョンシーは人間から変化する不死者であることが判明した。


「じゃあ、鈴の師匠も元は人間だったんだな」

「えぇ。師匠はスッゴい道士だったんだから」

「あ、もう一つ質問。さっきから聞く道士ってのは?」


 鈴との会話の中で度々出てくる道士という言葉の意味を拓未は尋ねる。


「道士っていうのは、不老不死の仙人になるのを目的に修行する人間のことよ。でも、アタシも師匠も不老不死なんて興味無くて、生きるために道術を使ってただけだから……うーん、それでも道士って言えるのかな」

「不老不死が目的?」


 なんとも怪しげな単語に拓未は怪訝な表情を浮かべた。


「言っとくけど、即物的な考えで不老不死になりたい。って訳じゃないんだからね。『(タオ)』っていう宇宙の真理を……って、ダメだ。師匠には教わってたけど小難しい話嫌いだから説明無理。とにかく、不老不死の仙人を目指してる道士は不純な気持ちとか営利目的じゃないってこと。もちろん、アタシと師匠も!」

「わ、わかった。良くわかった」


 押しきられた気もするが、なんとなく道士については分かった拓未。


「……はぁ、なんだか質問攻めにされたせいで疲れたな」


 溜め息を吐くと、鈴は桃木剣を鞄に仕舞った。


「さて、支度も済んだし早く行くわよ拓未」


 鈴は鞄を背負うとずんずんと迷いなく歩き出した。


「行くってどこに?」


 当然の疑問を拓未は口にする。


「もちろんアンタの仲間のとこだけど?」

「え!?」


 鈴の返答に驚く拓未。


「だって、アンタ達も北を目指してるんだからちょうどいいじゃない。一緒に行きましょうよ」

「いや、それはそうだけど……」


 拓未としても鈴一人をここに置いて、はいサヨナラ。と、この場を去るつもりはなかった。

 というか、置いてきぼりに出来るほど非情な心を拓未は持てはしない。


「北を目指してるってことだけど、鈴の目的地は決まってるのか?」

「えぇ。師匠の出身地は福島ってとこなの」

「……福島県か」


 頭の中で拓未は日本地図を拡げる。

 現在地は北関東の田舎で、そこから福島までの距離を考えると早くても十日は掛かるだろう。


「なになに拓未ってば、福島がどこにあるか分かるの?」


 拓未の考え込む反応から、鈴は期待のこもった眼差しを向ける。

 この山門で拓未と出会うまで鈴は大雑把に北を目指していた。

 読み書きは師匠より教わっていたが、日本の詳細な地理など教わっていなかった鈴。

 一応、北海道、東北、関東、関西、九州地方、沖縄と簡単な区分けでは教わっているが、詳細には分からない。

 福島県が東北にあると知っていたのも師匠が自身の出身地であると語っていたからだ。


「……いや、まぁ一応は分かるけども」

「ホント! だったら、なおさら一緒に連れてってよ!!」


 鈴は拓未に頼み込んだ。

 自分一人ではいつ到着できるか――いや、生きて辿り着けるか分からない。

 鈴は拓未に懇願した。


「…………うーん」


 別に福島を目指すことに問題はなかった。

 元々、明確な目的地もなく北を目指していた旅だ。

 拓未のなかで、最終目的地は北海道に設定されているので福島はその通り道である。

 寄り道にもならないだろう。


「なにか、問題でもあるの?」


 目を瞑り唸っている拓未に不安げな表情を浮かべる鈴。


「……いや、問題は――」


 二つあった。

 その一つはカテナ。

 気難しい不死者の王が足枷になっていた。

 キョンシー連れの鈴をカテナに引き合わせたら無益な衝突があるかもしれない。

 それを拓未は不安視していた。

 そして、もう一つ。


「……食料がな」


 拓未がぼそりと呟いた。

 これこそ、正に死活問題。

 拓未が林道を越え山に入ったそもそもの理由だ。

 もう食料在庫がほとんど残されてない。

 今回の調査で収穫も無かったので絶望的な状況だ。

 そんな状況で、もう一人同行者を増やすなど愚行に過ぎる。


「あ、そっか。拓未、アンタって食料探しにここに来たんだったわね」


 ポンと手を叩き、拓未が悩む理由の一つを察した鈴はニヤリと笑った。


「拓未。アタシもタダで同行させてくれなんて言わないわ」


 鈴は大きな鞄をゴソゴソと探し目的の品を手に取る。


「同行させてくれるんなら、アンタ達の食料問題をアタシが解決してあげるわ……」


 鈴は布製の袋に入ったそれを拓未に手渡した。

 拓未はそれを受け取り、中身を確認する。


「……これは――」


 ――拓未は鈴の同行を許可することにするのだった。

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